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爆発現場を間近で見学!能代宇宙イベント&のしろ銀河フェスティバル2023レポート

2023年8月12日~25日、秋田県能代市で「のしろ宇宙ウィーク」と題し、「第19回能代宇宙イベント」と「のしろ銀河フェスティバル2023」が開催された。JAXA能代ロケット実験場をはじめ各所でイベントが開催されたほか、大学生が開発したロケットや缶サットの競技大会も実施された。
この記事では、「のしろ宇宙ウィーク」の概要や、SPACEMedia編集部が取材したイベントの様子を紹介する。

能代ロケット実験場に設置された「宙彩しろん」パネル
撮影:加治佐匠真

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小学生から大人まで、みんなが楽しめる「のしろ宇宙ウィーク」とは

能代市で毎年8月中旬に設定される「のしろ宇宙ウィーク」では、「能代宇宙イベント」と「のしろ銀河フェスティバル」の2つのイベントが開催される。

8月19日・20日にはシャトルバスが運行され、遠方から来た人も移動しやすくなっていた
撮影:加治佐匠真

能代宇宙イベント

能代宇宙イベントは、日本最大規模の学生/社会人によるロケットと自律ロボットのアマチュア大会であり、参加者はハイブリッドロケット(※1)や缶サット(※2)の技術を競い合う。第19回となる今回は66チーム、600名を超える大学や団体が参加し、8月20日には一般公開とライブ配信も行われた。

※1:固体燃料と液体酸化剤を組み合わせ、燃焼させるロケット。
※2:自立制御型の小さなロボット。気球から投下し、目的地を目指す。

のしろ銀河フェスティバル2023

のしろ銀河フェスティバルは、2011年に小惑星探査機「はやぶさ」の帰還カプセルが展示されたことを契機に、2012年から開始されたイベントだ。能代ロケット実験場の見学ツアーや燃焼実験の特別公開、JAXA職員による「宇宙学校スペシャル」と題した講演などが市内各所で行われた。

能代市子ども館で展示された日本初のロケット「ペンシルロケット」各種。左の「標準型」以外が展示されるのは非常に珍しい
撮影:加治佐匠真
同じく展示された「クラスター」型ペンシルロケット。こちらも貴重
撮影:加治佐匠真

爆発ほやほや!?能代ロケット実験場見学ツアーの様子

イベントでは能代ロケット実験場も公開され、職員による見学ツアーが実施された。同実験場では2023年7月14日にイプシロンSロケット第2段モーターの燃焼試験が実施されたが、モーターが爆発し、真空燃焼試験棟とよばれる設備が破壊された。8月16日までは職員も試験棟内部に立ち入れない状況が続いていたが、重機による作業が進み、屋根や壁が崩落する危険がなくなったため、一般見学者も間近で見学することができた。

構内を歩いていくとまず目に飛び込んでくるのは、真空燃焼試験棟のむき出しの鉄骨と、窓から炎が上がった様子がうかがえる黒い焦げだ。隣には大型大気燃焼試験棟も見えるが、こちらの窓ガラスは割れてカバーがかけられていた。

鉄骨がむき出しになり、火炎の跡が生々しい真空燃焼試験棟
撮影:加治佐匠真
隣の大型大気燃焼試験棟。中央右の窓ガラスは割れ、透明カバーがかけられていた
撮影:加治佐匠真

さらに奥へ進むと、真空燃焼試験棟内に赤いかまぼこ状の構造物が目に入る。これは、ロケットが飛行する真空状態を模擬する真空槽だ。真空槽には車輪がついており、レールに沿って東西に移動することができるため、作業がしやすくなっている。真空状態を模擬する際は、大気開放拡散筒とよばれる装置を結合し、真空槽内にモーターを設置、密閉して燃焼試験を行う。隙間を設けることで空気がある状態での燃焼試験も行えるが、爆発時の被害を最小限に留められるよう、真空槽でモーターの大部分が覆われる。7月の試験は空気がある状態で行われたが、この覆いが功を奏した形となった。

赤い(大部分が焦げている)構造物が真空槽
撮影:加治佐匠真
斜め前から見た真空燃焼試験棟
撮影:加治佐匠真
実験場内に展示されている大気開放拡散筒(奥)。手前は「NAL735」型モーター
撮影:加治佐匠真

また、試験棟の端と真空槽の間には、肉眼ではっきり確認できるほどの隙間があったが、これは爆風によって真空槽が浮き上がり、1.7m後退したものだという。後ろから真空槽を見ると、地面との間に隙間が見え、確かに浮き上がっていることが確認できた。65tの真空槽をこれほど動かした爆発の凄まじさがうかがえる。

1.7m後退した真空槽
撮影:加治佐匠真
後ろから見た真空槽。爆風により浮き上がっている
撮影:加治佐匠真

公開されたのは真空燃焼試験棟だけではない。ツアーでは、過去の大型モーター燃焼試験の痕跡が残る火炎偏向板(※3)や、液体水素関連の実験を行うためのタンク、ロケットの形をした記念碑等も見ることができた。実験場入口には、実験場の新キャラクター「えきすいちゃん」と能代市公認VTuber「宙彩しろん」のパネルも設置され、多くの来場者が記念写真を撮影していた。

※3:ロケットの燃焼ガスを受け止め、向きを変える設備。

火炎偏向板。大型ロケット「M-V」の試験時に燃焼ガスが直撃し、一部がえぐれている
撮影:加治佐匠真
M-Vロケット燃焼試験の様子。右側の偏向板が燃焼ガスを受け止めている
Credit:JAXA
液体水素を3万L貯蔵できるタンク。マイナス253℃を維持するための巨大な魔法瓶だ
撮影:加治佐匠真
「えきすいちゃん」普段は液体水素貯蔵タンク内に住んでいる
撮影:加治佐匠真
M-Vロケットの形をした記念碑
撮影:加治佐匠真
中央の三角形の建物が第1計測棟。爆発時にも職員が入っていた
撮影:加治佐匠真

宇宙開発の未来を担う大学生が集う!能代宇宙イベントの様子

20日、能代ロケット実験場から南に3kmほどの能代宇宙広場では、能代宇宙イベントが一般公開され、大学生による体験型コンテンツやハイブリッドロケットのデモ打上げが行われた。途中雷雨によって打上げ準備が中断・延期されてしまったため、編集部ではロケットの打上げを見ることはできなかった。しかし、それだけ安全に留意して打上げに臨んでいるということだろう。その証拠に、ロケット打上げ準備を進める大学生は全員ヘルメットを装着していた。

優秀賞を獲得した「PLANET-Q」のポスター
撮影:加治佐匠真

大学生による体験型コンテンツも充実していた。数々のブースが並ぶ中、九州大学公認宇宙開発体験サークル「PLANET-Q」のブースでは、手作りのロボットアームを使ったゲームが展示された。注射器を使用してアームの各部が動く仕組みで、完成度が高く、大人も楽しめる作りとなっている。また、アームの隣には同サークルが制作した缶サットも展示されており、弾性と塑性を両立した車輪が特徴のひとつだという。

手作りのロボットアーム
撮影:加治佐匠真
缶サット。競技の際は自律して動く
撮影:加治佐匠真

いずれのブース展示もレベルが高く、質問に対して大学生がスラスラと回答する姿に頼もしさを覚えるとともに、日本の宇宙開発の未来は明るいと感じさせるイベントだった。来年開催される際は、ぜひ行ってみてはいかがだろうか。

各イベント公式サイトはこちら
能代宇宙イベント:http://noshiro-space-event.org/
のしろ銀河フェスティバル2023:https://noshiro-gf.com/