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《大分県》 アジア初の水平型宇宙港を目指して -地方からの「宇宙」への挑戦 第1回-

2021年11月8日、大分県を始めとした地方自治体の知事が岸田首相と面会し、宇宙産業の推進・支援を求める「地方からの『宇宙』への挑戦に係る要望・提言」を提出しました。世界の宇宙産業は2040年代までに120兆円規模になると予測され、日本でも国や大企業だけでなく、地方自治体による宇宙産業の推進が進んでいます。

SPACE Mediaでは宇宙産業×地方自治体にフォーカスし、全国で宇宙産業の推進を精力的に進める地方自治体と地域の企業の取り組みについて連載で紹介します。

 

第1回はアジア初の水平型「宇宙港」を目指し、先日の岸田首相への要望・提言を中心となって推進した「大分県」の宇宙産業に関する取り組みの概要を紹介します。

 

なぜ宇宙産業に挑戦するのか

別府温泉や湯布院温泉をはじめとした全国的に知名度の高い温泉を多く有し、大分県は源泉数・湧出量ともに日本一を誇ります。2017年には温泉をテーマにした遊園地でのイベント「湯~園地」が話題になりました。

そんな大分県が県を上げて推進するのが「宇宙産業」です。旧来、宇宙産業は国や大企業が主導していましたが、近年では様々な関連ベンチャーが参入し、地方自治体でも推進を進め始めています。大分県では特にアジア初の水平型「宇宙港(スペースポート)」を目指し、2020年4月には米ヴァージン・オービット社とパートナーシップを結びました。

 

なぜ大分県が宇宙産業を推進するのか、どのような価値創造を期待しているのか、大分県商工観光労働部 部長 高濱航氏は次のように話します。

 

「宇宙をみんなにとってもっと身近なものにしたい」。そういう未来に、日本を含む世界中のプレーヤーがチャレンジしています。私もそういう方々と想いを一緒にしています。

大分県は、アジアと宇宙をつなぐ中核拠点となることにより、日本を含むアジアの企業や人々に対し、地球を越えた新たなビジネスや暮らしの選択肢を提供することを目指しています。そして、未来を見据えることは足下と過去を見つめ直すことにつながります。自分達大分県が、県内企業や日本、そして世界の企業やベンチャー企業とどう価値創造できるかは、実は、自分達がどういう価値を提供できるか次第なのです。

実際、大分空港をアジアの人工衛星の打ち上げ拠点とする事業を、大分県は、パートナーの一つとしてヴァージン・オービット社という水平に人工衛星を打ち上げる米国企業と進めていますが、同社には、大分空港というインフラのみならず、産業集積と観光に魅力を感じてくれており、また、多様性などSDGsの観点も評価いただいています。そして同社とのパートナーシップをきっかけに、県内でも宇宙の機運が高まり、STEAM教育が始まり、衛星データを防災に活用する企業や宇宙食に挑戦する企業も生まれ始めています

大分県と提携するヴァージン・オービット社のジャンボジェット機
Credit: Virgin Orbit/Greg Robinson

大分県の宇宙産業に関する取り組み

現在大分県が特に力を入れているアジア初の水平型宇宙港ですが、大分県 商工観光労働部では宇宙関連産業の創出と育成を目指して様々な活動を行っています。

 

2021年には衛星データの活用を目的とした衛星データセミナー「THINK SPACE はじまる・まなぶ・つくる宇宙ビジネス」を開催し、2022年1月20日には宇宙港の活用と宇宙港を核とした新たなエコシステムの構築を目指して「スペースポート推進セミナー ~宇宙港がもたらす大分の未来~」が開催されました。

◆関連ページ:スペースポート推進セミナー ~宇宙港がもたらす大分の未来~

 

また、2022年2月26日からは「第33回 宇宙技術および科学の国際シンポジウム(通称ISTS)」を開催予定で、その事務局運営も大分県 商工観光労働部が担っています。ISTSは宇宙に関する様々な分野の専門家が集結するシンポジウムで、一般公開の国際宇宙展示会なども行われる予定です。
◆関連ページ:第33回 宇宙技術および科学の国際シンポジウム

第33回 宇宙技術および科学の国際シンポジウム in 大分別府大会

宇宙産業に挑戦する地元企業

大分県では宇宙港の推進以外にも、宇宙産業に関する様々な取り組みや関連する企業が存在します。

宇宙産業に関わる様々な大分県の企業 SPACE Media作成

製造の分野では、2018年10月に打ち上げを成功した地球低軌道環境観測衛星「てんこう」に、大分県下の4社が共同開発として貢献しました。炭素繊維強化プラスチック(CFRP)製パネルの開発した「株式会社江藤製作所」、アルミニウム合金製の内部構造を開発した「ニシジマ精機株式会社」、電源・衛星制御システムを開発した「株式会社デンケン」、「株式会社ケイティーエス」―それぞれの企業が持ちうる技術やノウハウを活かし、衛星開発において重要な役割を担いました。また、HⅡAロケットの本体燃料供給用パイプを手掛ける「株式会社安達化工機」も大分県下の企業の一つです。

観光の分野で注目されるのが、2021年10月に発足した「宇宙人観光推進委員会」です。宇宙人観光の振興と活性化を目的とした取り組みで、2021年12月にはこの取り組みに賛同する県下の加盟店は100店舗に達成しました。各加盟店では宇宙にちなんだイベントの開催や新商品などの開発を通して、大分県における宇宙産業の盛り上がりを後押ししています。

他の分野では、衛星測位システム「みちびき」を利用した船舶の離着岸・操船システムを開発する「ニュージャパンマリン九州株式会社」、メディアの立場で宇宙振興をサポートするOAB宇宙プロジェクトを企画した「大分朝日放送株式会社」、衛星データを活用して別府湾の美化を目指す「株式会社ザイナス」などがあります。

 

宇宙を通して大分県が目指す姿

アジア初の水平型宇宙港を目指す大分県ですが、従来宇宙開発に関わりの少なかった分野の企業が、宇宙産業に関わっています。最後に大分県としての宇宙産業への想いを高濱氏に伺いました。


大分県には、過去の様々な方々のご協力のおかげで、コンビナートや半導体工場、自動車工場などの大型産業が蓄積しています。温泉は、世界温泉地サミットも開催し、日本一ではなく世界一とも思っています。地熱という再生エネルギーも豊富です。大分国際車いすマラソンや太陽の家もあり多様性という強みもあります。

「宇宙をみんなにとってもっと身近なものにしたい」という思いをもった世界中のプレーヤーとともに価値創造を続け、日本を含むアジアの企業や人々に対し新たなビジネスや暮らしの選択肢を提供していきたい。その結果として、大分県が宇宙ビジネスの中核拠点となり発展する、そう信じています。

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SPACEMedia編集部