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複雑な「計算」の力で人工衛星の運用に寄与する宇宙システム開発株式会社

宇宙ビジネスの勢いが止まりません。ロケットや人工衛星がつぎからつぎへと建造され、今日もどこかで打ち上げられています。宇宙への旅立ちは宇宙ビジネスの見せ場であり、分かりやすい成果です。どうしても目を奪われがちになります。しかしその裏では、人工衛星を軌道に乗せるための軌道計算や衛星の安定運用を支える地上システムがフル稼働しています。宇宙船や衛星といった花形ハードウェアも複雑な演算なくして運用出来ません。このソフトウェアを開発・販売しているのが、広崎朋史氏が創業した宇宙システム開発株式会社(東京都中央区)です。

どうしてもやりたいプロジェクトのために創業

元は大手 IT 企業にいたという広崎氏。当時から人工衛星の地上システム開発業務をしていました。子供時代に『宇宙戦艦ヤマト』のファンだったこともあり、月面基地建設や有人宇宙の仕事をしたいという夢があったそうです。当時の主要クライアントはJAXA。しかし漠然と「このまま JAXA の仕事をしていても、自分の生きている間に人類の宇宙大航海時代は訪れないのでは?」と思うようになったといいます。

 

「というのは、2004年にアメリカで行われた X プライズカップで、民間宇宙船スペースシップワンが地上100キロメートル(カルマン線:国際航空連盟による宇宙空間と地球の境界線)を達成して賞を獲得しました。それと並行するように、逮捕される前のホリエモンこと堀江貴文さんが宇宙ビジネスに進出し始めたのを横から見ていたからです。「このままでは堀江さんのような新興勢力に抜かれてしまうのではないか」という焦りに似た気持ちが、ふつふつと湧いてきたのです」(広崎氏)

 

ちょうどその頃、当時の勤め先に青森県六カ所村にある公益財団法人環境科学技術研究所から月面・火星基地を想定した閉鎖生態系物質循環のシミュレータ開発の依頼がありました。大企業だったため「規模に見合わないので出来ない」と破談になったそうですが、「どうしてもやりたい仕事だった」という広崎氏は、会社を飛び出し独立します。そして念願叶って六ヶ所村のプロジェクトに従事。これが創業後、最初の仕事になったそうです。

 

とは言え、宇宙ビジネスへの投資があり得なかった時代のことです。創業期の資金繰りには非常に苦労したとのこと。独立当初は IT やソフト開発のノウハウを活かし宇宙以外の仕事もして食いつなぎながら、徐々に宇宙の仕事を増やしていったそうです。 

 

不慣れなベンチャーに寄り添って地上システムを構築

環境制御・生命維持システムのシミュレータ経過画面 (宇宙システム開発株式会社 提供)

 

従来のロケットや人工衛星は大型で、地上システムは大企業が受注していました。しかし宇宙ベンチャーの開発する小型衛星などは予算も小さく、大手が手を出しづらいという問題がありました。その隙間を埋めているのが宇宙システム開発株式会社です。

 

宇宙ベンチャーは初めてロケットや衛星をつくるような場合が多く、JAXA のように仕様書を作成して発注することができないケースもしばしばだといいます。なにをどうつくるか。「文字通り走りながら考えるような開発に伴走できることが、弊社の強みです」と広崎氏は言います。

 

同社のSESSatellite Event Simulator)は「地球周回衛星イベント・シミュレータ」と呼ばれるジャンルの製品で、衛星の軌道計算を PC で行うことが可能となっています。SES のメリットとして、広崎氏は以下の点を上げました。

 

JAVA で動くので 特定の OS に依存しない。ネイティブアプリ並みのパフォーマンスも発揮出来る。

・衛星が太陽同期準回帰軌道に乗ったときの計算ノウハウをライブラリーとしてモジュールに組み込んでいる。

・地上システム構築のコストが安価なので、財政規模が小さなベンチャーでも導入出来る。

・小回りが効く。一緒に考えながら衛星の条件に合わせた計算ロジックを提供出来る。

 

「軌道計算は難しい部分があって、手元にアプリがあっても簡単にはつかえない部分があります。ですからコンサルティングも含めて請け負っています。安く計算ロジックが提供出来ますし、使い方も含めて、場合によっては、こちらで全部構築するという形で受けています」と広崎氏は語る。

 

軌道計算ソフトの開発会社は同社を含めても数社程度しかないといいます。また軌道計算も方法論がかなり確立した世界なので、他社と異なるロジックを使うことはないとのこと。ただし軌道計算の補正をどこまで行うか、補正項目の組み合わせを工夫していかにして計算速度を早く正解に近くしていくのかがノウハウになるそうです。

 

例えば惑星の影響をどこまで考慮するか。海王星、冥王星まで取り込むのか。あるいは太陽の輻射圧やアインシュタインの相対性理論による補正をどうするのか、などといった補正項目の絞り込みをどこまで行うか、精度のレベルを決める必要があるのです。

 

「既に上がっている衛星はNORAD(北アメリカ航空宇宙防衛司令部)……米軍がデブリなどを監視しているセクション……TLE(軌道決定値)を出してくるんですね。最新の TLE を入手して、更に何日後かのバージョンと比較すれば、どの程度の誤差で予測出来たのか検証することが出来ます。

また過去に重力場検証用に打ち上げられた衛星がありますが、軌道決定値が全て公開されています。そのデータをモデルにして軌道予測を計算したものと結果とを比較してみるということも、やってきました」(広崎氏)

 

同社ではこうして日々演算精度の向上を目指しているのです。広崎氏らは軌道計算と衛星のスケジューリングを得意としていますが、そこは成長分野で取引も増えているとのことでした。今後は衛星の追跡管制、衛星の評価、データの管理など人工衛星の打ち上げに関する地上システムを丸ごと賄える会社に成長させていきたいそうです。

 

 

生命維持のシミュレータ技術を防災に活かす

前述の通り、同社の最初の仕事は、閉鎖環境での生命維持や物質循環のシミュレータ開発でした。これは宇宙空間という閉鎖環境での長期滞在を可能にするための技術研究を元にしたミッションです。近年はJAXAの研究部門の仕事に携わり、筑波、調布、相模原それぞれで行われている生命維持研究にも携わっているといいます。また JAXA の研究開発に関わっているプラントメーカーから発注を受けるなど、生命維持関連の仕事が増えているといいます。

 

「人間が排出した CO2を回収する技術ですとか、廃棄物・排泄物を処理する技術、水の再生技術は地上の技術にも反映されていくだろうと考えています。宇宙を目指してはいますが、地上にも貢献できると考えて日々取り組んでいます」(広崎氏)

 

宇宙空間における居住技術や生命維持技術は、地上へのフィードバックしやすい分野です。将来宇宙という極限環境で稼働する植物工場の技術が地球にフィードバックされ、食糧問題の解決に寄与するなどということは充分考えられるでしょう。

 

近年は生命維持のシミュレータ技術を転用して防災に役立てる「防災計画策定シミュレータ」を開発するなど、社会貢献的な仕事もしているそうです。同シミュレータは、避難所に人が何人いたらどれくらいのペースで食料がなくなり、いつトイレのタンクが満杯になるか、といったことが演算可能とのこと。宇宙空間での物質循環制御が防災計画の策定に寄与するという、思わぬ効用も宇宙事業の魅了と言えそうです。

 

 

宇宙ビジネスは文系も理系もウエルカム

ラジコンの実機をFMSフライトシミュレーターで操縦テスト(宇宙システム開発株式会社 提供)

 

元々宇宙に関係する仕事に就こうと理系の大学に進み、無事宇宙ビジネスを行っている会社に就職したという広崎氏。仕事に物足りなさを覚え、起業してまで夢を追い続けてきました。そんな広崎氏ですが、意外なことに同社の社員の7割は、宇宙とは無関係な学部の出身だといいます。

 

「中途で入っている方も含め、一切宇宙の勉強をしてこなかった方も多いです。様々なバックグランドを持った仲間が、それぞれが強みを活かして補い合っています。募集案内にも対象を全学校の全学科と書いていたと思います。

弊社の事業として2つの柱があります。ソフトの開発と生命維持の研究開発です。ソフトの方は、文系の方もいらっしゃって全く問題ないと思っています。ただし生命維持の方になると、化学や機械の知識が必要です。入社後に勉強しながらチャレンジする、というのは、ありかもしれません」(広崎氏)

 

実際、インタビューの場に居合わせた社員さんは法学部出身とのことでした。

 

最後に「広崎さん自身が宇宙に行きたいと思っているか」という下手な質問で締めたいと思います。

 

「よく聞かれる質問です。個人的な旅行ではなく、仕事で行きたいと思っています。宇宙実験棟の作業要員とかシステムの構築やメンテナンスなど、ともかく仕事関係が良いですね。早くそんな時代になって欲しいものです。

弊社は人類がより遠い宇宙に行くのをサポートしたいと思っています。火星よりも遠く、木星や土星の衛星に行く日を待ちわびています」(広崎氏)

 Tell-Kaz Dambala