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衛星製造と軌道環境のサステナビリティ実現を目指し、ルールメイキングから取り組む

2015年の国連総会で採択され、多くの企業や自治体が取り組むSDGs(持続可能な開発目標)。
人工衛星はSDGsに貢献する一方、打ち上げ数の急増は軌道の持続可能性を脅かしつつある。
衛星製造と運用の両面からサステナビリティ(持続可能性)実現に挑むアクセルスペースに話を聞いた。

永島 隆氏(えいしま・たかし)
株式会社アクセルスペース 共同創業者 Co-CTO(宇宙機技術担当) 兼 AxelLiner事業本部長

東京大学大学院で世界初のCubeSat開発に携わり、2006年に博士課程を単位取得退学後、東京大学特任研究員を経て、2008年アクセルスペースの設立に参画(共同創業者)。シニアフェロー/エンジニアリング本部シニアエンジニアリングユニット長を歴任し、技術開発ロードマップやエンジニア育成計画の策定に従事。技術開発や衛星プロジェクトマネジメントなど、一貫して技術面で会社をリードしている。2023年6月より執行役員Co-CTO(宇宙機技術担当)に就任。2024年2月よりAxelLiner事業本部長を兼務。

宇宙のサステナビリティ、第一の焦点はデブリ化の防止

極力廃棄物を出さないように製品を設計・デザインし、流通させることを目指す「サーキュラーエコノミー」の動きが欧州を中心に活発化している。使い捨てではなく、修理してできるだけ長く使い続けられるような仕様にすることをさまざまな製品に求める動きもある。貧困や飢餓の解消から脱炭素、経済発展まで、幅広いゴールが掲げられているSDGsにおいても、ものづくり(生産・消費)に関するゴール(SDG 12)が設定されている。

2008年設立、日本の宇宙ベンチャーの先駆けの1社でもあるアクセルスペースは、小型衛星の製造というものづくりの観点から、サステナビリティを視野に入れた取り組みを進めている。

アクセルスペースの共同創業者で、宇宙機技術担当のCo-CTO 兼 AxelLiner事業本部長を務める永島隆氏は、衛星の製造におけるサステナビリティの課題について、こう語る。

「『宇宙とサステナビリティ』と言われたとき、業界としてまず意識されるのは周回軌道上のデブリの問題です。我々が大学で衛星を作っていた頃はそこまでではありませんでしたが、今はコンステレーションの時代になり、多くの衛星を打ち上げることが当たり前になりました。こうなると、打ち上げた後のことまで考えないといけない。事業を始めた当初より強くこれを感じています」

創業当初のアクセルスペースは個別の顧客ニーズに合わせた専用衛星を製造していた。その後、顧客による衛星運用の負荷を軽減する取り組みの中で、自社の地球観測衛星によって取得したデータを提供する『AxelGlobe』をスタート。現在は、小型衛星ミッションをワンストップで提供するプラットフォーム『AxelLiner』も展開している。

運用する衛星をデブリ化させないという安心を提供することもサービスを提供し続けるうえでの重要なポイントであり、同社ではそのための機構の開発も進めている。

「衛星を軌道から離脱させることをデオービット(軌道離脱)と言います。私たちの『膜面展開型デオービット機構(D-SAIL)』では、ヨットの帆のような膜を展開し、軌道上にごく微量にある大気との抵抗を利用して、任務終了後の衛星を軌道から離脱させ、デブリ化を防ぎます」

アクセルスペースが開発を進める「D-SAIL」
Credit: 株式会社アクセルスペース

衛星づくりのサステナビリティ基準を策定 〜ルールメイキングから関与する

一方で、永島氏は、宇宙のサステナビリティを考えるうえで求められるのはデブリ対策だけではないと指摘する。

「社会一般としては、『ものづくりのサステナビリティ』という観点も非常に大きいと思っています。正直なところ、この点は宇宙領域ではこれまであまり重視されてきませんでした。というのも、何百万台も作る自動車などと比べて衛星の製造数は少なく、製造業としてのインパクトはそれほど大きくありませんでした。しかし、当社は衛星の量産化に取り組んでいますので、他の産業と同じように、ものづくりの段階から配慮するという観点が大切だと考えています。これらをふまえ、宇宙におけるサステナビリティと、ものづくりにおけるサステナビリティの2つを合わせて打ち出したのが『Green Spacecraft Standard 1.0』です」

同社は、2023年6月に宇宙ビジネスとサステナビリティの両立を目指し、衛星のライフサイクル全般をカバーするガイドライン『Green Spacecraft Standard 1.0』を発表している(参考記事)。

まだコンセプト段階だというこのガイドライン策定の基本姿勢は、衛星が軌道に投入されてから務めを終えて燃え尽きるまでのサイクル全体を衛星開発者・運用者としてカバーすることだ。さらに今後は、衛星の設計から製造・試験といった、地上でのものづくりの段階のサステナビリティにも取り組んでいきたいとする。衛星の原材料やその加工、試験の方法など、検討し練り上げるべき点は多くあるが、社外パートナーと衛星量産に取り組んでいく中で、内容の具体化を進めていく予定だ。

こうしたルールづくりに挑んだ背景には、ルールに縛られるのではなく、それを形づくるところから参画したいという心意気があったと永島氏は語る。

「日本の産業界には、お上が決めたルールに民間が従う慣習がある印象です。対して、国をまたぐようなルールは、業界全体で、国際的な議論の中で決めていくことが多いのです。このとき、必ずしも公的機関だけがルールづくりを主導するわけではありません。民間からもさまざまなインプットがあって合意形成がなされていく。こうしたルールづくりの実際を見聞きして、我々もできたルールに従うばかりではなく、使いやすく実効的な枠組みづくりについて、先んじて考えていきたいと思ったのです」

実際にガイドラインには、同社メンバーが欧州の研究者などと行った議論の内容も盛り込まれている。

同社では衛星製造のサステナビリティの向上に取り組むとともに、急増する小型衛星への需要に応えるため、パートナーと『宇宙機製造アライアンス』を構築。小型衛星の量産体制の確保を進めている。ここには製造系企業だけでなく、輸送に携わる企業も入っており、ロジスティクスの環境も含めたサステナビリティについて考えていく予定だという。

『Green Spacecraft Standard』のロゴマーク
Credit: 株式会社アクセルスペース

小型衛星の量産に道筋をつけ、衛星ビジネスをより見通しやすく

冒頭でも触れたアクセルスペースが展開する衛星ミッションのプラットフォーム『AxelLiner』は、2022年に発表されたサービスだ。これは、衛星によるミッションについて、実現可能性の検討から衛星の設計、製造、打ち上げ、運用までをパッケージ化して提供するもので、受注から打ち上げまで最短1年での提供を目指してサービス開発を進めているところだという。

衛星によるコンステレーションを活用した衛星ビジネスは、宇宙ビジネスの中でも最も勢いのあるジャンルの一つだが、企業が自社単独で取り組む際のハードルは極めて高い。AxelLinerにはそのハードルを下げたいという思いがある。

「衛星を使ってやりたいことがあっても、それを実現するのは簡単ではありません。通常のビジネスでは事業計画を立ててPoC(概念実証)を行い、それに基づいて次のステップに進んでいきます。しかし、衛星の製造には年単位の時間がかかるため、PoC実施に行き着くだけでも相当の時間がかかります。これでは宇宙ビジネスに取り組むプレイヤーは増えません。AxelLinerでは、衛星プロジェクトにおける実現可能性の検討から、衛星の設計、製造、打ち上げ、運用までをワンストップで提供するほか、衛星の量産化によりコストや期間の面での負担も大幅に削減します。これによって、ユーザーは衛星を活用しやすくなります」

AxelLinerサービスの発表後、宇宙関連の技術シーズの軌道上での動作実証や、リモートセンシング、衛星IoTの活用を検討したいと考える企業などから反響があったという。

また、永島氏は、衛星は地球環境のサステナビリティに寄与するポテンシャルも大きいと話す。

「熱赤外線による観測で温室効果ガスの状況を把握したり、衛星IoTを活用して環境センシングをしたりなど、官民問わずさまざまなプレイヤーが取り組みを進めています。広域を高頻度でセンシングできる小型衛星コンステレーションがサステナビリティに貢献できる点は非常に多いと思っています」

解決が求められる多くの社会課題、環境課題がある中で、小型衛星を活用したビジネスには地球規模での市場があるといえる。アクセルスペースが打ち出したGreen Spacecraft Standard 1.0と、AxelLiner、AxelGlobeが今後どのように進化していくのか、注目したい。

2024年3月4日(現地時間)に打ち上げに成功した同社の小型衛星PYXIS(ピクシス)。『AxelLiner』の実証機に位置づけられる本機では、衛星プロジェクトの大幅な期間短縮とコストの削減に向けて、衛星の基本機能を担うバス部分の共通化が図られている。衛星のデブリ化を防ぐ機構、D-SAILも搭載された
Credit: 株式会社アクセルスペース

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