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地球低軌道の未来を支える -ワープスペースの光通信ネットワークWarpHub InterSat-

商業利用として世界初の衛星間光通信ネットワークの構築を目指す、株式会社ワープスペース(以下、ワープスペース)。

 

従来、宇宙空間における通信は電波通信が主流でしたが、近年は光通信技術が注目されています。今回はこの光通信を用いてワープスペースが構築を目指す衛星間のネットワーク「WarpHub InterSat」、そしてワープスペースが目指している未来について、同社の國井仁氏と高橋亮太氏にお話を伺いました。


Credit:ワープスペース

 

「超小型衛星×通信」事業を始めた背景

ワープスペースの設立の発端である「結」プロジェクト。

2011年、当時の筑波大学の学長の声掛けにより始まった衛星開発プロジェクトです。

(以下、國井氏)

実は筑波大学には航空宇宙系の学科は存在していないのですが、学際教育が特徴の一つです。そのなかで、衛星開発プロジェクトをやりましょうという当時の学長の方針でスタートしました。

その際にプロジェクトをリードしていたのが、弊社の現取締役会長で、創業者である亀田です。

結プロジェクトで打ち上げた二基を実績として、商用化を目指し2016年にワープスペースとして法人化しました。

その後、2016年より社外取締役としてワープスペースに参画していた常間地が、2019年よりCEOに就任し、ピボットをしていく中で、衛星間光通信事業にシフトしました。


近年、地球観測を目的とした地球低軌道上の衛星数が増えてきています。しかし、地上に固定されたアンテナと通信できる時間は限られており、取得したデータを十分に地上に降ろせていないという課題が生じています。そのような現状の中でも今後も拡大し続けることが予測されている地球観測市場を最初のターゲットとして、人類の本格的な宇宙への進出に伴ってシスルナ圏や深宇宙まで、宇宙空間における次世代の通信インフラを構築することをワープスペースは目指しています。

 

地上の通信が電話回線から光通信へと進歩したことで、私たちの暮らしが劇的に変化したのと同様に、宇宙にも新しい通信インフラを構築できれば、一次産業から物流業界、災害対応など、幅広い分野で貢献できると信じています。

Credit:筑波大学

 

宇宙業界で感じること

同社設立の発端となった結プロジェクトをはじめ、2011年より約10年に渡り宇宙業界に携わっているワープスペース。現在に至るまで、宇宙業界での変化や気づきについて國井氏は次のように語ります。

(以下、國井氏) 

私は長く宇宙業界を見てきたわけではないので、弊社のメンバーがいつも話していることや業界ニュースを見聞きして感じたことにはなりますが、「なんとなく宇宙ビジネスは面白そうだな」、というところから、しっかりとビジネスとして成立させる必要があるフェーズに移ってきていると認識しています。

つまり、新しい産業としてなんとなく注目を集めていたフェーズから、きちんとマネタイズし、持続的に事業を回していく必要がある、本当の意味で自力というものが求められているのではないかと思います。

宇宙スタートアップの数もかなり増えてきていますので、これから先5~10年はどのように多様性が拡張されていくのかを非常に楽しみにしています。

 

今回、取材に応じていただいた國井氏と高橋氏はもともと宇宙業界とは関係ないところから同社にジョイン。自分たちのように全く宇宙のバックグラウンドがないような方たちを宇宙業界に増やしていく必要があると感じている、と語ります。

 

そして今後の宇宙産業にはどのようなことが必要であると感じているか、國井氏に伺いました。

(以下、國井氏)

宇宙業界はほかの産業に比べ、開発にかかる時間の長さ、そしてコストとい2点で大きく違うと感じます。

 

売り上げがない状態で、大型の資金調達を繰り返し、何年も先を見越した事業を進めていくところは、より短期で開発から事業化まで進むソフトウェア業界とは大きく違っている点だと感じます。

宇宙産業というと、よくエンジニアバックグラウンドと言われることもありますが、モノをつくる役割だけでは産業は成長・発展していきません。ロケットや衛星のハードやソフトウェアを開発するエンジニアチームに加えて、サービスとしてユーザーに届けるセールスや、デザイン、PRや広告宣伝など、会社として回していくために必要な機能は、当然ハードテック系のスタートアップにも求められます。そのような側面においては、必ずしも既存の宇宙産業に関わってきた方にしか機会がないというわけではなく、むしろ製品の成長曲線に沿って活躍をされてきた他業種の方が活躍できるフィールドが大いににあると考えています。そのため、これまでビジネスという観点から宇宙に関心をもっていなかった方に、しっかりとその価値を発信し理解していただくこと、だれしもが挑戦できる環境を整えることが重要だと思います。

 

 

世界初の衛星間光通信ネットワークサービスWarpHub InterSat

 

近年、地球低軌道上の衛星が増えてきている中で、宇宙と地上とをつなぐ通信がボトルネックとなり、大量の地球観測データを地上に送信できていないという課題があります。これにより、約20兆円の機会損失が生じているとも言われています。

(以下、國井氏)

地球観測をミッションとする低軌道衛星は、高度約400km~1,000kmのところを周回しているため、非常に地上から近いところを飛んでいます。

軌道上を周回する衛星から、一地点にある地上局が見えている間は通信が可能ですが、その時間は僅かであり、低軌道衛星が地球を1周回する90分のうち、約10分程度しか地上局と通信ができていません。

そのため、衛星が取得した観測データを十分に降ろせていないのです。

 Credit:ワープスペース

 

 

また、地上局を利用して通信をする場合は国際機関による周波数の「交通整理」(国際周波数調整業務)が求められています。

無線通信システムが使用する周波数が他国の無線通信システムに対して影響を与えないように、国際電気通信連合(ITU)が定める無線通信規則の規定に基づき、周波数について技術的な調整を行う必要があります。

 

この調整業務は衛星一基あたりにつき、現状では約2年かかると言われており、大型のコンステレーションを打ち上げる場合は非常に時間がかかるため、大きなボトルネックとなっています。

 

こうした通信の課題を解決するために、地上局の数を増やすという方法もありますが、地球上の約7割は海が占めているので、どんなに地上局の数を増やしても物理的に通信ができない時間が生じてしまいます。

 

上記のような課題に対する画期的なソリューションとして、ワープスペースでは衛星間光通信ネットワークを開発しています。

(以下、國井氏)

ワープスペースでは、低軌道より高い中軌道3基のデータ中継衛星を配置します。

そのデータ中継衛星と、お客様となる地球観測衛星との間を光通信でつなぎます。

そのネットワークを介して中継したデータを、ワープスペースの中継基が地上局へと代わりにダウンリンクするというのが初期世代のコンステレーション設計になります。

これによって、まず、地球観測衛星から個別に地上へとダウンリンクをする必要がなくなるため、地球観測衛星事業者は周波数調整業務をする必要がなくなります。

そして、光高速通信によりデータ転送量が多くなり、かつ私たちの衛星から常時地上へとデータを送り続けることができるようになります。

 Credit:ワープスペース

 

 

WarpHub InterSatが実現する未来とは

 

現在開発が行われているサービスが確立されると、大量の観測データを地球に送信することが可能となり、今まで以上に多くの地球観測データを利用することが可能になります。

 

具体的に衛星データをどのように活用ができるのか、國井氏にお話を伺いました。

(以下、國井氏)

例えば農業では、観測衛星データを利用することで農業に適した土壌の検知や、適正な収穫時期を知ることができます。その結果収量の増加に繋がり、効率的な栽培が可能となります。さらに違法な焼畑農業を観測衛星で検知することができれば、阻止することもできます。

また、物流の可視化によって、物流を最適化できるようになってきました。

防災面での貢献も著しく、直近の事例でいうと、2022年115日に起きたトンガ島の噴火の際にも衛星データが利用されました。

近年、様々な分野で衛星データの活用事例も増えてきており、さらに安定した通信インフラを構築できれば、今後、地球を見える化することによる新たなソリューション開発の流れは加速していきます。そのために、次世代の光通信ネットワークを開発している私たちだけでなく、地球観測データを実際に使っているエンドユーザーの方々にも協力をいただき、川上から川下まで巻き込んだエコシステムを構築する必要があると考えています。

 

宇宙空間における通信インフラの拡張は、地球軌道だけでなく、月開発や火星探査といった、将来的な深宇宙探査ミッションへの貢献にも繋がります。さらに、現在地上における通信の基盤となっている海底ケ-ブルを、衛星間光通信で補完ないし代替する可能性も検討されており、衛星を介した大陸間通信を実現できれば、地政学的なリスクの低減や大幅なコスト削減に繋がります。

 

最後に、今後の宇宙産業に期待していることについて高橋氏と國井氏にお聞きしました。

(以下、高橋氏)

衛星データのアプリケーションがより多様化し、弊社のサービスも普及していけば、防災、防犯、資源管理など、社会インフラとして重要な役割を持つようになっていくと思います。

即時的な通信ができるようになれば、被害状況をより迅速に、かつ正確に把握できるため、より機動的な災害対応や、保険サービスの業務改善にも繋がります。温暖化を原因とする大規模災害はいまや世界中で頻発していますが、衛星データを活用することにより、事実に基づいた適切な対応をミクロからマクロの層まで社会全体で行えるようになり、持続的でレジリエントな社会を構築できるのではないでしょうか。

 

(以下、國井氏)

軍事目的を背景にインターネットが進化し、民間へと普及したように、国防などを起点として新規技術が発展する流れは宇宙業界にも起こるのではないかと考えています。

インターネットの発展と比べれば、宇宙産業はまだ初期の成長段階にあると言えますが、今後は健全な競争ができる環境になっていくといいのではないかと思っています。

弊社は世界初の衛星間光通信ネットワークサービスを掲げて開発に取り組んでいますが、我々一社だけで急成長するマーケットニーズに応えていくのは不可能です。

世界的に競合といわれる会社10社にも満たない中で、お互いを蹴落とし合うのではなく、相互に補完し合っていくような関係性を構築していきたいと思います。

同社社員の皆さん 
Credit:ワープスペース

 

Emily Ito