人工衛星や航空機、ドローン、専用車両などを用いた測量だけでなく、地理空間情報を活用した
新たな事業の模索にも力を入れる株式会社パスコ。同社では現在、事業の進化を目指し
メタバースを活用して地域の価値を守り、後世に伝える取り組みを進めている。
人工衛星や航空機などによる測量や、地理空間情報データの分析・解析などのソリューションを提供するパスコ。同社では防災やインフラ管理などで増大するニーズに応えるとともに、事業の「深化・伸化・新化」を目指して海外展開や新たな事業の創造に向けた検討を開始したところだ(詳しくは前編を参照)。
目次
地理空間情報とメタバースを融合させた文化遺産保存の取り組み
既存の事業を深化・伸化させつつ、次世代を担う事業の創造にも力を入れるパスコが現在取り組んでいるのが、メタバースを活用した新たなビジネスモデルの検討だ。
この取り組みの一環として、同社は2023年4月に熊本県天草市、京都大学経営管理大学院と共同で、デジタル技術を活用した文化遺産の保存とその活用に関する実証プロジェクトを開始した(プレスリリース)。
「パスコは日本全国1,700あまりの自治体とのお付き合いがあり、もともと天草市とも接点がありました。今回は、長年にわたって天草市で地域の起業人材などを指導していらっしゃる京都大学経営管理大学院特任教授(京都大学 名誉教授)の小林潔司先生にお声かけいただいたことが、3者での共同プロジェクトのきっかけとなりました。地域の方と一体となって取り組みを進めてこられた小林先生がいらしたことで、産官学がともに文化遺産のデジタル化とメタバース活用に取り組むことになったのです」(橘氏)
パスコ・天草市・京都大学という産官学共同のプロジェクトが実現した背景には、同社が全国で築いたネットワークも貢献していたようだ。
このプロジェクトでは、天草の有形文化遺産を、デジタル技術を用いて計測・測量して再現するほか、モーションキャプチャ(人や動物の体にセンサーを取り付け、動きをコンピュータに取り込む技術)などを活用して、天草市牛深の伝統芸能である“牛深ハイヤ”踊りなど無形文化遺産もデジタル化。
文化遺産のデジタル情報は、後世へ伝えるための記録保存としてだけでなく、天草市の広報活動や観光事業などへも活用することが検討されている。
文化遺産の保存から、地域経済の活性化・コミュニティ構築につなげる
文化遺産をデジタル化するというこのプロジェクトでは、同社の文化財事業にかかわる知見や技術が活かされている。同社はこれまでにも栃木県日光市の輪王寺三仏堂の3次元データ作成や静岡県浜松市の二俣城跡天守台石垣等測量事業などに携わってきた。
「パスコでは、今回のプロジェクトで国の重要文化財に指定されている『祇園橋』の3次元モデル化も行いました」(橘氏)
石でできた橋であっても、何百年も経てば風化し、災害などによりその形が損なわれることも多々ある。貴重な文化遺産を後世に残すためには、これらが姿を留めているうちにデータ化して記録を残しておくことが重要だ。
一方で、保存・再現に資する精密な計測・測量は、空間情報を扱う企業でなければできない仕事でもあるという。
誰もがスマートフォンをもち、またドローンでの撮影なども手軽にできる現在だが、土地の変動などを加味した測量・計測が必要になるほか、文化財関連法規に対応したデータ取得も必要で、長年の経験と最新の技術をもつ地理空間情報の専門企業しかできない業務なのだ。
さらに、今回のプロジェクトで注目される点は、単にデータを取得して文化遺産を保存・再現するだけでなく、データを地域の活性化や魅力の発信につなげようとしている点だ。
「メタバースで宝の島・天草を再現し、牛深ハイヤ踊りなどのふるさと行事に、世界中どこからでも参加できる環境を試行するテスト空間を構築しました。メタバースは主にゲームなどエンターテインメント領域での活用に注目が集まっていますが、本プロジェクトでは、自治体が公共空間としてメタバースを活用することを前提として、法的課題や、実運用にかかわるセキュリティなどの課題も整理し、国の施策や法整備状況なども把握したうえで、デジタル化した文化遺産の地域振興活用を検討していく予定です」(橘氏)
プロジェクト発足当初は、橘氏自身も公共領域でのメタバース活用に対するイメージがつかめなかったというが、今回の取り組みで可能性が見えてきたと語る。
「メタバースで天草に興味をもった人に、実際に観光に来てもらうよう働きかけることなどもできると思います。地域に人を呼ぶ、ビジネスをつくる、メタバースはその手法の一つと捉えています」(橘氏)
パスコを含めた3者は、今回の実証を通じて、3次元デジタル技術と有形・無形文化遺産をメタバースという仮想空間内で融合させることで記録保存資料の価値を高めるとともに、文化遺産のデジタル資料を活用した地域振興のあり方を模索していく構えだ。
思いもよらないアイデア・気づきを得られる「イチBizアワード」
パスコは、地理空間情報を活用したビジネスアイデアコンテスト『イチBizアワード』が初開催された昨年から、同アワードに協賛を寄せている。アワードの魅力を、橘氏はこう語る。
「昨年の協賛時に企業賞を授与させていただいた芝浦工業大学附属中学高等学校の皆さんはもちろん、その他の応募者の方々のアイデアやプレゼンに対し、私たちも新鮮な驚きや気づきがありました。地理空間情報の業界の中にいると、どうしても斬新な発想というのは難しくなります。今年度も継続して協賛させていただくことで、新しいアイデアや、素晴らしい人材と出会えることを楽しみにしています」(橘氏)
産官学や分野・領域の壁を越えて新たな価値を探索する、パスコの『しんか』に注目したい。
【イチBizアワードとは】
『イチBizアワード』は、内閣官房による、地理空間情報を活用したビジネスアイデアコンテストです。
2022年に第1回が行われ、第2回は2023年8月31日までアイデアの募集が行われました。応募されたアイデアは、審査を経て2023年11月上旬に結果発表が行われる予定です。
https://www.g-idea.go.jp/2023/