2024年2月9日(金)、東京都目黒区のホテル雅叙園東京にて、NECグループの独立シンクタンクである株式会社国際社会経済研究所(Institute for International Socio-Economic Studies、通称:IISE。東京都港区、代表取締役社⻑ 松木俊哉)主催のビジネスイベント、IISEフォーラム 2024「知の共創で拓く、サステナブルな未来へ」が開催された。
IISEは2000年に設立。2009年にNEC総研と合併し、NECグループ唯一のシンクタンクとして活動しており、2022年4月からはNECとともに未来への市場戦略を提示する「Thought Leadership活動」を開始している。
また、元JAXA宇宙飛行士の野口聡一氏が2022年からIISEに理事として参画している。
なお、Thought Leadership(ソート・リーダーシップ)とは、「思想的リーダーシップ」とも言われ、特にビジネスの場において、特定の分野やテーマに対する自身のアイデアや意見を通じて他の人々に影響を与えていくことを示す。
今年で2回目の開催となる本フォーラムでは、インターステラテクノロジズ株式会社 取締役・ファウンダーの堀江貴文氏を迎えた基調講演が行われ、インターステラテクノロジズの活動や、堀江氏が見据える今後の宇宙ビジネスのビジョンが語られた。
目次
インターネット黎明期と似た状況の宇宙ビジネス、今はビッグバン直前
堀江氏は講演の冒頭、「宇宙を事業として考えている」と語り、1990年代に自身が携わったインターネットビジネスの黎明期と状況が告示していると指摘した。
インターネットも当初は軍事や公的機関が利用するものとして作られたネットワークだったが、民間が活用することで、エンターテインメントを含めた多様なサービスが誕生。現在ではあらゆる面で必要不可欠な存在となっているが、そうした「ビッグバン」が起きる直前の状態が現在の宇宙ビジネスの現在地であるとした。
宇宙ビジネスの根幹を支える、宇宙輸送のためのロケットビジネス
それをふまえ、堀江氏は2005年から民間宇宙開発の活動を開始し、2013年にインターステラテクノロジズ株式会社の事業を開始。ロケット開発を中心とした事業展開を進めている。
ロケット開発に取り組む理由について、堀江氏は、現在、世界中でLEO(地球低軌道)に向けた衛星打ち上げのニーズが増大している一方、国内ではこうした打上げに対応できる場が少なく、日本の打上げ需要が海外に流れてしまっている状況であると指摘した。
LEOに衛星を打ち上げて地球観測や通信サービスを提供するビジネスは、イーロン・マスク氏が展開するSpaceX社の衛星通信サービス「Starlink」を筆頭にさまざまな事業が進められており、衛星を中心とした宇宙ビジネスの事業性は疑う余地のないところにまで来ている。
こうした環境の中で、日本でも宇宙でビジネスを行うための基盤として宇宙輸送、ロケット事業が絶対に欠かせないということが堀江氏の考えだ。
現在、インターステラテクノロジズが開発を進めているロケットである「MOMO」「ZERO」は、国内メーカー各社からが開発・供給した部品が用いられており、また、ロケット燃料には同社が所在する北海道の畜産業で生じたバイオメタンを活用するなど、環境性や地産地消にも配慮。
MOMO、ZEROの次には国の次世代基幹ロケット「H3」よりも大きなサイズの「DECA」の開発を進めていきたいと語った。
また、堀江氏はロケット開発について、エンジン部品には自動車産業の技術が活用されていると紹介。
EV(電気自動車)の普及でエンジン車の製造技術衰退が懸念される中、こうした技術をもつ企業がロケット開発や宇宙開発にかかわることも重要だとした。
10年後、インターネットのバックボーンは宇宙に置き換わる
衛星を活用したビジネスの方向性について、堀江氏は「インターネットのバックボーンは今後10年ほどのスパンで宇宙に置き換わるはず」と述べた。
衛星コンステレーションによる通信や地球観測サービスの提供が広がる中、インターステラテクノロジズでも、フォーメーションフライトという、複数の衛星が編隊を組んで飛行することで宇宙空間に巨大なアンテナを展開して通信を提供するサービスを構想中だと語った。
また、「光格子時計」という従来の原子時計の精度をはるかに上回る精度の時計が実装されれば、時間解像度が向上することで測位サービスの精度も格段に向上するだろうと今後の技術展開に対する期待も紹介した。
フォーメーションフライトや光格子時計の実現などが社会実装されれば、地球をリアルタイムで観測することも可能になり、さまざまな産業でパラダイムシフトが起こるだろうとの予測も語った。
堀江氏&野口氏ディスカッション:さまざまな人・企業が携わる重要性
堀江氏のプレゼンテーションの後には、宇宙キャスターの榎本麗美氏を司会に、IISE理事で元JAXA宇宙飛行士の野口聡一氏とのディスカッションが行われた。
野口氏は、世界経済フォーラム(ダボス会議)が提示する「第4次産業革命」の要素には「宇宙」も含まれていると語り、現在急激に市場が伸びている領域だと説明した。
宇宙ビジネスは新しい産業としての可能性が見えてきており、その「足腰」としてロケット打ち上げなど宇宙輸送の整備が重要だと堀江氏の事業について触れた。
堀江氏は、インターステラテクノロジズが取り組むロケット開発について、「ロケットづくりは特別なことではなく、ぜひさまざまな人・企業に一緒にかかわってほしい」と呼びかけた。
ディスカッション後の質疑応答でも、会場からは多くの質問が寄せられ、宇宙ビジネスに対する関心の高さ・期待感がうかがえる講演となった。