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防災・減災にカーボンニュートラル、地理空間情報で実現するSDGs ―朝日航洋

航空機による物資・旅客輸送、ドクターヘリ運航に加え、3D測量などの地理空間情報サービスを
提供する朝日航洋株式会社。
発達著しいデジタル技術も取り入れながら、激甚化する災害の予防や地理空間情報を活用した
カーボンニュートラル支援にも取り組む。事業の現状を聞いた。

左から、朝日航洋株式会社イノベーション推進部の伊藤優美 氏(いとう・まるみ)、
朝日航洋株式会社 イノベーション推進部 部長の村田直樹 氏(むらた・なおき)、
朝日航洋株式会社 営業統括部の角方奏世 氏(かくほう・かなよ)

航空・空間情報の技術とアセットを活かして日本の社会インフラを支える

1955年に創業、『空にさきがけ未来をひらく』という企業理念の下、長年にわたり航空・空間情報事業を柱として社会インフラを支えるサービスを提供してきた朝日航洋。

古くは黒部ダム建設時の物資輸送や、富士山頂の気象観測レーダードームの空輸・設置など、戦後日本の成長を牽引するインフラ開発に携わり、また2011年の東日本大震災の際には復興支援として物資輸送・航空写真撮影・レーザ計測を実施。近年は、デジタル技術の発達や“空飛ぶクルマ”などの新たなモビリティ普及への対応も視野に入れた取り組みを進めている。

地表面、および水面下を計測できる航空レーザ測深機(ALB)を
搭載した航空機。レーザ測量はカーボンニュートラルの観点でも
役立てられている
Credit: 朝日航洋

同社の地理空間情報の活用について、営業統括部に所属する角方奏世氏はこう話す。

「地理空間情報は、災害が起きた後の状況把握に使われることが多かったのですが、水面下を計測可能な航空レーザ測深(ALB)といった測量技術等の進歩によって、三次元河川管内図(河川維持管理のため河川を立体的に表現した地図。河道内の地形変化や越水危険個所の把握等に用いられる)の作成など、精緻な計測ができるようになりました。これにより、最近では災害予防、いわゆる減災にも活用されるようになっています。例えば、河川の氾濫が発生した際にどの辺りまで水が来るかを示すハザードマップの作成や、避難ルートの作成などにも地理空間情報が利用されています」

また、昨今、日本各地で課題となっているインフラ維持管理の面でも、地理空間情報が活かされている。レーザ機器や、フルハイビジョンテレビの16倍の画素数をもつ8Kカメラを車両に搭載して走行させ、トンネルなどのインフラ施設の天井や壁面を計測、劣化の点検などに活用されているという。

精密な情報がとれるようになったのは、測量技術の高度化に加え、IoTセンサー(インターネット接続によってデータを収集・管理するセンサーのこと)などが普及してきたからという面もある。朝日航洋イノベーション推進部の伊藤優美氏は、センサー技術と地理空間情報を組み合わせた事例について、次のように説明する。

「車両に備え付けたセンサーを活用して急ブレーキやタイヤの傾きなどを検知することで、路面の凹凸具合や路上の危険箇所がわかります。こうした走行データを当社で処理し、傾向分析などを行うことで、路面状況の把握や、交通安全対策などに活用いただけるような行政向けサービスの展開を進めています」

また、現在同社が参加している国土交通省の『ワンコイン浸水センサー実証実験』では、行政の防災対策部署などと連動して安価なIoTセンサーを河川堤防の近くやアンダーパス(地下道)など浸水が想定されるエリアに配置し、洪水発生時の対応の迅速化や被害状況の可視化などに向けた検証を進めている。

センサーの活用は、従来は人が現地に赴いて行っていたデータ収集を自動的に、リアルタイムに行える点でメリットがある。こうして収集される多様かつ大量のデータをどう活かすかは、新たなサービスの開発にもつながるといえる。

国土交通省による日本全国の3D都市モデルの整備・オープンデータ化
プロジェクト「PLATEAU」で、朝日航洋が3Dモデル作成を担当した新潟駅周辺
出典:PLATEAU(国土交通省)

防災だけじゃない!カーボンニュートラルにも寄与する地理空間情報

集中豪雨による浸水や土砂災害が頻発し、また高度成長期から時間を経た各種インフラの老朽化が課題となるなかで、地理空間情報はさまざまな活用の可能性をもっているが、最近では脱炭素、カーボンニュートラルの観点でも新しい価値の創出に役立っているという。

「昨今増えている気象災害の要因でもある気候変動対策としてのカーボンニュートラルにも、測量が役立っています。航空レーザ測量による森林資源解析では、森林がもつ二酸化炭素(CO2)の吸収量が推定できます。森林資源やCO2吸収量をどう活かすかという点でも、地理空間情報が役立ちます」(角方氏)

朝日航洋では従来から、都道府県等に向け、自治体が所有する森林の資源解析業務(航空レーザ計測データを活用し樹高、樹木本数、樹種等から森林資源量を推定、間伐が必要な箇所の抽出などを行う業務)を行ってきた。こうしたなか、CO2をはじめとする温室効果ガスの排出削減量や吸収量をクレジットとして国が認証する制度『J-クレジット』において、静岡県内に社有林をもつ日本製紙が、静岡県による3次元点群データのオープンデータプロジェクト『VIRTUAL SHIZUOKA(バーチャル しずおか)』のデータを活用してCO2吸収量を算定、2022年9月にJ-クレジット認証を取得した。

実はこの『VIRTUAL SHIZUOKA』のレーザ測量を行ったのが朝日航洋だ。カーボンニュートラルの早期達成が急がれる今、国土の7割近くが森林である日本には森林クレジットのポテンシャルがあるとも言える。同社でも現在、カーボンニュートラル達成に貢献できるようなアイデアを考えているところだという。

バーチャルSHIZUOKAで計測した富士山レーザ点群データ
出典:富士山周辺データプレビュー

業界の常識とは異なる目線で、ビジネスへのスケールアップを見据えたアイデアを

昨年度の『イチBizアワード』での企業賞授与の様子。
朝日航洋は株式会社天地人に企業特別賞を授与した
Credit: 朝日航洋

同社は昨年も『イチBizアワード』へ協賛し、衛星データ活用サービス等を展開する株式会社天地人に企業特別賞を授与。宇宙ベンチャーである天地人がもつ、衛星画像のデータ解析技術などのナレッジがシナジーを生むのではないかと期待したという。現在も新たなソリューション開発に向けて共同で検討を進めているところだ。

2回目となる同アワードへの期待を、伊藤氏はこう語る。

「去年も協賛企業としてさまざまなアイデアを拝見しましたが、この業界にいる私たちでは思い浮かばない、新鮮なアイデアに出会えることを期待しています。当社では地理空間情報を防災・減災やカーボンニュートラルに活用しているとお話ししましたが、これに寄り過ぎず、素直に『これがやりたいんだ』というアイデアを出していただきたいと思います。また、私たちのお客さまは現状、官公庁が中心ですが、新たなサービスを構築するにあたり、他の業種・業界の方々とのコネクションが少ないという課題もあります。アワードを通じて、こうした新しい連携も模索したいと考えています」

また、同社イノベーション推進部部長の村田直樹氏は、事業としての具体性まで見通したアイデアにも期待したいと話す。

「昨年の選考では、ジャストアイデアのレベルのものから、すでにビジネスとして動き出しているものまで、さまざまな段階のアイデアがありました。協賛企業として、今年はぜひ、本当にビジネスにスケールアップしていくような素地のいいアイデア、ビジネスとしての実現性を視野に入れた本気度の高いチャレンジを期待したいと思います」

地理空間情報という多彩なデータをいかにビジネスに落とし込み、社会課題の解決、新たな価値の創出につなげていくか。業種や業界を越えた発想が生まれることが期待される。

【イチBizアワードについて】

『イチBizアワード』は、内閣官房による、地理空間情報を活用したビジネスアイデアコンテストです。
2022年に第1回が行われ、第2回は2023年8月31日までアイデアの募集が行われました。応募されたアイデアは、審査を経て2023年11月上旬に結果発表が行われる予定です。

https://www.g-idea.go.jp/2023/

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