2022年10月下旬に、アメリカの有人月探査ミッション「アルテミス１」がスタートします。
計画では、2022年8月下旬の打ち上げを目指していましたが、打ち上げで使われる「SLS」ロケットが燃料漏れを起こした影響で延期しています。続いて9月下旬に延期されましたが、今度はハリケーンの影響で10月に延期されました。
「アルテミス１」ミッションは、SLSロケットやオリオン宇宙船の無人飛行試験です。無人飛行ですが、3人の「搭乗者」が地球と月の往復をします。記事前編では、そのうちの1人である「Commander Moonikin Campos」を紹介しました。後編では、他2人の「搭乗者」について説明します。
▼前編はこちら！▼
【前編】オリオン宇宙船の3人の「搭乗者」？月に向かうマネキンたち。
目次
胴体だけのマネキン！？ 〜HelgaとZohar（ヘルガとゾーハー）〜
アルテミス１のオリオン宇宙船には、２体のトルソー（torso）が搭載されています。トルソーとは、ドイツ語で「胴体」を指す言葉で、頭や腕、足がないマネキンのことです。2体のトルソーには名前が付けられており、Helga（ヘルガ）とZohar（ゾーハー）と呼ばれています。
ヘルガとゾーハーは、イスラエル宇宙機関（ISA）とドイツ航空宇宙センター（DLR）がNASAと共同で行っている「Matroshka AstroRad Radiation Experiment（MARE）」研究の一部になります。この研究では、宇宙飛行士が月や火星へ行く時に暴露（ばくろ）する放射線の測定と評価を実施します。また、飛行士を長期間の放射線暴露から保護するための放射線遮断ベスト「AstroRad」の性能試験も行います。
ヘルガとゾーハーは、人間の骨や臓器、軟部組織、成人女性の臓器を模倣した材料から製造され、女性を模して開発されました。理由としては、女性は男性に比べて宇宙線の影響を受けやすいことが挙げられます。
２ 宇宙飛行士と宇宙線
上述した研究の背景には、宇宙線の存在があります。
宇宙空間には「宇宙線」と呼ばれる放射線が飛び交っています。NASAによれば、国際宇宙ステーション（ISS）に滞在している宇宙飛行士は、地球上の人々が経験する放射線レベルの約50倍高い放射線を浴びることになります。また、地球から離れ遠くへ行けば行くほど、浴びる放射線量も多くなり、150倍以上になることも想定されています。
飛行士が宇宙線を浴び続けると、健康被害が出る可能性もあります。特に長期間にわたる有人月・火星探査ミッションの場合は、宇宙線の暴露量をどのように減らすのか工夫が必要です。このような宇宙線の脅威から守り、飛行士の放射線暴露量を減らすことを目的として、放射線遮断ベスト「AstroRad」が開発されました。
３ 放射線遮断ベスト「AstroRad」
AstroRadは、イスラエルの会社「Stemrad」とロッキード・マーチンが共同で開発しました。胴体と放射線検知器の大部分は、ドイツ航空宇宙センターが提供したということです。ベストは、ISS滞在中の宇宙飛行士によって着心地（フィット感）や機能が評価されており、アルテミス１ミッションでの使用は、ベスト開発をさらに前進させると考えられます。
アルテミス１ミッションでは、AstroRadが受ける放射線の測定と評価が実施されます。２体のマネキンのうち、ゾーハーのみが着用し、ヘルガは着用しません。この実証実験により、ベストを着用した場合、どのくらい放射線の暴露を防ぐことができるのかが測定できます。実験結果は今後のベスト開発や有人月・火星探査へ生かされます。
おわりに
後編では、2人の「搭乗者」であるヘルガとゾーハーを紹介しました。宇宙飛行士の宇宙線暴露は、今後人類の宇宙進出が進むに従って、さらに問題となっていくと予想されます。アルテミス１ミッションの知見が今後の有人月・火星探査へどのように利用されるか注目です。
参考記事：
Purposeful Passenger: Artemis I Manikin Helps Prepare for Moon Missions With Crew – NASA
Orion “Passengers” on Artemis I to Test Radiation Vest for Deep Space Missions – NASA
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