超小型人工衛星の開発・製造・運用等を行う宇宙スタートアップの株式会社アクセルスペースは2023年6月12日、宇宙ビジネスとサステナビリティ(持続可能性)の両立を目指し、衛星のライフサイクル全般をカバーするガイドライン「Green Spacecraft Standard 1.0」を策定したと発表した。
同社は、宇宙機製造アライアンスのパートナー企業(株式会社ミスミグループ本社、由紀ホールディングス株式会社およびキャリムエンジニアリング株式会社)とともに、今後のAxelLiner事業(衛星プロジェクトに関わるプロセスをパッケージ化したサービス)に同ガイドラインを適用するとしている。
「Green Spacecraft Standard 1.0」の全文は下記から閲覧できる。https://www.axelspace.com/assets/pdf/sustainability/greenspacecraftstandard_ja.pdf
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いち早く高い基準を示し、実効性のある業界標準構築に貢献
同ガイドラインは、各国政府や国際機関が提示するガイドラインに示す水準よりも一段高い基準が設定されている。
米連邦通信委員会(FCC)が新たに打ち出した、運用終了後5年以内に使用済みの衛星を廃棄するルールや、欧州を中心に提唱されている格付け制度である宇宙事業者向けサステナビリティ評価制度SSR(Space Sustainability Rating)にも対応。
アクセルスペースは、日本大学理工学部航空宇宙工学科の宮崎康行教授と連携し、SSRのアジア太平洋地域における普及等、国際的なガイドラインの策定および推進にも関与していく。
衝突回避に加え、デブリ化の防止策と製造時の地球環境への配慮も盛り込む
現在、宇宙空間にはスペースデブリ(宇宙ごみ)が多数存在し、これが宇宙機に衝突することで軌道環境の安全を脅かす可能性があることから、早急な対処が求められている。
すでに、衝突回避のための宇宙空間の観測や衛星のデブリ化防止・デブリ除去技術の開発等で国際的な調整が進み、国連でも宇宙活動に関するガイドラインが採択されている。
同社は、多数の衛星打上げによる宇宙ミッションを促進する立場として、スペースデブリを増やさないことに加え、宇宙機製造の際の環境負荷を可能な限り削減するため「Green Spacecraft Standard 1.0」の策定に至ったという。
同ガイドラインには、宇宙のサステナビリティで常に焦点となるデブリ化防止装置の搭載だけでなく、衛星の設計段階からミッション終了後までの衛星プロジェクトのライフサイクル全体において、地球上と宇宙空間の環境への負荷を最小限に抑えるための基準が幅広く盛り込まれている。
これらの基準を満たすための設計製造方法については同社が確立しつつあり、そのうちの一つが、人工衛星用アンテナ材料で世界シェア60%を誇るサカセ・アドテック株式会社とアクセルスペースが協力して開発した、小型衛星用膜面展開型デオービット機構「D-SAIL」だ。
D-SAILは、任務終了後に衛星を速やかに軌道から離脱させ、大気圏に再突入させるための軌道離脱装置で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が計画する革新的衛星技術実証4号機の実証テーマに採択されている。
同社は、自社衛星への本格的な搭載に向け軌道上実証の機会を最大限に生かし、開発システムの十分な検証を行うとともに、技術の進歩や業界内での対話を通じて同ガイドラインをアップデートしていく考え。
今後、サステナブルな宇宙ビジネスが業界標準になるよう、同ガイドラインの普及に積極的に取り組むとしている。