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スペースワン社取締役「カイロス再打上げは近日中にお知らせ」 顧客は防衛分野も視野に【SPACETIDE2024レポート①】

登壇した鈴木一人氏(左)と遠藤守氏(右)

2024年7月8日から7月10日にかけ、東京・虎ノ門ヒルズフォーラムにおいてアジア太平洋地域最大級の国際宇宙ビジネスカンファレンス「SPACETIDE2024」が開催され、スペースワン株式会社取締役の遠藤守氏が登壇し、「リスクに立ち向かう挑戦の文化:正解のない時代を導く民間宇宙ビジネスのスピード感と経験は価値」と題したスピーチを行った。モデレーターは、東京大学公共政策大学院教授で宇宙政策に精通する鈴木一人氏が務めた。

スペースワン社は今年3月に自社で開発した「カイロス」ロケット初号機の打上げに失敗したばかり。この記事では、同社取締役の遠藤氏が語った再打上げの予定や民間企業ならではの特徴、防衛分野も見据えた同社の今後の目標について紹介する。

再打上げは近いうちに 初号機打上げで得た「全体の仕上がりは9割」の確信とスピード感の重要性

スペースワン社が開発したカイロスロケット初号機は、2024年3月13日に同社が所有する射場「スペースポート紀伊」から打ち上げられたが、打上げ直後に機体が爆発、失敗した(参考記事)。この失敗について同社は、異常を検知した場合、飛行安全のため自律的に指令破壊を行う可能性があるとしていたが、失敗原因の詳細や2号機の予定に関する発表は行っていない。遠藤氏は、「(初号機の)飛行中断の結果や再打上げに向けた作業については、確認すべき事項があるため本日は説明できないが、そう遅くない時期にお知らせできると思う」と述べた。

2号機に関連する動きとして、すでに「カイロスロケット2号機打上げ応援サイト」がオープンされており、同サイト内では「打上げ日が決まるのは打上げ日の1~2か月前」と案内されている。

爆発したカイロスロケット初号機

なお、初号機打上げ後の会見において、同社の豊田正和社長は「失敗という言葉は使わない」と述べた。遠藤氏はこの発言の真意について問われると、2020年代後半に年間20機を打ち上げることが目標であると示したうえで、「初号機において一連のオペレーション(打上げに向けた作業)を行った結果、目標は実現可能であると確信した。ロケットは5秒しか飛翔しなかったが、全体システムの仕上がりは9割を超えている。その意味で、失敗ではなく、ここまで進んできたということだ」と述べた。

会場内のスライドには豊田社長の言葉が示されていた

また遠藤氏は、民間ロケット企業の「先輩」にあたるロケットラボ社が開発した「エレクトロン」ロケットが初号機打上げに失敗したものの、その後7年間で約50機・年間平均7機のペースで打ち上げられていることに触れ、「(ロケットビジネスは)リスクがあるが、これに打ち勝ってスピード感を持って取り組まなければ、市場に入っていくことはできない」と述べ、「(初号機が飛翔した)5秒の経験を価値として努力していく」とした。

公的機関と民間企業の違い 射場の自社保有は苦しいがメリットも

遠藤氏は宇宙航空研究開発機構(JAXA)において「H-IIA」ロケットをはじめとする多くのロケット開発に携わり、副理事長も務めた経歴を持つ。公的機関であるJAXAと民間企業であるスペースワン社とのスピード感の違いについて、遠藤氏は「公的機関が国家的事業を税金を使って行うことと、民間企業が事業目標をもって行うことの差である」とし、「(スペースワン社では)国家的事業のようにステップごとに確認するのではなく、設備工事やロケット設計などの作業を並行して進めた。齟齬が出れば後戻りせずに前に進んでいくことで、短期間で打上げまで行うことができた」と述べた。

また、世界では公的機関がロケット射場を整備することが一般的だが、スペースワン社は自社で射場(スペースポート紀伊)を保有している。遠藤氏はこの意味について問われると、アメリカのような、民間企業がリースできる発射施設が日本には無かったことを示したうえで、「世界を相手にするには、早くロケット市場へ参入する必要があった。そのため、最初は苦しかったが、自社で射場を建設・保有することにした」と述べ、結果的に制約を受けずに最適な射場システムができあがったとした。

一方で、今後については「さまざまな面で支援をいただきたい。実績を積めば、政府にも意見を取り入れていただけると思う」と述べた。

スペースポート紀伊の外観

今後のスペースワン社の目標 ロケットを増強、即応性生かして防衛分野も顧客に

ロシアによるウクライナ侵攻によってロシアのロケットが商用利用不可になったこと、多数の人工衛星を協調させて運用する「コンステレーション」が発展したことなどにより、近年世界はロケット不足に陥っている。

この状況下において、どのようなロケットが求められているのか、スペースワン社はどのような層をターゲットにしていくのか問われると、遠藤氏は大型・小型どちらの衛星も需要が伸びていくと予想したうえで、「200kg以下の小型衛星をターゲットにしている」と述べた。

また、小型衛星も大型化しているのが現在のトレンドであるとして、「文部科学省や防衛省の協力を得てカイロスロケットの増強型を開発し、300kg級の衛星も目標としていく。これらをターゲットとしつつ、顧客が使いやすい、即応性のあるロケットにしていきたい」と述べた。なお2024年3月には、同社と防衛省の間で、メタンエンジンを含むカイロスロケット上段の能力向上に関する研究契約が結ばれている。

現行のカイロスロケットと増強型のイメージ図
Credit:防衛省「小型ロケットの能力向上の進歩状況について」より

遠藤氏が述べた「即応」的なロケット打上げは、重要な衛星が機能を失った際に代替衛星を打ち上げる場合に行われることが多く、安全保障のニーズが強いものだ。長年、この即応的な打上げは、主に航空機からロケットを打ち上げる「空中発射」が担ってきた。

安全保障の専門家である鈴木氏からこの点について問われると、遠藤氏は、高度100km以上が宇宙であり、航空機は高度10km程度までしか飛ぶことができないとして、「地上からの打上げと航空機からの打上げに大きな差はないと思う。地上からの打上げは、地形的・経済活動的な問題があるが、事前に対応すれば問題ない」と述べた。

カイロスロケット初号機が搭載していた「短期打上型小型衛星」も、安全保障の意味合いを強く持つ衛星だった
Credit:内閣衛星情報センター「短期打上型小型衛星の打上げについて」より

さらに鈴木氏から、防衛分野の顧客を想定しているか問われると、遠藤氏は、政府の安全保障政策の中で宇宙分野の重要性が高まっていることは認識しているとし、同社の事業目標がいつでもどこにでも衛星を打ち上げる「宇宙宅配便」であることに触れ、「(同社のサービスは)安全保障分野の即応打上げとの親和性が高いと思っており、当然意識している」と述べた。

この記事では、SPACETIDE2024においてスペースワン社取締役の遠藤氏が語った、再打上げの予定や民間企業ならではの特徴、防衛分野も見据えた同社の今後の目標について紹介した。

最後に遠藤氏は、「利用者と対話して声を聴き、お互いにWin-Winにやっていけるよう努力したい」と述べ、国内の衛星メーカーへカイロスロケットを利用してほしいと呼びかけた。その第一歩として、まずは近日中に発表される予定のカイロスロケット再打上げ情報に注目だ。

執筆者プロフィール

加治佐 匠真(かじさ・たくま)
鹿児島県出身。早稲田大学卒業。幼い頃からロケットが身近な環境で育ち、中学生から宇宙広報を志す。2019年より宇宙広報団体TELSTARでライター活動を始め、2021年からはSPACE Mediaでもライターとして活動。主にロケットに関する取材を全国各地で行う。主な取材実績にH3ロケット試験機1号機CFT(2022)、イプシロンSロケット燃焼試験(2023、記事)、カイロスロケット初号機(2024、記事)など。

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