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日本全国を網羅する配送ネットワークが生む地理空間情報をどう活かすか―日本郵便【前編】

誰もが幾度となく利用しているであろうユニバーサルサービス、郵便。
業務改革と地理空間情報を活用したイノベーションに取り組む日本郵便株式会社に、
郵便事業を取り巻く環境の変化と、地理空間情報の可能性について聞いた。

左/中山圭子 氏(なかやま・けいこ)
日本郵便株式会社 郵便・物流オペレーション改革部 担当部長

1999年に郵政省(当時)に入省。財務や経営企画、通販事業等を経て、2023年4月より現職。従来の業務で培った既存の事業から新サービスの開発等を行うという視点は、現所属の既存のオペレーションから新たな改革を進めるという点に活かしているという。

右/佐藤青葉 氏(さとう・あおば)
日本郵便株式会社 郵便・物流オペレーション改革部 主任

2018年に日本郵便株式会社に入社、現在6年目。現場の郵便局での研修を経て、3年前から郵便・物流オペレーション改革部に所属。同部署にて、未経験ながら配達員用スマートフォンのアプリ開発に取り組んでいる。

日本全国をつなぐ、郵便事業の歴史と今

1871(明治4)年、「日本近代郵便の父」と呼ばれ、1円切手の肖像としても有名な前島密によって始まった郵便事業。

創業当初は、東京と京都・大阪間での取り扱いが行われたが、すぐに全国的なネットワークが完成、その後、逓信省や郵政省といった中央官庁の管轄となり、公益的な性格の強い事業となった。さらにこの後、民営化によって郵便・ゆうちょ・かんぽの窓口業務を担う郵便局株式会社と、郵便の引受から配達までを担う郵便事業株式会社に分割。2012年の両社の統合を経て、現在の体制となった。現在の日本郵便では、郵便だけでなく、銀行・保険、通販といった事業も担っている。

日本全国をつなぐ郵便事業。日本郵便では地理空間情報も
活用しながらオペレーションの改革を進めている(イメージ画像)

新しい郵便業務を模索する「郵便・物流オペレーション改革部」

長い歴史をもつ日本郵便の中でもかなり新しい部署である「郵便・物流オペレーション改革部」は、2019年4月に発足した。日本郵便社内での同部署のミッションについて、郵便・物流オペレーション改革部 担当部長の中山圭子氏はこう説明する。

「郵便物を引き受けて日本全国に配達する郵便事業は当社の基幹事業であると同時に、配達に関する人員や機器、設備などアセット的にも大きな割合を占める事業です。現状、配達は人が担っているので極めて労働集約的であり、効率化・IoT化などが十分に進んでいない面もあります。郵便物の引受けを担当する部署、輸送を担当する部署などが別々に効率化やシステム化を考えると、ネットワーク全体としての最適化ができない恐れがあり、また日常業務を遂行する中での改善・改革は難しいという理由もあって、オペレーション関連部の中に、既存のオペレーションを変革していく部署として発足しました」

一般に、新規事業の開発やDX(デジタル・トランスフォーメーション)など、新たな取組みが始まる際には、トップ直轄としてこうした部門が設置されることも多いが、同部署は既存のオペレーション関連部門の中からできた部署であることが特徴だ。

「従来のオペレーションの視点から、業務の改善・改革を考えていく立場で、その延長にDXや新規事業があるという意識です。ゼロベースというより、既存の現場の課題から新しいことを考えるという姿勢です」(中山氏)

さまざまな情報を活用して配達のオペレーションを改善

そんな郵便・物流オペレーション改革部が設置間もない頃から進めてきたのが、デジタル時代に対応した配達オペレーションの改善である。

これまで、ゆうパックなどの荷物は郵便局に集められると、ラベルに書かれた届け先の情報を元に、紙の地図を見て配送ルートを考えるという作業が行われてきた。しかし、eコマースが浸透し、届け先の情報も電子化されている。これを活用し、現在ではラベルのバーコードを読み込むと、引受時に登録された住所情報から配送ルートを自動で計算する『自動ルーティングシステム』が稼働している。

荷物を引き受ける段階で宛先がわかるなら、より前の段階から、翌日配達する荷物の量やそれに伴った最適な人員配置も自動的に出せるのではと感じるが、これについてはまだ実現が難しいという。

「引き受ける荷物の数や要員体制は日々異なります。荷物の引受け、配達にかかわる要素・情報は意外に多く、これらをすべて反映することができていないのです」(中山氏)

自動ルーティングシステムの導入で一定の効果は見られたというが、完全な自動化や、大幅な効率改善に向けてはさらなる試行錯誤が必要なようだ。

デジタル技術の開発などでは、こうした試行錯誤を繰り返してアプリケーションやサービスの精度を高めていく『アジャイル開発』が主流となっている。この取組みも、現在進行中で改善を加えているところだという。

配達員がもつスマートフォンの情報をどう活かすか?

郵便・物流オペレーション改革部がこれまでに取り組んできた中で、一つ成果となるものであり、また今後に向けての重要な基盤となる施策が、配達現場へのスマートフォンの導入である。

従来の郵便業務では携帯端末機(上)が使用されてきたが、
現在ではスマートフォンのアプリ(下)による管理に変わっている
Credit: 日本郵便

一見、当たり前のことのようにも思えるが、郵便局では従来、配達専用に開発された端末とアプリケーションで配達状況の管理などが行われてきた。しかし、一つの業務に特化した専用端末では機能の拡張や他業務への転用ができない状況にあった。

「配達員の皆さんが当たり前のようにスマートフォンをもつ環境にすることができたのは大きな変化だと思っています。スマートフォンにはアプリを簡単に追加でき、GPSを通じて配達状況をより細かく把握できるようになりました」(中山氏)

配達員用スマートフォンのアプリ開発を担当した、郵便・物流オペレーション改革部 主任の佐藤青葉氏はこう語る。

「このアプリは、配達員の位置情報データを日々、毎秒取得します。局内の管理者はPCで配達員がどこにいるかを確認できるので、配達員の進捗状況を把握し、配達が早く終わった人を他の応援に回したり、また、猛暑の時期では熱中症で動けなくなっているのでは、といったことの早期発見にもつながります。現場の郵便局員からの意見もいただき、今もアジャイル開発で機能改修を行っています」

現在、日本郵便には約75,000名の配達員がいるという。彼らが日々、全国のまちを回ることで収集された情報は、配達行動の管理や効率化以外にも活用できそうだ。

「現在は、こうして取得したデータをどう活かすか模索している状態で、今後の課題であると考えています」(佐藤氏)

スマートフォンの活用を皮切りに、データを活用したオペレーション改革に挑戦する日本郵便。後編ではイノベーション創出に向けたスタートアップとの連携事例を紹介する。

後編に続く〜

【イチBizアワードについて】

『イチBizアワード』は、内閣官房による、地理空間情報を活用したビジネスアイデアコンテストです。
2022年に第1回が行われ、第2回は2023年8月31日までアイデアの募集が行われました。応募されたアイデアは、審査を経て2023年11月上旬に結果発表が行われる予定です。

https://www.g-idea.go.jp/2023/

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