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宇宙・衛星通信の品質向上に貢献するリーディングカンパニー アンリツ株式会社

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宇宙産業が今、成長産業であると感じている人は多くいると思いますが、民間人による宇宙旅行のニュースなどから、そのように考える人が増えたのではないでしょうか。ですが、実際には宇宙産業の市場規模のうち宇宙旅行などの占める割合は0.1%にも満たないのです。では、宇宙産業の規模拡大を支えるものは何なのか。それは「通信インフラ」です。

今回のインタビューでは、常に情報通信の最先端技術を追い求めるパイオニア、アンリツ株式会社の通信計測カンパニー 通信計測営業本部、第6営業部長の隨念 英生(ずいねん ひでお)氏にお話を伺いました。

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「はかる」技術で通信を支えるアンリツ

―本日はよろしくお願いします。初めに、貴社の事業概要についてお伺いしてもよろしいでしょうか。

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隨念氏 弊社はコア・コンピタンスである「はかる」技術をベースに、情報通信ネットワークを支える「通信計測事業」や食品・医療品の安全と安心に貢献する「PQA事業」、さらに光・超高速電子デバイスの開発・製造で幅広い分野を支える「センシング&デバイス事業」や社会インフラのレジリエンス向上に寄与する「環境計測事業」などを展開しています。その中でも、主力としているのは「通信計測」の分野です。基地局や、中継器、端末、あるいはデータセンターなどの通信装置の開発や、製造、保守業務で必要とされる種々の「測定器」を提供しており、快適で安全・安心な通信インフラの実現に貢献しています。

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―「通信」の分野が主力とのことですが、具体的にどのような製品・サービスを行われているのでしょうか。

隨念氏 例えば、無線装置を実用化するためには無線特性の品質担保や、電波法、無線通信規則に対応した設計・開発が必要となります。弊社はスペクトラムアナライザや、ネットワークアナライザ、信号発生器など種々の測定器をラインナップとして揃え、製造・販売をしています。市場によって無線特性の品質評価は検証や要求レベルが異なるため、携帯電話市場を中心にスループットや、プロトコル、あるいは機能面の検証も可能とする専用測定器など市場ニーズに適応したソリューションの提供にも力を入れております。また、無線だけではなく、光ファイバー通信のような有線通信や、無線と有線を組み合わせた通信ネットワークの総合的な検証など、幅広い測定ソリューションを提供しています。最近では、「Beyond 5G」や「6G」と呼ばれる最先端の通信技術の研究が始まっており、その検証に必要な測定ソリューションの提供も開始しています。

アンリツ:「はかる」を超えて

―なるほど、法規制への対応もとても重要ですね。ちなみに通信品質に関するサービスについてもお聞かせください。

隨念氏 5Gの普及に伴い、ローカル5Gで代表される、利活用の動きも活発化しています。様々なプレイヤーが実証実験やサービス提供を開始していますが、弊社は通信品質の課題解決に向け、フィールドを中心にネットワーク構築では欠かせない通信遅延や、電波伝搬、妨害波・干渉波検証など評価支援サービスの提供にも乗り出しています。また、DXに向けた検証データの管理や利用などの新しい市場要求に関しても、顧客と連携しながら、様々なソリューションの提供に取り組んでいます。

Credit: アンリツ株式会社

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アンリツが支える宇宙通信

―宇宙に関する分野は、どのような事業になりますでしょうか。

隨念氏 従来の「衛星通信」に加え、HAPSや低軌道衛星を利用しNTN(※1)として展開が見込まれているセルラ通信、あるいはSAR(※1)を利用したリモートセンシング、さらには光衛星通信など、宇宙空間では様々な通信の実用化が今後期待されています。これまで衛星通信の電波状況の監視に欠かせないモニタリング用の測定器や、干渉波や妨害波の発生源の位置推定が可能な測定ソリューションなどを提供してきました。昨今では新たな衛星通信の実用化に向け、ネットワークの遅延検証や、伝送速度の検証、衛星に搭載されるアンテナの放射パターンや感度の調整、さらにはデバイス単体検証向け測定器など、幅広いソリューションの提供を開始しています。NTNや、空間光通信の実証も開始されており、今後はそれらに合わせた検証ソリューションの提供も必要になってくると見込んでいます。

(※1): NTN (Non-Terrestrial Network): 非地上系ネットワーク。宇宙・空・海・陸上の通信システムを多層的につなげて構築するネットワーク。
(※2) SAR: Synthetic Aperture Radar(合成開口レーダー)。航空機や人工衛星などにレーダーを搭載し、移動しながら観測することで仮想的に大きなレーダーとして機能する地上観測技術。

NTN (Non Terrestrial Network)の概略とアンリツの測定ソリューション
Credit: アンリツ株式会社

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―これから様々な新しい通信技術が実用化されていくのですね。

隨念氏 そうですね。現在、このような通信技術の分野では、日本だけでなく世界中で投資機会が増加しており、国の支援も受けて、実用化に向けた研究開発が進んでいます。弊社では、これまで地上の通信インフラを支えてきたのと同様に、宇宙空間で必要となりうる、これからの通信インフラを支える取り組みに力を入れていこうと考えています。

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先日行われた「SpaceLINK(※)」では様々な製品を展示されていましたが、詳しくお伺いしても宜しいでしょうか。

隨念氏 今回展示していたのは、「ME7868A」「MS2090A」「MT1000A」という3つの製品になります。

まず、「ME7868A」についてですが、「モジュールベクトルネットワークアナライザシステム」という製品になります。こちらはアレイアンテナの放射パターンの評価に適しており、遠方界や近傍界双方での検証が可能です。通常、大型チャンバーやシールドルームでのSパラメータ測定には近接で配置できるVNA(ベクトルネットワークアナライザ)と被測定物との間を接続する長いケーブルが必要で、そこで発生するケーブルロスなどの解決が大きな課題となっていました。今回のソリューションはPCから被測定物の近くに配置した2台のVNAを遠隔操作し同期させることで、100メートル離れた状態でもケーブルロスを気にせずに測定することを可能にしました。独立した2つのVNAポートを専用の光ケーブルで接続・同期することにより、従来の高価なVNAベースではなく、安価なセットアップでベクトル(振幅・位相)の伝送特性を評価できるため、高い関心が寄せられています。

「モジュールベクトルネットワークアナライザシステム ME7868A」
Credit: アンリツ株式会社

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続いて、「MS2090A」についてですが、こちらは「フィールドマスタプロ」という製品になります。衛星通信の運用波の確認や、妨害波・干渉波の発信源の位置推定、通信障害の原因解析などを行う測定器です。航空宇宙/防衛、衛星システム、レーダーなどの様々な検証課題に対応しています。「フィールドマスタプロ MS2090A」は持ち運びできるタイプですが、その姉妹品として通信局に据え置いて長時間のモニタリングが可能な「リモートスペクトラムモニタ MS27201A」という製品も用意しています。

持ち運びが可能な「フィールドマスタプロ MS2090A」
Credit: アンリツ株式会社

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広域のRFスペクトラムの長期間監視に適した
「リモートスペクトラムモニタ MS27201A」
Credit: アンリツ株式会社

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最後に「MT1000A」ですが、こちらは「ネットワークマスタプロ」という製品です。様々な光通信規格に準拠した信号品質の検証や、4G/5Gなどで代表される通信ネットワークにおいて重要視される通信の遅延検証が可能な測定器です。通信のスループットや、信号エラー、レイテンシ(遅延)測定などをサポートし、「高速化」「低遅延化」が課題となるネットワークの品質向上に最適なソリューションです。NTNにおいても、今後光通信やセルラ通信を活用して大容量データを、より低遅延で送受信することが求められています。衛星を介した通信では、低軌道衛星を使って通信距離を短くする事で遅延時間の短縮を実現する課題がありますが、それを実証する上で非常に便利な測定器です。

ハンドヘルド測定器「ネットワークマスタ プロ MT1000A」
光通信システムの伝送評価をする「ネットワークマスタプロ MT1000A」Credit: アンリツ株式会社

(※):「SpaceLINK」2022年8月23日に行われた宇宙イベント。

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これからの技術的課題などがあれば、お聞かせください。

隨念氏 Ku/Ka帯の「周波数枯渇」で衛星通信が今後Q,V,W帯の周波数利用が計画されており、新たな周波数帯域ということで実証も含め通信の実用化が課題です。将来的にはBeyond 5Gにおけるテラヘルツ帯の利用など、高周波数帯へのシフトが見込まれ、高周波数帯での実用化が課題となります。また、光衛星通信や、リモートセンシングにおけるLiDAR利用なども予測される中、空間光の長距離伝送という点では伝搬や通信品質の検証方法の確立についても解決すべき課題であると認識しています。

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今後の展望

これからの宇宙事業に、どのような人材が重要になると考えていますか。

隨念氏 地上では様々な無線通信、有線通信の技術が確立されていますが、宇宙空間では、衛星通信以外でもリモートセンシングや、「NTN」「空間光通信」「SAR」など新たな通信技術の台頭が見込まれ、社会インフラとして利用していく以上、新たなチャレンジだけでなく、そこに潜むリスクも含めて実証とともに検証していく必要があります。これまで地上では生じていないような通信障害も出てくるでしょう。リスクマネジメントの意識が高く、関連企業と“課題抽出・解決”に向けた連携を積極的に行える人材が必要になってくるのではないでしょうか。

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貴社は、これから宇宙業界の中でどのような存在を目標とされていますでしょうか。

隨念氏 これまでは「高品質・高信頼性の通信ネットワークの実現を下支えする」という観点で、通信インフラの構築に携わってきました。そして、これから宇宙空間に通信インフラを広げていく過程では、これまでに類を見ない新たな問題や課題が出てくると考えています。宇宙業界においても、技術実証だけでなく、宇宙空間を利用した「社会インフラとしての通信サービス」を常に念頭に置き、地上同様に高品質・高信頼性のネットワークを実現していく意思が重要だと思っています。弊社は、関連企業や団体と連携し課題解決を図りながら、宇宙空間の通信インフラの確立において、地上通信で培ってきた経験や知見をベースに、安定した通信品質を下支えできる存在であり続けるとともに、社会に貢献していきたいと思っています。 アンリツ株式会社は、宇宙産業で今後ますます必要となってくる、人工衛星や通信局などで使われる機器の開発に欠かせない製品およびサービスを提供し、通信インフラの構築に貢献しています。宇宙産業の成長とは、こうした企業の成長があって初めて成り立ちます。近い将来、宇宙空間における通信インフラが確立し、さらにその恩恵を受けた際には、アンリツ株式会社のような技術力で支えている企業の存在を見つめてみてはいかがでしょうか。