小型人工衛星の利用拡大に伴い、ロケット打上げサービスを展開する企業が世界各国で新たに生まれています。日本でもいくつかの企業がこの事業に乗り出しており、全国数カ所で新たな射場や宇宙港の建設が行われています。和歌山県串本町では、スペースワン株式会社が高頻度の小型ロケット打上げサービスを実施する予定となっています。そこで、今回のインタビューでは串本町を訪れ、田嶋勝正町長にお話を伺いました。
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ロケットの射場が新設される串本町
―本日はよろしくお願いします。はじめに、串本町の特徴についてお聞かせください。
田嶋氏 串本町は本州の最南端に位置しており、夏は涼しく冬は暖かい、気候に恵まれた大変過ごしやすい地域です。平均17度で大阪や和歌山の北部より2, 3度高く、これは付近を流れている暖かい黒潮のおかげです。
人口は1.5万人弱で、カツオ漁を主体として栄えてきました。近年は黒潮が離岸してカツオが捕れなくなってきましたが、現在はマグロ養殖をマルハニチロが大々的に串本町で行っており、養殖の町として栄えています。
―確かに、今日(12月)も比較的暖かく感じます。串本町にはスペースワン株式会社のロケット射場が造られているとのことですが、射場の建設地として選ばれた経緯をお聞かせください。
田嶋氏 南方東方に障害物がなく、赤道に近いため地球の自転方向に打ち上げる場合は推進剤の消費が少なくて済むという利点などがあり、2017年から県や スペースワン株式会社 が主体となって射場建設の計画が始まりました。
―なるほど。様々な好条件が重なったのですね。射場の建設が確定するまでに課題などはありましたか?
田嶋氏 課題は色々ありましたが、一つは土地の問題です。射場に用いる土地の7割が行政管轄でしたが、残りの3割は民間の所有する土地でしたので、用地買収にあたっては、可能な範囲で町が協力することになりました。
あとは、射場周辺の道路整備を企業と町のどちらが担うかという話がありましたが、希望された整備には莫大な費用がかかってしまい、小さな串本町ではできないということで、県と企業側で調整することになりました。
また、串本町には航空自衛隊の基地やレーダーがあり、もしかしたらロケット事業が軍事利用されてしまうのではないかという心配もありましたが、そういうことは一切ないということが確認できましたので、それなら、串本町にとって素晴らしい話だと理解するようになりました。
―様々交渉しながら進めていったのですね。
田嶋氏 用地買収については、串本町に土地を保有しながらも海外各地に移住しているという人が多かったので、そこの取次などをさせてもらいました。いきなり企業担当者が土地の所有者に対し、用地買収してロケット射場を造りますと言っても怪しいので、役場のOBに協力してもらって話を進めました。用地買収の費用は企業負担です。町は、「汗はかくけどお金は出せない」という意思を最初からはっきり示して進めてきました。
―ロケットの射場はよく見えるのでしょうか。
田嶋氏 立派な射場が完工しておりますが、外からは見えない形になっています。当初、2021年中の打上げを予定されていましたが、2回の延期により2023年の2月予定になりました。町民からは本当に串本町からロケットが打ち上がるのかとよく言われますので、早く初号機の打上げが成功し、町民に見てもらいたいです。
串本町のこれから
―射場の建設は、串本町にどのような影響をもたらすのでしょうか。
田嶋氏 スペースワンの計画では、2020年代中には年間20本の打上げが予定されています。この頻度になると、ロケットを輸送してくる時間やお金のロスを避けるため、こちらにロケットを製造する工場を作ることになるかもしれません。そうなれば関係企業が来て、移住者が増えるでしょう。どの自治体でも人口の減少や流出は課題となっていますから、ありがたい話です。また、専門知識を持った方々が移住してくるというのは、子どもたちにもいい刺激になります。
―どんどん町が活性化していきますね。
田嶋氏 令和6年度には、県立串本古座高校で宇宙探究コースを新設し、全国公募する予定です。年間20本もロケットが打ち上がることに惹かれて、宇宙工学に興味のある生徒が増えて欲しいです。東京大学の中須賀先生を中心として、現在カリキュラム作りを行っているところです。また、こうした生徒の新たな流入が刺激になり、学校全体の教育レベルも上がるでしょう。そして、高校や大学卒業後には地元のロケット関連会社で働けるという展開を期待しています。
―観光客が増えるという観点ではいかがでしょうか。
田嶋氏 串本は観光業も盛んです。令和元年には年間53万人の宿泊客、110万人の日帰り客が来られており、コロナ直前が過去最高でした。現在、コロナの影響はありますが回復中です。この動きにはロケット射場の影響はありませんから、ここにロケットの効果が加われば、どんどん右肩上がりになると期待しています。また、来年2月にはJALの白浜―羽田便が臨時的に一便増え、令和7年には高速道路が串本町まで開通する予定ですので、これも大きな追い風になります。
一方宿泊施設については、現在のホテルの数のままではキャパシティが不足します。そこで、まだ未確定ですが2社がホテル新設のための視察に来られています。打ち上げる衛星の7, 8割は外国企業の衛星ということで、会社の偉い方々もお見えになるので、その際に串本にもVIP対応できるホテルがあったらいいなと思います。
―観光施設の充実も図っているのでしょうか。
田嶋氏 現在、旧古座分庁舎にロケットや宇宙に関する展示スペースを作ろうとしています。修学旅行は、旧跡名所を巡るものから体験型のものに移り変わっていますから、そうした需要を取り込もうと思っています。現在すでにジオパークセンターという施設があり、去年は47校が串本に来ました。また、串本はトルコとの歴史的なつながりもありますので、そうした要素も絡めてさらに発展させていけたらと思います。ロケットの打上げは、必ず予定通りに実施されるとは限らないので、その代替えになるようなものも揃えていきます。
―他に、これからの課題はありますでしょうか。
田嶋氏 やはりこの地域は、南海トラフの地震が起こった際の津波が心配されます。災害に備えて、公共の重要な施設を高台に移転していくことを進めています。庁舎をはじめ、消防や病院、認定こども園などは既に移転しており、もうすぐ裁判所が移転する予定です。企業からも、高台に上がりたいという要望は多いです。しかし、高台の土地が限られているという課題があります。そこで現在は、山を切り開いて開発していくにはどこなら水道などを安く引けるかなど調査しています。こうした取り組みにはDX企業の知見が必要ですから、企業と協力しながら街づくりを行っていきたいと思っています。
―ロケット関連や街づくりなど、新たな関係者が増えていくことになりますね。
田嶋氏 新しい連携によって、多様な雇用を生んでいきたいです。やりたい仕事が無ければ串本町で育っても転出してしまいます。多様な職業に就くことが可能な町にしていきたい、そういうことを可能とする企業に来ていただければ幸いです。
以上、串本町の田嶋勝正町長のインタビューでした。インタビューの中では、未来を担う子どもたちへの思いを語る田嶋町長の姿が特に印象的でした。いよいよ初号機の打上げが20223年2月に迫ってきました。さらなる串本町の発展の物語をスタートさせるこの打上げが無事に成功することを願います。
SPACE Media編集部