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【沖縄特集】 沖縄を試験拠点に宇宙旅行の実現を目指す!- PDエアロスペース株式会社

日本国内では様々な自治体が空港の宇宙利用に取り組んでいます。その一つ沖縄県・下地島では、宇宙飛行機(スペースプレーン)の開発を行っているPDエアロスペース株式会社が旗振り役となって、宇宙産業を盛り上げています。今回のインタビューでは、代表取締役社長・緒川氏にお話を伺いました。

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傘を持っている少年

低い精度で自動的に生成された説明
緒川 修治氏 PDエアロスペース株式会社 代表取締役社長

PDエアロスペースの宇宙事業

―本日はよろしくお願いします。初めに、御社の概要についてお伺いしてもよろしいでしょうか。

緒川氏 弊社は、民間主導で「宇宙飛行機(スペースプレーン)」の開発を行う、愛知県の宇宙ベンチャー企業です。最大の特徴は、独自の「燃焼モード切替エンジン」です。ひとつのエンジンで、ジェットモードとロケットモードを切り替えることで、大気中と宇宙空間を行き来することができます。2029年には、“サブオービタル飛行”(*)による宇宙旅行の提供を目指しています。年間1000人のお客様を、宇宙旅行にお連れする計画です。


*宇宙に到達した後、重力により自由落下する「放物線」を描く飛行

―御社の宇宙飛行機(スペースプレーン)の特徴について教えてください。

緒川氏 サブオービタル宇宙旅行には、ロケットのように垂直に打ち上げるタイプと、航空機のように水平に離発着させるタイプの2種類があります。弊社の宇宙飛行機は、水平に離着陸する有翼タイプです。

高頻度で地球と宇宙を往還していくことを考えると、既存の空港を利用できる点、お客様の身体負荷が少ない点などから、水平離着陸できることは大きな利点になります。

これを支えるのは、空気を取り込んで燃焼する“ジェットモード”と、機体に搭載された酸化剤を用いて燃焼させる“ロケットモード”を、一つのエンジンで切り替えることが出来る、「ジェット/ロケット切替エンジン」です。離陸や大気中では、ジェットモードで飛行し、高度が上がり空気が薄くなると、ロケットモードに切り替えます。宇宙へ到達後、大気に再突入、着陸時には再びジェットモードを作動させます。これにより、上空待機や着陸のやり直しが可能となり、一般空港を宇宙港として利用することが出来るようになります。

宇宙飛行機ペガサス機体イメージ
(c) PDエアロスペース

―そもそも、どのような経緯で創業するに至ったのでしょうか。

緒川氏 私は、子供の頃から大学卒業、就職までパイロットを目指していました。また父が発明家で、自宅には実験室があり、物心付いた頃から父が行う科学実験や工作の助手をしていました。結局、パイロットにはなれなかったのですが、航空分野に携わりたく、メーカーに就職。戦闘機の開発プロジェクトに参画する機会を得ました。この頃、宇宙飛行士の募集が始まり、2度挑戦をしたのですが、不採択に終わりました。そこで、次の募集までに学術的バックグランドを高める為に、会社を辞めて、大学院へ進学しました。この時、ジェット/ロケット切替のアイディアを思い付きます。そんな中、アメリカで、有人宇宙機の開発賞金レースが行われており、たった50人規模の会社がこれを成功させました。これを聞き、「もう、待っている場合ではない」と考え、新型エンジンの構想を基に、2007年にPDエアロスペースを起業しました。しかし、資金も無く、最初の10年間は、一人で開発を行いながら、宇宙旅行事業の検討をしていました。そして、2016年にANA、HISからの出資を頂くことに至りました。

ジェット/ロケット切替エンジン
(c) PDエアロスペース

下地島空港(沖縄)を”宇宙港”に選んだPDエアロスペース

―そもそも、何故沖縄に宇宙港を作ろうと思ったのですか?

緒川氏 創業当初から、日本の開発環境が弱いという課題がありました。全国の開発拠点候補地を調査していく中で、JAXAの実験場がある北海道の大樹町か、パイロットの訓練空港である沖縄県の下地島が有力であると考えていました。そんな中、リーマンショックが起こり、下地島空港から航空会社が撤退。下地島空港が用地利活用で他者に使われてしまう状況となりました。そこで、直ぐに公募に応募しました。第1回(2013年)は最終選考で落選。第2回公募(2017年)に再応募し、これに採択頂き、沖縄県と基本合意、現在に至ります。

―他の地方空港でも宇宙ビジネスへの活用を模索した動きもあったようですが、下地島の利点は何でしょうか?

緒川氏 利点・特徴として、大きく4つあります。

1つ目は、国内では数少ない 3,000mの長い滑走路を有すること。滑走路が長いことで実験時の安全率が高まる他、宇宙からの帰還時も余裕が出来ます。

2つ目は、民間訓練飛行空域を有すること。パイロットの操縦訓練に用いられてきた広範囲の民間飛行空域が南北にあります。この空域は航空路が避けられている為、飛行実験に向いているのはもちろん、宇宙への飛行もこの空域を利用できます。

3つ目は、離着陸進入ルートに民家が無いこと。滑走路の両端が海に面しており、飛行コースが確保されています。特に、実験機は民家上空を飛行できない為、大きな意味を持ちます。

4つ目は、航空管制設備が整っていること。管制塔の他、滑走路両側に計器飛行着陸が出来る設備、夜間着陸設備など、国際空港レベルの設備が備わっています。

5つ目は、アジア地域からのアクセスが良いこと。中国や東南アジアなど大きな商圏を持っています。宮古ブルーに象徴されるきれいな海もあり、観光地としての魅力も備わっています。

青い海と砂浜

中程度の精度で自動的に生成された説明
下地島宇宙港
(c) 三菱地所/PDエアロスペース

もう一つの顔:宇宙旅行事業の旗振り役

―下地島宇宙港事業推進コンソーシアムを設立し、多くの関係者を巻き込んで下地島の宇宙港ビジネス推進に取り組んでいますが、機体開発をしている会社がそういう取り組みをしているのはなぜでしょうか。

緒川氏 理由は、単純です。国内に宇宙機を運航する会社も、宇宙旅行を販売する会社も、宇宙港を運営する会社もないからです。法律や保険も整備されていません。アメリカと異なり、日本は新しいことにリスクをとって挑戦していく風潮に乏しく、他者の動きを待つ傾向が強いです。そこで、自らが旗振り役となって、宇宙旅行事業に関係する全ての領域にアプローチして、“仲間/事業パートナー集め”をしています。お陰さまで、徐々に動きが出てきて、具体的な調整をし始めています。

同様に、“宇宙を身近に”、“宇宙をビジネスのネタ”として捉えて頂く為に、下地島宇宙港を中心に、個々の企業が既に持っている商品やサービスと宇宙を絡めて、商売に繋げていく集まりを作りました。それが「宇宙港事業推進コンソーシアム」(宇宙港コンソ)です。現在、53社がコンソメンバーとして登録頂いています。業種は、飲食やホテル、エネルギー、輸送など実に様々で、これから一つずつ“商品”、“サービス”へ繋げていくことを考えています。

今後は、沖縄県と連携を強め、北海道や大分県といった宇宙港誘致や宇宙産業に拠る地域活性に積極的な姿勢と執っている自治体に、負けない動きをしていきたいと考えています。沖縄には、そのポテンシャルがあると思っています。

下地島宇宙港事業推進コンソーシアムメンバー(全54社中、抜粋)
(c) PDエアロスペース

―最後に、読者へのメッセージがあればお願いします。

緒川氏 宇宙は遠くに眺める存在から、自ら関わっていく存在になってきています。これから益々この動きが加速し、どんどん“身近”になってきます。弊社は、技術の面から関わっていきますが、どんな分野からでも関わることが可能です。遠慮や躊躇は不要です。

私の知人で、宇宙ベンチャーの社長がこう言っていました、「宇宙をやっていい時代になった」と。

宇宙港は、関わる為の一つの切り口です。沖縄は、他に無い自然、美しい海といった大きな魅力があり、これらを宇宙と繋げていくことで、新しい価値創造になると考えています。その中で、下地島は、「宇宙に行ける島」として観光の大きな要素になり得ます。この可能性を意志ある方々と一緒に盛り上げていきたいです。

下地島宇宙港 滑走路上空
(c) 三菱地所/PDエアロスペース

以上、PDエアロスペース株式会社の代表取締役社長・緒川氏のインタビューでした。宇宙飛行機の開発に留まらず、その運用までを見据えて企業や自治体、国までをも巻き込んで日本の宇宙産業発展に取り組んでおり、PDエアロスペースの活動の広さは並ではありません。機体開発はもちろん、宇宙港の今後の発展にも注目していきたいです。

                                      SPACE Media編集部