コラム

COLUMN

米国のNew Spaceと西海岸

New Spaceという言葉がバズ化した現在、日本にもNew Spaceといわれる企業がいくつかありますが、まだまだビジネスとして本格始動しているとは言えない状況です。New Spaceの先駆者である米国において、New Space企業はOld Space企業に伍してどのように活動しているのでしょう。米国の宇宙開発と西海岸の歴史を紐解きながら考えてみました。

 

 米国の起業家やベンチャー企業が集う地域といえば、そう、言わずと知れたシリコンバレーですね。シリコンバレーはカリフォルニア州(CA)サンフランシスコのサンタクララ・パロアルト・サンノゼ地区の谷(Valley)と呼ばれる盆地地帯で、半導体、コンピューター、ソフトウエア、ハイテクベンチャーなどのIT企業、および研究所や関連企業が密集しており、半導体素材であるシリコン(Silicon)にちなんで名づけられたと言われています。スタンフォード大学のノーベル賞学者、ショックリー(William B. Shockley)教授が半導体の研究所を設立したのをきっかけに、同大学の周辺に半導体産業が集まったことからシリコンバレーが形成されたとの説が有力です。1956年、ショックリーはシリコンバレーのマウンテンビューに半導体研究所設立しました(「米国シリコンバレーの発展」[1]より)。しかし、社員たちはショックリーと馬が合わず、社員は独立してフェアチャイルドセミコンダクターを設立し、さらにインテルなどの半導体企業が生まれました(「note Shicciさんのブログ」[2]より抜粋)。

 

 米国でベンチャー企業が多く生まれた背景にはやはり軍事的側面があるようで、1957年に旧ソ連が世界初の人工衛星「スプートニク1号」を打ち上げると、1958年以降アメリカ政府も科学技術への投資に目を向け、ベンチャー振興政策の一環として「1958年スモール・ビジネス・インベストメン ト・アクト(中小企業投資法)」が制定されました(米国シリコンバレーの発展」[3]より)。以降、1962年のキューバ危機から1989年12月のマルタでの米ソ首脳会談までの冷戦時にはシリコンバレーに700程度のベンチャーキャピタルが生まれ、民間による投資額も、その後、爆発的に増え、現在の起業と投資のサイクルが出来上がったようです(「note Shicciさんのブログ」)。

 

 さて、皆さんよくご承知のGAFAを中心とするIT企業がどこに本拠に置いているか調べてみました。

Google:1995年にスタンフォード大学で始まり、カリフォルニア(CA)、マウンテンビューにある現在の本社(Googleplex)に移転しました[4]

Apple:1976年、ガレージで設立後、クパチーノ(Cupertino)、CAに本社を移しました[5]

Facebook:2004年2月、ハーバード大学のZuckerberg、 Moskovitz、 Saverin、 Hughesによって創設され、Yale、 Columbia、 Stanfordの各大学に展開したのち、同年6月にはパロアルト(Palo Alto)、CAに本社を移転しました[6]

Amazon:1994年、ジェフ・ベゾス(Bezos)はインターネット書店であるCadabra.comを始め、1995年ワシントン州ベルビュー(Bellevue)の自宅ガレージでAmazonを立ち上げました。現在、本社はワシントン湖を挟んでベルビューの反対側(西側)のシアトルにあります[7]。2000年、ベゾス氏が宇宙企業のBlue Originに出資したことは有名です。

 このようにAmazon以外はシリコンバレーに本拠を構えています。と言っても、Amazonが本拠を置くシアトルにはAmazonの他Microsoftや、コーヒー好きにはたまらないSeattle’s Best Coffee、 Starbucks Corporation、Tully’s Coffee Corporationの本社があります。ちょっと話がずれましたが、シアトルは、ベンチャー企業というよりも米国大手ハイテク企業が集まるハブとしての役割を担っているようです[8]

 

 SPACE Mediaの本題である宇宙分野について見てみましょう。ベゾス氏が出資するBlue Originは、最近、シアトル南部のWashington州Kentに本社を移転しました[9]。その他の米国のNew Spaceと言われる企業はどこに居を構えているのでしょうか。

SpaceX(ロケット、衛星、宇宙移住): ‎Hawthorne、CA

Planet Labs(衛星)                  : San Francisco、 CA

Cappela Space(衛星)              : San Francisco、 CA

BlackSky                                    : Seattle(衛星データ)、 WA

SpaceKnow(衛星データ分析):New York、NY

Orbital Insight(衛星データ分析):Palo Alto、CA

Blue Origin(ロケット)                          : Kent、 Washington

Nanoracks(宇宙用製品)          :HOUSTON、 TX

 

 筆者はSpaceXをNew Spaceに分類するのは同社の資金面や技術面で若干、抵抗を感じているのですが、改良に改良を重ねたエンジンをクラスター化することでロケット打ち上げ価格を破壊したという点や、ブースタ等の再使用化といった観点から、新たな市場価格を開拓したという意味でNewと言わざるを得ないでしょう。さて、本拠地の話に戻りますが、やはり西海岸、それもシリコンバレー近辺が多いですね。筆者がわざと、西海岸に本拠を置く企業を選んだわけではなく、露出の多い米国のNew Spaceを選んだ結果です。

 では、ここでOld Spaceといわれる米国の宇宙企業の本拠地を調べてみたいと思います。これまで、米国の宇宙企業は合併を繰り返してきましたが、最近の状況は以下のとおりです。

Boeing(衛星部門):El Segundo、 CA

SS/L(現Maxar衛星部門)       : Fabian Way Palo Alto、 CA

Lockheed Martin(衛星部門)   : Denver、 Colorado

 Lockheed Martinは、筆者も何度か訪問したことのある東海岸ペンシルバニア州のNewtownの施設を2015年に閉鎖し、Denverに移設しました。同時に、California、 Sunnyvaleの設備を施設内で統合したとのことです[10]

Northrop Grumman(衛星部門):Gilbert、 Arizona

 子会社の Northrop Grumman Innovation Systemsの宇宙システム部門は元Orbital ScienceでDulles、 Virginiaに本部があります。

ULA[11](United Launch Alliance)          :Denver、 Colorado

 Lockheed MartinとBoeingの衛星打ち上げ合弁会社です。

 

 やはり、西海岸が多いですね。宇宙関連産業は東海岸を中心とする政府機関や軍との関係が深いにもかかわらず、西海岸のカリフォルニアを中心とした地域に集まっていることがわかります。この理由については精緻な調査・分析が必要かと思いますが、以下のような理由が考えられるのではないでしょうか。

  • New Spaceの技術をOld Spaceに提供しやすい。
  • New SpaceがハイテクIT企業と連携しやすい。

 米国のDARPA (Defense Advanced Research Projects Agency)が進めるBlackjackを例にとって①の状況を見てみます。Blackjackは2022年までに20基の衛星を低軌道に配置し、LEOシステムがグローバルな高速通信を提供できることを実証するプロジェクトですが、システムのインテグレーションをLockheed Martinが担当し、衛星バス、ペイロード、Pit Bossと呼ばれる自律データプロセッサ間のインターフェースを定義してカリフォルニア州サニーベールにある同社の衛星製造工場で組み立てを行います[12]。このBlackjackプログラムには米国以外の企業も含め以下の企業が参加しています。

【衛星バス】

Airbus(フランス)、 Blue Canyon Technologies(Boulder, CO)、Telesat(カナダ)

【ペイロード】

Collins Aerospace[13](Charlotte, North Carolina:Raytheonの子会社)、Raytheon[14](Waltham, MA)、Northrop Grumman(Gilbert, Arizona)、Trident[15](Fairfax, VA)、SA Photonics[16](Los Gatos, California)、Airbus(フランス)、Systems & Technology Research(Woburn, MA)、Sky Quantum[17](San Jose, CA)、 L3Harris[18](Melbourne, FL)

【Pit Boss】

Scientific Systems Company[19](Woburn, MA)、SEAKR Engineering[20](Centennial, CO)、 BAE Systems(英国)

 

 Lockheed Martinはサニーベールの工場でインテグレーションを行うことから、東海岸に本拠を置く歴史の古い企業に加えて、コロラドなどの西海岸に本拠を置く多くの企業が参加しています。この中で、初期投資段階の量子通信を提供するSan Joseのベンチャー企業であるSky Quantum Inc.が参加していることは注目に値すると考えていいのではないでしょうか。

 Maxarがリモートセンシング衛星を運用するDigital Globe(コロラド州ロングモント)を買収したのもこの例に入るのではないでしょうか[21]。このような、大手企業による宇宙ベンチャー企業の買収例は多数見受けられます。

 ②の例としては、Blacksky(シアトル)が2016年に地理空間情報プラットフォームを手掛けるソフトウェアおよびデータ分析企業のOpenWhereを買収した例があります。

 また、Orbital InsightはDigital GlobeのGBDXデータプラットフォーム(The Geospatial Big Data platform)を利用した最初のAI分析スタートアップの1社であり、コンピュータビジョンを使って高解像度衛星画像からのインサイトを提供していますが、AI企業であるFeatureXを買収しています[22][23]

このように米国における、New SpaceとOld Space、New Spaceとハイテクベンチャー企業の連携をうかがうことができますが、筆者は仮説として、Old Spaceの人材がNew Spaceの活動を少なからず支えているのではないかと考えています。

 

 日本では、内閣府宇宙開発戦略推進事務局が、「宇宙」をキーワードに新産業・サービス創出に関心をもつ企業・個人・団体などの活動を支援・創出するネットワーキング活動として、2016年3月22日にS-netを立ち上げました[24]。さらに、宇宙に関する新たなビジネス・アイデアや新事業構想を有する起業家と、宇宙分野に投融資の意欲がある投資家とのマッチングを円滑化するための場としてS-Matchingが設けられています[25]。これは日本における宇宙ビジネスが自然派生的に成長していないことの裏返しではないかと危惧しています。シリコンバレーに本拠を置くOld Spaceとシアトルを含む西海岸のNew Space間の人材交流や情報交換、技術提携がどのような舞台裏で進んでいるのか、現地ヒアリングなども行って調査するのも日本の宇宙ビジネスを見つめ直す一つの方法ではないかと考えています。

 

写真はApple Park:AppleのNewsroomから掲載

(https://www.apple.com/newsroom/2017/02/apple-park-opens-to-employees-in-april/)

 

[1] https://yu-cho-f.jp/research/old/pri/reserch/monthly/2002/165-h14.06/165-topics2.pdf

[2] https://note.com/shicci/n/n09f94981c86e

[3] https://www.yu-cho-f.jp/research/old/pri/reserch/monthly/2002/165-h14.06/165-topics2.pdf

[4] https://about.google/intl/ALL_jp/our-story/

[5] https://www.macworld.co.uk/feature/apple/history-of-apple-steve-jobs-mac-3606104/

[6] https://www.thestreet.com/technology/history-of-facebook-14740346

[7] https://www.aboutamazon.com/amazon-hq-tours

[8] https://money-academy.jp/next-silicon-valley/

[9] https://www.blueorigin.com/news/blue-origin-opens-new-headquarters-in-kent-washington

[10] https://spacenews.com/38154lockheed-martin-space-systems-newtown-facility-closing-by-2015/

[11] https://www.ulalaunch.com/about

[12] https://spacenews.com/lockheed-martin-wins-darpa-contract-to-integrate-blackjack-satellites/

[13] https://www.collinsaerospace.com/

[14] https://www.raytheon.com/cyber/contact

[15] http://www.tridentspace.com/

[16] https://www.saphotonics.com/

[17] https://skyquantum.space/

[18] https://www.l3harris.com/locations

[19] https://www.ssci.com/

[20] https://www.seakr.com/

[21] https://www.maxar.com/industries/earth-observation

[22] https://seraphimcapital.passle.net/post/102f2ng/future-of-earth-observation-real-time-insights-from-multi-source-ai-data-analyt

[23] http://www.featurex.ai/

[24] https://s-net.space/

[25] https://s-matching.jp/front__index/

2021.1.18
2021.1.12
2020.12.21