
2025年12月2日(火)、「宇宙と不動産領域のかけ合わせ」をテーマとしたビジネスカンファレンス・宇宙✕不動産カンファレンス(SRC2025)が開催されます。
イベントを主催する宇宙スタートアップ・WHERE(参考記事)は、衛星データとAI技術等を活用した不動産業界向けソリューションを展開していますが、今回初めて、大規模なイベント開催に踏み切りました。
そんなWHERE代表の阿久津岳生氏は、不動産・建築領域で8社を起業・経営しながら3つの大学院に通い、ビジネスと学術両面から新しいビジネス・社会価値の創出に挑戦するという、宇宙ビジネス業界でも異色の経歴をもつ人物です。カンファレンス立ち上げの背景や、宇宙ビジネス・不動産ビジネスに対する思いを聞きました。
▼宇宙✕不動産カンファレンス
公式サイトhttps://srconf.com/

株式会社WHERE CEO
不動産や建築の分野で計8社を起業し、ホールディングス化やM&Aといった企業成長のプロセスを経験する。また、企業経営の傍ら大学院に所属し、都市計画・経営学・宇宙科学の3つの異なる領域を研究。実務と学術の融合から社会変革の挑戦を続ける。
2020年からJAXA宇宙科学研究所(総研大)に所属し、研究室の恩師や仲間と現在の株式会社WHEREを起業、宇宙ビジネスに参入する。2023年にJAXAベンチャーとして認定され、同年、東京大学IPCより資金調達。
目次
世界を変えるため、より高い視座を求めて「宇宙」へ
― もともと不動産業界でビジネスをしていた阿久津さんが、宇宙ビジネスに取り組もうと思ったきっかけを教えてください。
阿久津 自己紹介では、「8社を起業・経営して、3つの大学院で研究してきた」と話すのですが、起業した8社は、不動産・建築分野が主でした。最終的に上場を目指そうというところまでいったのですが、気がついたら目の前の売り上げを上げる経営になっていました。
あるときふと、何のために仕事をするのか、起業したのか考えたときに思い至ったのは、起業当初は「世界を変える」という思いがあったことでした。よく、会社のメンバーには「成長するためには一つ上の視座が大切だよ」と言っていましたが、自分に置き換えてみると、全然成長してないなと思ったんです。
じゃあ、一つ上の視座は何か。世界を変えたいと思っているのなら、その上は宇宙だという思いが生まれて、そこから宇宙の業界に移ったんです。
― まったくの畑違いからの転身は、苦労されませんでしたか。
阿久津 結構大変でしたが、その分多くの学びがあったと感じています。僕は運よく、JAXA宇宙科学研究所の田中智先生に拾っていただき、先生の研究室に入らせてもらいました。
でも、いざ研究室に入ってみるとやっぱり世界が全然違う。不動産業界という、切った張ったもあるようなところから、ホワイトボードに物理の公式を書いて楽しく議論している世界、その中に全然入っていけない自分がいました。自分のポジションを模索し続けていたのですが、それはやはりビジネスだろうと。宇宙の技術と、僕のビジネスを掛け合わせたことをやりたいと考えたんです。
実は、僕はスタートアップとしては12回挑戦していて、そのうち3回が宇宙研にいたときです。WHEREは宇宙研で3回目の挑戦で、うまく軌道に乗ったというかたちです。

世の中に「おっ!」をつくる 驚きをもたらし、社会を喜ばせる
― 阿久津さんがたくさんの起業を通して世界を変えたいと思う、モチベーションの原点は何ですか?
阿久津 世界に対して不満があって変えたいということではなく、むしろ自分の幸せを追求した結果が「世界を変える」なんです。WHEREのチームもそうですが、僕の人生の理念は『「おっ!」をつくる』。「おっ!」というのは、驚いたり喜んだりする、その瞬間です。
子どもの頃から、周りがびっくりするようなことをして面白がられたり喜ばせたりするのが好きでした。「おっ!」をつくると周りが幸せになるし、自分も幸せを感じるんです。
― スタートアップというと、社会課題があるのでそれを解決する、というストーリーをよく聞きます。最終的に皆が幸せになるということは一緒ですが、ちょっと切り口が違いますね。
阿久津 スタートアップのセオリーとしては、そうですよね。わかりやすいので、そういう説明をすることもありますが、結局、物事の出発点は自分の魂みたいなところにあるのだと思います。
1%を取り合うのではなく、99%の未開拓市場を目指す 世界に眠る「10京円」の不動産オフマーケット
― 課題の解決、という観点から不動産ビジネスの現状と、阿久津さんが目指す不動産ビジネスの姿を教えてください。
阿久津 いま、世界の不動産ビジネス市場は、1,000兆円を超える規模だといわれています。
この1,000兆円、実は、地球上のすべての不動産のうち1パーセントにも満たない不動産の取引で成り立っているんです。つまり、不動産取引の市場に出てきた1パーセントの不動産をみんなで奪い合っている状況です。例えば、東京都中央区に、マンションが建てられる200坪の土地が出ましたといえば、誰が一番先にいい金額で買うか、皆で争うわけですね。
こういう状況は、世界中どこでも同じです。
でも、1パーセントという限られたパイを皆で奪い合うより、市場に出ていない、残りの99パーセントの未開拓不動産市場を開拓する方が、可能性があるんじゃないかと思うんです。
この未開拓市場を、僕たちは「不動産オフマーケット」と呼んでいるんですが、この市場規模を推計すると、10京円という兆を超える非常に大きな規模になります。
この市場は、現状、知り合いのツテや人脈などで掘り起こされています。でも、これを宇宙の視点から見ると、全部丸わかりになるだろうなと思ったんです。衛星データをAIで分析し、不動産取引できそうな土地を見つけ、オーナーさんに売却や賃借の交渉をすれば取引をどんどんつくれるのではないかと考えました。
こうした発想から生まれた『WHERE』は、2023年くらいからベータ版を提供し始め、これまでの2年間で、すでに新しい取引が生まれた事例が結構でき始めています。
10京円もの規模があるので、どこか1社が牛耳れるような市場ではありません。皆で10京円の市場を開拓した方が世界にすごい「おっ!」を届けられるし、世界のためにもなる。具体的な事例などを紹介できる場がほしいと思ったのが、「宇宙✕不動産カンファレンス」を開催しようと思ったきっかけです。
― 宇宙技術を使うことで、少ないパイを取り合う不動産業界の現状を変えられる、ということですね。ビジネスに宇宙が役立ついい事例ですね。
阿久津 そうですね。まさに宇宙技術の民間利用がなかなか進まないというのは宇宙側の大きな課題です。いま、宇宙ビジネスはとても盛り上がっていますが、そのほとんどが官需で成り立っています。
こういう課題に対しても、僕たちは不動産業界で宇宙技術を使ったリアルビジネスの実績をつくってきたといえます。宇宙技術の民間利用でお金が生まれているということも、カンファレンスを通じて知ってほしいと思います。

野口聡一氏や『地面師たち』『正直不動産』の原作者も登壇! 宇宙と不動産、双方の視点からビジネスを見る
― カンファレンスには、野口聡一宇宙飛行士や、話題を呼んだドラマ『地面師たち』『正直不動産』の原作者も登壇されるそうですね。
阿久津 誰しもどこかに住んで、家を借りたり買ったりする。不動産ビジネスはすべての人にかかわるビジネスなんですよね。
人だけでなく、動物だって縄張りがある。土地や不動産は、生き物の本能に根ざしたものだといえます。そんな不動産を、宇宙という限りなく俯瞰的な視点から見るとどうなるか。これはもう可能性しかないと思いますし、そういった観点で、実際に宇宙から地球を見た野口聡一さんをお呼びしたんです。
それに加えて、不動産のディープな話もしてほしいと思い、『地名師たち』の新庄耕さんと、『正直不動産』の夏原武さんに登壇いただきます。宇宙の視点を入れると不動産業界はどうなるのか、というディスカッションをする予定です。

― それはとても気になるディスカッションになりそうです。ほかにも見どころはありますか。
阿久津 まちづくりの一環として、宇宙港(スペースポート)建設に不動産業界はどうかかわるかというセッションや、衛星データとAIを使うことでどういう不動産取引が生まれたか、リアルな事例紹介もする予定です。このセッションでは、三井不動産リアルティ・阪急阪神不動産・福岡地所という、エリアも扱う不動産も異なる企業が登壇するので、ここで事例を共有することで、宇宙にはこんな可能性がある、ということを宇宙業界、不動産業界、それぞれの方に感じていただきたいです。
また、行政側、研究機関の方もお招きする予定なので、産官学さまざまな観点の話が聞けると思います。
― 最後に、「宇宙✕不動産カンファレンス」に関心をもった方に向けて、このカンファレンスで得られるものは何か、どのような方におすすめか、メッセージをお願いします。
阿久津 プログラムの一つに、「宇宙の“お部屋”はいくら?」というセッションもあるのですが、今回のカンファレンスでは、宇宙をリアルのビジネスにどれだけ近づけるか、宇宙の技術と地球の不動産をどうつなげるかに主眼を置いています。
各界のトップランナーが来ますので、そういったネットワークをつくれる機会でもあります。僕が不動産業界と宇宙業界で生きてきて、なかなか交わらなかった人々が、このカンファレンスで交流するというのは、それだけでも意義があると思っています。企業展示もあるので、ここから新しいビジネスが生まれればいいと思いますし、新しいビジネスのヒントを得ていただきたいと思っています。
イベント概要
イベント名:宇宙×不動産カンファレンス Space Realty Conference 2025(SRC2025) supported by スカパーJSAT
日時:2025年12月2日(火)開場 12:00/開演 13:00
開催方式:ハイブリッド(リアル・オンライン同時開催)
リアル会場 時事通信ホール(東京都中央区銀座5-15-8)
東京メトロ日比谷線・都営浅草線 東銀座駅から徒歩1分
都営大江戸線築地市場駅から徒歩4分
オンライン会場 申し込み後、メールにて案内
公式サイト:https://srconf.com/
参加費:無料
主催:株式会社WHERE
共催:株式会社sorano me
後援:JAXA(宇宙航空研究開発機構)
問い合わせ:SRC2025運営事務局
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