人類が再び月面へ着陸することを目指す「アルテミス計画」の準備が進められています。この計画で、地球と月を結ぶ「中継点」となるのが月周回有人拠点「Gateway(ゲートウェイ)」と呼ばれる宇宙ステーションです。将来的には、月面だけではなく、火星へ行くときの拠点として利用されることが想定されています。前編では、ゲートウェイの役割を紹介し、国際宇宙ステーション(ISS)と比較、その詳細に迫っていきます。
オライオン宇宙船がドッキングした月周回有人拠点「Gateway」
(Credit: NASA/Alberto Bertolin)
ゲートウェイとは?
Gateway(ゲートウェイ)は、月周回軌道に投入される、いわば「月の宇宙ステーション」です。アメリカ航空宇宙局(NASA)が開発をリードし、国際宇宙ステーション(ISS)に参加している世界各国の宇宙機関(アメリカ、カナダ、ヨーロッパ、日本、ロシア)が協力して検討、開発が行われます。また、民間企業も製造や物資補給で参加します。
ゲートウェイの役割
ゲートウェイの主要な役割を一言で表すと「中継点」です。
まず、月軌道から月面までのアクセス地点として用いられます。地球を飛び立ったオライオン宇宙船は、ゲートウェイにドッキング。飛行士は、ゲートウェイにドッキングされている月着陸船(HLS)に乗り換えて、月面を往復します。
次に火星への有人飛行がその理由の一つです。ゲートウェイを用いるアルテミス計画では、人間が火星へ行くことまで視野に入れています。そのために、まずは月面で様々な探査や技術実証を行い、習得した技術を火星探査へ生かします。しかし、宇宙飛行士を直接火星へ送ることは燃料や生活で必要な物資の量を考えると、長期間になるため、かなり無理があります。そこで一度、ゲートウェイに宇宙船をドッキングさせ、物資や燃料の供給を受けた後、火星に向けて出発するという流れが想定されています。
「中継点」の他にも、月という特殊な環境を生かした観測や実験、探査が行われる「実験室」でもあります。この点については、後編で日本や世界各国との役割の中で解説します。
国際宇宙ステーションとの比較で知るゲートウェイ
地球低軌道を周回する国際宇宙ステーション(ISS)。最新技術で開発されるゲートウェイとISSにはどのような違いがあるのでしょうか。比較をしながらゲートウェイについて迫ります。
ISSとGatewayの比較 SPACE Media編集部作成
引用:国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構(JAXA) 国際宇宙探査センター/有人宇宙技術部門, Gateway利用に関する検討状況について(2021.2.2)p10, 11
○大きさ:ISSの6分の1
正確な数値は明らかになっていません。ちなみにISSは約108.5m×72.8mの大きさで、サッカー場ほどの広さがあります。
○居住空間:2つのモジュール
国際居住棟「I-HAB」と初期居住棟「HALO」の2つ。ISSは9つの居住モジュールがあります。
○補給フライト:年1回
ISSでは1年に8回、物資や実験装置などの補給を実施しています。一方で、ゲートウェイの補給は1年に1回になる見込みです。なお、ゲートウェイへの物資輸送は、SpaceXが開発する補給船「ドラゴン」を改良した「ドラゴンXL」を使用する予定です。これは2020年3月にNASAとSpaceXの間に結ばれた「Gateway Logistics Services」契約に基づいて行われます。
ゲートウェイに接近する補給船「ドラゴンXL」(Credit: NASA)
○宇宙飛行士の滞在:年間10〜30日程度
ISSでは常時滞在可能。ゲートウェイでは、4名の宇宙飛行士が短い期間の滞在を予定しています。
○軌道:NRHO軌道
ISSは高度400kmの地球低軌道を周回しています。ゲートウェイは、NRHO軌道と呼ばれる特殊な軌道へ投入されます。NRHOは、Near Rectilinear Halo Orbitの略で、月に最も近い点(近月点)が高度4,000km、月に最も遠い点(遠月点)が高度75,000kmと非常に細長い軌道です。この軌道の特色は、常に地球を向いており、通信がしやすいことや輸送コストが小さくなること、NASAが有人月面探査で注目する月の南極の可視時間が長く、南極探査の中継地点としても利点があることが挙げられます。
ゲートウェイは、月周回軌道と月面、月と火星への「中継地点」の役割を持ちます。人類の宇宙活動が月より遠くまで広がる重要な場所になると考えられます。実は、ゲートウェイの開発には、日本も深く関わっていることはあまり知られていません。後編では、ゲートウェイのモジュールや日本の関わりについて紹介します。
<参考>
Image Credit: NASA
NASA, Gateway Overview
NASA, About Gateway Deep Space Logistics
JAXA, 国際宇宙探査センター, Program, Gateway
Canada, The Lunar Gateway
国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構(JAXA) 国際宇宙探査センター/有人宇宙技術部門, Gateway利用に関する検討状況について(2021.2.2)
文部科学省研究開発局 宇宙開発利用課 宇宙利用推進室, 国際宇宙探査及びISSを含む地球低軌道を巡る最近の動向(2021.2.2)
SPACEMedia編集部