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日本全国を網羅する配送ネットワークが生む地理空間情報をどう活かすか―日本郵便【後編】

地理空間情報を用いたビジネスアイデアコンテスト『イチBizアワード』に、
ゴールドスポンサーとして協賛する日本郵便株式会社。郵便という社会インフラ事業の
革新を目指して取り組む実証事業や、今後目指す方向性について聞いた。

左/中山圭子 氏(なかやま・けいこ)
日本郵便株式会社 郵便・物流オペレーション改革部 担当部長

1999年に郵政省(当時)に入省。財務や経営企画、通販事業等を経て、2023年4月より現職。従来の業務で培った既存の事業から新サービスの開発等を行うという視点は、現所属の既存のオペレーションから新たな改革を進めるという点に活かしているという。

右/佐藤青葉 氏(さとう・あおば)
日本郵便株式会社 郵便・物流オペレーション改革部 主任

2018年に日本郵便株式会社に入社、現在6年目。現場の郵便局での研修を経て、3年前から郵便・物流オペレーション改革部に所属。同部署にて、未経験ながら配達員用スマートフォンのアプリ開発に取り組んでいる。

日本全国で150年以上にわたり郵便サービスを提供する日本郵便。長い歴史の中で培われた郵便業務のオペレーションを時代に合わせて改革するとともに、その過程を通じて外部との共創や新規事業も生み出していくことをミッションとするのが「郵便・物流オペレーション改革部」だ(詳しくは前編を参照)。

お互いの強みを持ち寄る、スタートアップとの実証の試み

日本郵便という大きな組織の中で社内外と柔軟に協調する体制を備える同部署では、既存の郵便・物流オペレーションの改革という視点から、国内外の大企業やスタートアップとも積極的に接点をもち、実証などにも取り組んでいる。

地理空間情報に関わりが深い取り組みとして、同社郵便・物流オペレーション改革部 主任の佐藤青葉氏が紹介してくれたのは、イスラエルのスタートアップ企業・Innoviz Technologiesとの実証実験だ。

「Innoviz Technologiesは、点群データを取得するためのLiDAR技術に強みがあるスタートアップです。2022年度に弊社が参加したオープンイノベーションプログラムで出会ったことをきっかけに、昨年、同社のLiDARセンサーを郵便局の配達車両に取り付けて道路を走行し、周辺の空間情報を点群データとして取得する実証実験を行いました。そもそも配達車両を用いて精度の高いデータが取得できるのかという検証を目的とした実証でしたが、結果的によいデータが取れることがわかりました」

実証実験の様子(上)。Innoviz TechnologiesのLiDAR
センサー(下)は車両の前方上部に取り付けられている
Credit: 日本郵便

今回の実証では、車両が走行する前方のデータのみが取得できたため、今後は左右や360度など、より広範囲のデータ取得ができるよう模索する必要があるものの、配達車両にこうしたセンサーが付いていれば、日々の配達の過程で地域の変化をリアルタイムに近いかたちで観測することが可能になる。

「新しい家が建った、道路標識が変わったという情報は、社内で活用することはもちろん、地図制作会社や不動産関連の企業など、外部の企業に販売することもできるのではないかと考えています。配達の過程で取得できるデータを活かした新規事業にもつなげられるかもしれないと思っています」(佐藤氏)

佐藤氏は、Innoviz Technologiesのようなスタートアップ企業との連携の利点についてこう話す。

「私たちはLiDARのような最新技術やアセットはもっていません。一方で、当社には全国に張り巡らされた配達のネットワークがあります。外部のいろいろな企業がもつ技術と当社のアセットを組み合わせるからこそ生み出せる、新しい価値があるのではないかと考えています」

実証実験で取得したカメラ映像(上)とカラー化点群データ(下)。
路面標示や道路脇の建物・植栽も捉えられている
Credit: 日本郵便

生産年齢人口の減少、2024年問題… 日本の課題にデータで挑む

オープンイノベーションの観点で新たな取り組みにチャレンジする日本郵便だが、データを活用した配達オペレーションの改革はどのような課題解決につながると考えているのだろうか。

「やはり、背景にある大きな課題は生産年齢人口の減少です。社会的にも、当社としても重要な課題だと認識しています。また、直近の話題ではトラックドライバーの時間外労働時間の上限が制限される『2024年問題』もあり、限りある労働力をいかに有効に活用するかは、郵便・物流オペレーション改革部のミッションでもあると思っています。これまで当たり前だった業務のあり方を見直し、アナログだった部分をデジタルに置き換えて非効率な作業をカットしたりすることに加え、分散しがちなベテラン社員がもつ知識を教育に生かすといったことにも、今後取り組んでいけたらと考えています」(佐藤氏)

働き方改革に端を発する残業時間の規制『2024年問題』は、一人ひとりが健康に働き続けるためには不可欠なものだ。しかし一方で、人口減により働き手は今後どんどん少なくなっていく。こうした状況に対応するためには既存のオペレーションを大きく変えることが必要であり、特に郵便事業においては、地理空間情報の活用が大きなカギとなる可能性がある。

地理空間情報の活用、「完成形」ではなく「尖った」アイデアを

こうした課題意識を背景に、今回『イチBizアワード』に協賛した日本郵便。協賛にあたっては、同社が所属する日本郵政グループのベンチャーキャピタル・日本郵政キャピタルからの後押しがあったという。同社郵便・物流オペレーション改革部 担当部長の中山圭子氏は、アワード協賛の経緯をこう語る。

「郵便・物流オペレーション改革部では当初から外部のスタートアップ企業などと関係構築を行ってきました。持株会社である日本郵政が100%出資している日本郵政キャピタルは業界を問わず多様な企業に出資を行っていますが、地理空間情報関連の企業にも出資しています。これまでも双方で情報共有などをしてきましたが、その中でこのアワードを紹介され、協賛を通じて新しい技術やアイデアの発掘につなげられればという意図で参加することにしました」(中山氏)

さまざまなステークホルダーとのオープンイノベーション・共創を重視する日本郵便だが、今回の『イチBizアワード』には特にどのような点で期待を寄せているのだろうか。

「私たちはどうしても郵便事業という目線で考えるところがあるので、逆に郵便とは縁のない方の着眼点で、こういう地理空間情報の使い方があるのでは、というアイデアをいただけるといいかなと思っています。もちろん、郵便事業と紐づけたアイデアでもよいのですが、全く別の観点のアイデアを、私たちの方で郵便事業に応用してみるということもできるでしょう。必ずしもビジネスとして完成されたアイデアを提案いただく必要はないと思っています。それよりも、荒削りだけれども可能性を感じるような、尖ったアイデアが出てくることを期待しています」(中山氏)

ビジネスアイデアコンテストである以上は事業性やマネタイズのポイントを考えることも大切だが、それ以上にアイデアの独自性や新鮮さも重要になるということだ。最後に、中山氏はもう一つ大切にしたい観点として『公益性』をあげてくれた。

「郵便事業はもともと国の事業であり、公益という観点も重要な事業です。よりよい社会をつくるために地理空間情報をどう使うかという公益の観点も含めて、社会の課題解決に資するようなアイデアを出していただけたらと思っています」

【イチBizアワードについて】

『イチBizアワード』は、内閣官房による、地理空間情報を活用したビジネスアイデアコンテストです。
2022年に第1回が行われ、第2回は2023年8月31日までアイデアの募集が行われました。応募されたアイデアは、審査を経て2023年11月上旬に結果発表が行われる予定です。

https://www.g-idea.go.jp/2023/

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