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(前編)地球と宇宙をつなぐ「宇宙エレベーター」の実現へ!- 株式会社大林組

宇宙に行く手段といえばロケットですが、もっと安く高頻度に地球と宇宙を行き来が可能な宇宙エレベーターの構想はご存じでしょうか。アイデアは古くからありましたが、2012年に株式会社大林組が具体的な構想を発表し、大手建設会社による構想ということもあり注目を集めました。構想発表から11年、今回のインタビューでは大林組の技術本部 未来技術創造部の担当部長・石川洋二氏、川上好弘氏、副部長・渕田安浩氏にお話を伺いました。

本記事は二部構成の前編となります。

大林組の宇宙事業

―本日はよろしくお願いします。はじめに、建設会社である貴社がこれまで宇宙事業とどのように関わってきたのか聞かせください。

石川洋二 技術本部 未来技術創造部 担当部長 工学博士

石川氏 大林組では、1987年から1996年まで社内で宇宙開発プロジェクトを行っていました。当時から世界的に月や火星に基地を建設するという構想があり、その際に建設会社として構造物や建設材料を造るということを目指していました。また現地での食糧生産という観点から、こうした建造物の中で植物を育てるということも検討していました。加えて、限られた資源の中で人間が生活していくための循環システムも必要なので、川上が外部の研究所に出向したり、社外と様々連携したりして、生命維持のための循環システムの研究も行っていました。こうしたプロジェクトは1996年が一旦の区切りとなりましたが、その後に再び宇宙開発プロジェクトが立ち上がって今に至ります。

―宇宙開発のプロジェクトはどれくらいの人数の規模で行っているのでしょうか。

石川氏 当時のプロジェクトは非常に少人数でした。現在の取り組みに関しても、専属でやっているのは4, 5人程度ですが、他の部署に属しながら我々の研究に参加している人がたくさんいますし、また社外とも積極的に共同研究を行っているので、多くの人が関わっています。

―現在はどのような宇宙事業を行っているのでしょうか。

石川氏 大きく3つの柱として、宇宙に行く/住む/使うための技術開発を行っています。「行く」は宇宙エレベーター、「住む」は月面や火星での建築や植物栽培、「使う」は衛星データを活用した地球上での自動施工などです。自動施工はすなわち遠隔施工ですから、将来的には地上だけではなく月や火星での建設にも応用できますよね。

―幅広いですね。貴社のような大手企業がここまで乗り出しているというのは非常に期待を感じます。

石川氏 月面開発に関しては、内閣府が主導しているスターダストプログラムというものがあります。分野ごとに各省庁が担当して、様々な企業が研究開発を起こっています。大林組は、国土交通省が進めている月面レゴリスで建材を造るプロジェクトと大きな展開構造の開発、経済産業省が進めている水素ワーキングと電力ワーキング、農林水産省が進めている循環システムの開発に参加しています。

―国との連携もあるわけですね。それぞれどのようなプロジェクトでしょうか。

渕田安浩 技術本部 未来技術創造部 副部長

渕田氏 レゴリスで建材を作るプロジェクトでは、マイクロ波加熱という技術でレゴリスからブロック型の建設材料を製造する技術をJAXAと共同で開発しました。。マイクロ波を照射してレゴリスを1000℃に加熱し、加熱の度合いによって隙間のあるレンガのような焼結物や、隙間のないガラスのような溶融物など、様々な材料に作り分け、建設時の用途によって使い分けることができます。このマイクロ波加熱の技術では水や添加物を用いずに建材を作れるわけですが、これは資源が限られている月面での開発に適しています。一方、火星の環境を想定して開発しているコールドプレスによる圧縮固化物の製造技術では、砂に粘土鉱物と水を混ぜて常温のまま圧力をかけて建材を製造します。火星では月と違い、水や粘土質の鉱物が比較的容易に得られる見込みがあるので、火星の環境に適した技術ということで開発しています。展開構造の開発は、地球から持っていくモノを小さくするための技術です。最初は、現地で電力を調達するための太陽光発電タワーの開発から取り掛かっています。

参考資料:
適用可能な地産地消型の基地建設材料の製造方法を開発 | ニュース | 大林組 https://www.obayashi.co.jp/news/detail/news20180912_1.html

―建設会社は土に強いというわけですね。

石川氏 これまでの宇宙開発は軌道上での技術でしたから私たちはあまり関係ありませんでしたが、月や火星となると重力と地面があり、この領域は建設会社が力を発揮する領域です。

―月面レゴリスと地球の土はどのように違うのでしょうか。

渕田氏 レゴリスは岩石を細かく砕いたようなものです。これに似たものは地球にもあり、アポロが持ち帰ったレゴリスは富士山のふもとにある玄武岩と似ているとされています。これを素に粒度を調整してレゴリスを再現し、実験に用いています。地球の多く存在する砂粒は水で洗われて角が取れていますが、レゴリスは粒がギザギザしており、扱いが少し難しいですね。

―経済産業省や農林水産省のプロジェクトはどのようなものですか?

川上好弘 技術本部 未来技術創造部 担当部長

川上氏 経済産業省の水素ワーキングでは、月面上での水素供給プラントの建設を検討しています。電力ワーキングでは、月面上に作る太陽光発電の検討を行っています。農林水産省のプロジェクトは、月面で農業を行うというもので、レゴリスから建材ではなく栽培用の土壌を作り、植物を栽培するというものです。そして、閉鎖環境では植物が二酸化炭素を酸素に変えるという機能が生命維持の循環システム構築に役立ちますから、こうしたシステム全体を設計する取り組みを行っています。

―月面のレゴリスで、どのように植物を育てるのでしょうか。

川上氏 レゴリスのままでは土壌に適さないので、マイクロ波等で加熱して焼結物を作り、それを土壌として用います。そしてそれ自体に養分はありませんから、化学肥料を地球から運んだり宇宙で製造したりして調達する必要がありますが、現在開発している技術は、宇宙での人間生活の中で排出される糞尿や食物の余りを循環利用するというものです。

参考資料:
宇宙農業の実現に向けて月の模擬砂を用いた植物栽培実験に成功 | ニュース | 大林組 https://www.obayashi.co.jp/news/detail/news20220207_2.html

前編はこちらで終了となります。次回の後編はいよいよ宇宙エレベーター構想について詳細をお聞きします。

                                      SPACE Media編集部