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宇宙港の設立と産業を支える人材の確保・育成をいかに進めるか ―北海道宇宙サミット2025レポート

2025年10月9日(木)、10日(金)の2日間、北海道・帯広市で開催された「北海道宇宙サミット2025」。

同サミットでは「北海道は、挑戦の舞台。宇宙を描こう。」をテーマに、道内はもちろん、海外からもスピーカーを招聘して数々のセッション・講演が行われました。

本記事では、宇宙港の設立に関するセッションと、人材育成・教育に関するセッションの模様をダイジェストにまとめてお伝えします。


宇宙港ビジネス確立に向け、標準化の道筋を語り、空港建設の歴史に学ぶ

宇宙へのアクセスの基盤・宇宙港の標準化に向け、国を越えた協力を

左から、Fire ArrowのLesley Still氏、Virginia Spaceport AuthorityのRoosevelt Mercer, Jr. 氏、SPACE COTANの小田切氏。Alaska Aerospace CorporationのJohn Oberst氏とSpace Center AustraliaでCFOを務めるChristopher Hall氏はオンラインで登壇した

サミット1日目に行われたセッション「宇宙港標準化、相互利用に向けた世界の動き」では、世界各国の宇宙港関係者が集い、標準化の必要性について議論が交わされました。

このセッションは、昨年10月にミラノで署名された「商業宇宙港に係る国際協力に関する覚書」のフォローアップとして企画されたもの。覚書には、世界5大陸から8つの宇宙港が参加し、協力体制を築いています。モデレーターで、北海道スペースポート(HOSPO)を運営するSPACE COTAN代表の小田切義憲氏(参考記事)は、世界に100以上の宇宙港が存在する中、今後は打上げウィンドウ確保が課題になると指摘し、そのためにもロケットなどの仕様に関する標準化の重要性を強調しました。

セッションで議論の中心となったのは、その「標準化」の定義です。

アメリカ・バージニア州にある宇宙港・Mid-Atlantic Regional Spaceportを運営するVirginia Spaceport AuthorityのRoosevelt Mercer, Jr. 氏は、「標準化とは、どんなロケットでもどの宇宙港でも打ち上げられるという意味ではない」と前置きしたうえで、「例えば、タンクの洗浄基準や推進剤の仕様など、射場の設備や運用の標準化こそが現実的なアプローチ」と語りました。現状、打上げ事業者はそれぞれの宇宙港に問い合わせて仕様を確認する必要があり、これが大きな負担となっているとしました。

また、Fire ArrowのLesley Still氏は、航空業界では国際民間航空機関(ICAO)による国際標準が確立されているものの、宇宙港業界には標準がまだないことを指摘。「新興産業である今こそ、私たちが歴史を創造する機会」として段階的なアプローチが必要だと訴えました。アラスカにある宇宙港・Pacific Spaceport Complex-Alaskaを運営するAlaska Aerospace CorporationのJohn Oberst氏も「安全政策、規制、相互運用性に焦点を当て、技術的障壁が少ない分野から着手するべき」とStill氏の意見に賛同。パネリストたちは、標準化によって運用効率の向上、コスト削減、安全性の向上が期待できると指摘しました。

セッション終盤では、各国政府と地域コミュニティの支援を得ることも重要だとされました。宇宙港の標準化は、その定義に関する議論の段階であり、その道のりはまだ長いといえます。しかし、打上げの高頻度化に向けては標準化が必須であり、グローバル・国・地域というさまざまなレベルでの協力・協調が重要になるといえるでしょう。

成田空港建設の歴史に学ぶ、宇宙港と地域の発展

左から、株式会社梓設計の高木文隆氏、成田国際空港株式会社の片山敏宏氏、SPACE COTAN株式会社の小田切氏

続いて行われたのは、成田空港建設の歴史から宇宙港開発を考えるセッション「宇宙港開設がもたらす地域発展〜成田空港の事例より〜」。登壇したのは成田国際空港株式会社の片山敏宏氏、株式会社梓設計の高木文隆氏、SPACE COTAN株式会社の小田切氏です。

1970年に建設が計画されたものの、大規模な反対運動に直面した成田空港。当初は「国際線が発着する空港の計画に対し、地域から『ニューヨークやパリにしか行けない空港をなぜ作るのか』という反発もあった」とも言います。しかし、現在では、約4万人の雇用や高速道路の整備、さらに周辺への産業集積など空港の存在は大きな経済効果をもたらしました。こうした経験から、片山氏は「後から地域に効果があることがわかってくる」と語りました。

一方、日本各地の空港施設設計を手がける高木氏は、空港建設に必要な要素を解説。「1960年代、成田の計画時に配置したターミナルや貨物施設が30年後も同じ場所にある。初めにどこに何を配置するか、将来的な展開を考えることが非常に重要」と指摘しました。また、空港建設では国が滑走路などエアサイド、事業者がターミナル、地方自治体がアクセス道路や都市インフラを担う分担・協力体制が不可欠であるとも解説しました。

これらをふまえ、小田切氏は「宇宙港ビジネスは航空ビジネスと似ている」と述べ、2040年に向けて3,000メートル級の滑走路を含む、総額数千億円規模の開発構想を明かしました。しかし宇宙港を民間独力で開発することは難しいため、国などからの支援も受けつつ、「社会インフラとして作り上げていきたい」と展望を語りました。

最後に、高木氏は「グランドデザインを、今つくることが必要」として、開発初期段階から運用段階への時系列に沿った機能配置の重要性を訴えました。成田空港がたどった発展の道筋は、宇宙港開発においても大いに参考になるものといえそうです。

宇宙産業を支える人材を増やし、育てる

北海道における宇宙人材育成の可能性を探る

左から、慶應義塾大学大学院 教授の白坂成功氏、函館工業高等専門学校 教授の下郡啓夫氏、経済産業省 宇宙産業課 課長の高濱航氏、和歌山大学 教授の秋山演亮氏

サミット2日目には、宇宙産業における人材確保と教育をテーマにしたセッションが2つ行われました。

1つ目、「宇宙人材確保へ教育・産業界に求められること」に登壇したのは、慶應義塾大学大学院 教授の白坂成功氏、函館工業高等専門学校 教授の下郡啓夫氏、経済産業省 宇宙産業課 課長の高濱航氏、和歌山大学 教授の秋山演亮氏の4名です。

経産省の高濱氏は「人材は企業の成長力の源泉」と述べ、プロジェクト審査において人材確保状況を重視していることを明かしました。また白坂氏は「2040年代には宇宙により多くの人が滞在するようになり、食やサービス、デザインなど、あらゆる分野のスキルが必要になる」と、今後の宇宙産業の広がりを展望し、より多くの人材が求められるとしました。

また、高専教育の視点から下郡氏が「宇宙ビジネス市場の中心が衛星データ利用にシフトする中、エンドユーザー視点や分野横断的な力、技術を事業価値に変える力が不足している」と課題を指摘。「実践的なスキルと基礎知識のバランス、地域産業との連携強化、システム思考と倫理観の育成が重要」と提案しました。

人材の流入については、大手企業からスタートアップへ、JAXAからスタートアップへ、そして自動車や家電といった日本が強い産業からの参入という3つの流れがあると高濱氏が紹介。また、セッション内では北海道の強みとして、ロケット打上げの歴史が深く地域の理解があること、そして失敗を許容する文化があることが挙げられました。

白坂氏は「北海道は、スペースポートがあることで垂直統合が一般的なロケット製造と打上げサービスの分離という産業構造の転換を経験できる貴重な場所」と評価。下郡氏も「道内の地域別に宇宙をテーマとした取り組みを展開し、情報をやり取りすることで北海道全体の発展につながる」と地域連携の可能性を示しました。

「試される大地」と称される北海道。地域に根づくチャレンジ精神と挑戦の歴史は、宇宙産業を支える人材育成モデルの構築にもつながっていきそうです。

産業視点で見る宇宙人材の確保と育成

左から、北海道経済部 産業振興局長の北風浩氏、経済産業省北海道経済産業局 宇宙航空産業室長の丹羽朋子氏、SPACE COTAN代表の小田切氏、STARTUP HOKKAIDO宇宙領域マネージャーの高橋健太氏

人材育成・教育観点のセッション2つ目は、SPACE COTAN代表の小田切氏、北海道経済部 産業振興局長の北風浩氏、経済産業省北海道経済産業局 宇宙航空産業室長の丹羽智子氏が登壇した「宇宙産業における人材育成・確保」です。本セッションでは、北海道を拠点にスタートアップ支援を行う、STARTUP HOKKAIDO宇宙領域マネージャーの高橋健太氏がモデレーターを務めました。

はじめに、北風氏が道内に105社の宇宙関連企業が集積している背景として、北海道の広さを生かした衛星データ利活用の進展と、大樹町や赤平市などの実験施設の存在を挙げました。道内の代表的な宇宙企業であるインターステラテクノロジズは10年間で社員数が20倍の300人超に成長しており、「事業スピードを求めるスタートアップが外部から経験者を求める傾向が強く、ものづくり系からIT系まで多様な人材が必要」と話しました。

一方、丹羽氏は、経産局が実施した小学生向けの宇宙体験イベントを紹介。「保護者の1割が子どもを宇宙関連の仕事に就かせたいと回答した」と報告しました。また、宇宙企業向けセミナーの結果として「宇宙業界は買い手市場で、開発現場の即戦力や人事労務に精通した人材への需要が高く、応募は多くても採用に至らないケースが多い」と課題を指摘しました。

続いて、小田切氏は「日本の宇宙従事者は約1万人弱で、産業拡大には10万人以上が必要。航空会社が1グループで5万人近い規模であることを考えると、さらなる成長が期待できる」と述べました。また「ロケット製造から打上げまで一貫したサプライチェーンを北海道で構築することで、打上げ後も継続的に雇用が生まれる」と他地域との違いを強調。「リモートワークも活用しながら、事業開発やバックオフィス系のスタッフを中心に採用している」と人材確保の実態を説明しました。

行政での人材確保の取り組みとして、北風氏は宇宙産業を知ってもらうことに重点をおいて企業説明会や職場体験会を継続的に開催していることを紹介。丹羽氏も「年度内に就職希望者を大樹町に連れていくツアーを検討している」と今後の支援策を明らかにしました。

北海道に限らず、人口減少が進む日本ではあらゆる企業が人材確保・育成に頭を悩ませており、宇宙業界は他産業との競争状態にあるといえます。

本セッションでは、北海道が射場を核として幅広く宇宙産業をカバーしているという強みが再確認されましたが、宇宙産業を地域経済の活性化に活かそうと考える他地域においても、人材を呼ぶ環境と人が育つ環境、双方を整えることが重要だといえそうです。

宇宙港というインフラの整備と産業を支える人材の呼び込み・育成をいかに両輪で進めていくかが、地域での持続性ある宇宙産業を構築するための鍵といえそうです。

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