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ロケットの打上げが新たな観光地を創る- 株式会社MATCHA

北海道・和歌山・大分・沖縄。ロケット発射地域として始動する新たな宇宙地域では、関連産業として観光インバウンドの受け皿整備も重要です。そこで今回は、インバウンド市場の牽引者である株式会社MATCAの代表取締役社長・青木優氏にインタビューを行い、日本全体のインバウンド動向と、宇宙地域の活路についてお伺いしました。2013年から始まったこの企業では、WEBマガジン「MATCHA」を運営し、訪日旅行者向けに日本の情報を発信しています。

株式会社MATCA 代表取締役社長・青木優氏

ロケット打上げが持つ観光コンテンツとしての可能性

―本日はよろしくお願いします。青木さんは国が観光立国政策を進める前から訪日外国人誘客のための事業をされてきましたが、いまの日本の観光インバウンドの状況を教えていただけますでしょうか。

青木氏 ようやく先月からインバウンドが再開し始めていて、10月の訪日客は50万人でした。2019年の10月は250万人でしたから、5分の1ですね。回復してきましたが、まだ少ないという状況です。国別の訪日客数は、韓国、アメリカ、台湾、香港、ベトナム、中国の順になっています。コロナ前は中国からのインバウンドが一番でしたから、中国人が国外に出られないという状況は大きな打撃です。この状況が変われば、かなり盛り上がってチャンスになっていくと思います。

(編者注: 11月の訪日客は93万人。取材後、中国のゼロコロナ政策は緩和の方向に向かっているが、なおも出控えが続く。)

―訪日客の目当ては何がメインですか?

青木氏 一番は食です。日本食はバラエティが広くて一つ一つに深さがあり、地域ごとにも特性がありますから。2番目は景観や歴史ですね。京都は最たる例です。他には温泉やスノーアクティビティも人気が高いです。

―いま日本では、北海道、沖縄、和歌山、大分など、ロケットの射場地域が急速に増えてきています。こういった題材は観光コンテンツとして可能性はありますでしょうか。

青木氏 あると思います。私自身、ロケット打上げイベントを見るために大樹町に2回行きました。全国から人が集まっていましたから、こうした一大イベントはやはり可能性があります。ただ、ロケット以外の観光コンテンツも充実させて情報発信もし、長く滞在できるように出来たらいいなと思います・

観光地づくりのポイント

―ロケットの発射地域は過疎地域で、これまで観光に力を入れていなかったというところもあります。観光地として盛り上げていくために大事なことは何でしょうか。

青木氏 まず、なぜ観光地としての取り組みをするのかを明確にするところが一番重要です。地域住民の生活向上が目的だとしたら、そのためにどれくらいの規模の観光地にするのかを決め、観光客数と一人当たりの消費量を目標値として設定していきます。皆で、どういう状況を目指すのか認識を揃えてから、SNSや観光サイトの活用などといった具体的な観光客へのアプローチ方法を検討していくべきです。

―宇宙産業が地域を盛り上げていくとしたら、どんな形が考えられますか?

青木氏 観光という観点ではないかもしれませんが、宇宙関連の人たちが集まる場としてその地域を発展させていくというのは面白いと思います。人が集まることで、宇宙と何かを掛け合わせたものを生み出していくような機会を提供していければ、大きな価値になりますね。あとは、今の時代はデジタルノマドの人が増えていますので、そういう層を取り込むには、Wi-Fi速度が速いとか自由に使えるディスプレイがあるなど、テレワークの環境が整っていることが大事です。

オフィスで作業する人々 コワーキングスペース ソーシャルディスタンス
Credit:Adobe stock

―街が新しく観光地になると、戸惑う住民もいると思います。そうしたことにはどう取り組んでいくべきでしょうか。

青木氏 観光地域づくり法人 (DMO)をきちんと立ち上げ、外部への情報発信だけでなく地域住民との協同にも取り組んでいくことが大事ですね。DMOのミッションは、地域住民に対して観光客が増えることの意義を伝えて共有することです。旅行者が来ることで地域にお金が使われて、保全活動に使われたりインフラの費用が安くなったりして生活が豊かになるのだということを住民に伝え、地域で観光業を行っていくことが大事ですね。

―観光従事者を増やすというよりも、街として観光地としての素地を作っていくわけですね。

青木氏 観光従事者という言葉がありますが、旅行者にとってはすべてが観光コンテンツです。スーパーのお惣菜だって観光客からしたら面白いですから。何が観光客にとって観光コンテンツになるのかということを捉え直し、地域住民には日常だとしても、地元のあらゆるものに提供価値を認めていくことが大事だと思います。ですから、観光コンテンツを充実させていくだけではなく、観光客が来ることの意義や目的を地域住民に共有して、街全体として楽しんでくれる観光地にしていくことがやはり大切です。

これからの観光業の発展に向けて

―ロケット打上げを中心とした観光地としてこれから盛り上げていく自治体に対して、何かアドバイスはありますでしょうか。

青木氏 まずは、ロケット打上げ以外の観光コンテンツも充実させていくことですね。ロケット打上げは延期になることもあるし、長く滞在するとなると、やはりロケット以外の楽しみも必要です。

そして最近感じているのは、観光地での価格を適正に設定して、働き手に十分な給与を提供することが大事ではないかということです。飲食業などの観光に関する業界は、他の業界に比べて給与水準が安く、それではいけないと思います。単価を高くする努力、それでも選ばれるようにする努力をするべきです。先日、ある観光地で2,3時間歩いて山を登り、その先でランチをしましたが、生姜焼きが900円でした。私は1500円以上の価値があったと思いますよ。わざわざ歩いて行って、良い雰囲気の店内で落ち着いて食べる生姜焼きです。1500円でも高いと感じる人はあまりいないでしょう。そういう価格設定にすれば利益は2倍にも3倍にもなりますから、従業員の給与を増やしたり、新しい商品の開発に取り組んだりできますよね。

あとはコストを減らすことです。ホテルなら、チェックイン対応を2人から1人にするだけでもかなり変わります。情報発信に関しても、お金をかけて自社サイトを作るとすぐ決めるのではなく、運用することを考え、人々に届く方法で賢く取り組んでいくことが必要です。これらの話は宇宙地域には限らない話ですね。

ワクチンパスポートの確認
Credit:Adobe stock

―ありがとうございます。説得力がありますね。ロケット打上げの観光コンテンツとしての価値を高めていくためには何が重要でしょうか。

青木氏 プロデューサーの期待感が大事だと思います。例えばスペースXのイーロン・マスク社長はTwitterで掛け声を出したりしており、高揚感が伝わってきます。ただ打上げるのを見せるだけではなく、演出があるからこそみんな楽しめるのだと思います。

また、打上げの様子を配信することもできますが、コンテンツとしてはその場所にしかないものですから、地域によっては年二回だとしてもうまく活用していくべきです。大樹町に行った時には、打上げに至るまでの背景やストーリーをもっと知りたかったと思いました。どういう苦労を経てきたのか、開発者はどんな人たちなのか。こういうことを知っているから、見る人は成功にしても失敗にしても泣けるわけです。私は詳しいわけではありませんが、大樹町に何度も足しげく通っている人は、そういうドラマを知っている人だと思います。もっと言えば、このドラマの中に地域や外部の人々が関与できる余地があると良いですよね。関与する方法は、クラウドファンディングや、地元企業の技術協力など、色々な形があると思います。ロケット打上げをただのイベントにするのではなく、人々が共感できるドラマとして演出し、観光の商品としていくのがポイントになるでしょう。

アウトドア、テキストの画像のようです
Credit:北海道スペースポート(HOSPO)

以上、株式会社MATCAの代表取締役社長・青木優氏のインタビューでした。観光業界に長年携わってきた知見から、これからのロケット発射地域に有益な意見をお聞きすることができました。観光業界の回復と共に日本のロケット業界も盛り上がり、打上げの見学イベントを中心として各地域が盛り上がっていく姿が楽しみですね。

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