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日米で進む「宇宙ホテル」構想!民間人が宇宙に泊まれるのはいつから?

2023年6月29日、米宇宙企業のヴァージン・ギャラクティックが同社としては初となる商業宇宙飛行ミッション「Galactic 01」を成功させたとして、世界のメディアに大きく報じられた。
ほかにも米国では、アマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏が設立したブルーオリジンやイーロン・マスク氏率いるSpaceXが商業宇宙旅行を成功させている。

民間企業が主導する宇宙旅行ビジネスが本格的に稼働するなか、次のステップとして計画されているのが「宇宙ホテル」だ。
短時間~短期間、宇宙に行って帰ってくる宇宙旅行とは異なり、宇宙ホテルは人々が宇宙で長期滞在することを目的としている。

世界中で動き出している宇宙ホテル構想は、宇宙旅行ビジネス発展の大きな一歩になるかもしれない。
本記事では、宇宙ホテル構想の実現に向けプロジェクトを進めているアメリカと日本の企業を取り上げる。

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Credit: 清水建設株式会社

米Orbital Assembly の宇宙ホテル構想

米カリフォルニア州に拠点を置くゲートウェイスペースポート(Gateway Spaceport LLC)が2018年に設立した米スタートアップのオービタル・アッセンブリー・コーポレーション(Orbital Assembly Corporation、以下OAC)は、民間の旅行客が宿泊できる2つの宇宙ホテル「ボイジャー・ステーション(Voyager Station)」「パイオニア・ステーション(Pioneer Station)」の建設を計画している。

2025年にはパイオニア・ステーションの運用開始を予定しており、世界初となる宇宙ホテルの誕生もすぐそこまで来ている。

高級ホテル並みに豪華な客室やワインを片手に地球を見下ろせる展望ラウンジなどが備わる同社の宇宙ホテルは、一体どのような設計になっているのか。今後の動向にも注目しながら同社の宇宙ホテルの魅力を紹介していく。

なお、ゲートウェイスペースポートはこれまでゲートウェイファウンデーション(ゲートウェイ財団)の名で知られていたが、2022年1月1日より社名変更されている。

5つの居住モジュールで構成される「パイオニア・ステーション」、2年後の2025年オープンを目指す

同社は2021年に発表したボイジャー・ステーションに先立ち、まずは小規模の宿泊施設「パイオニア・ステーション」を建設する計画を立てている。

パイオニア・ステーションは最大28人を収容できる5つのモジュールで構成され、各モジュールの容積は最大14,000立方フィート(約400立方メートル)。全体の大きさとしては国際宇宙ステーション(ISS)の2倍ほどのサイズになる。

リング状に設置されたモジュールが回転することで人工重力をつくりだし、地球とほぼ変わらない滞在が可能だ。
回転速度を調整すれば微小重力(0G)~最大0.57G(地球は1G)の疑似重力を自由につくりだすことができるという。

居住モジュールには、地上のホテルさながらのベッドに広々としたデスク、大画面のスクリーンモニターなど宇宙とは思えないほど設備が充実している。

パイオニア・ステーションが目指すのは観光客の受け入れだけでなく、政府関係者や研究者向けの研究施設としても利用可能なハイブリッド型。
ISSが2030年に運用終了予定であることから、今後はパイオニア・ステーションが宇宙飛行士たちの活動の場として使われる可能性もあるだろう。

パイオニア・ステーションは2025年の運用開始を予定しており、現在は着工準備に入っている。

2025年に運用開始が予定されている「パイオニア・ステーション」のイメージ図
Credit: Orbital Assembly Corporation
パイオニア・ステーションの人工重力居住区のイメージ図
Credit: Orbital Assembly Corporation

2027年には大規模宇宙ホテル「ボイジャー・ステーション」を開業、最大400人を収容

パイオニア・ステーションの設計をさらに進化させた同社の主力プロジェクト「ボイジャー・ステーション」は、200m近い直径を持つ車輪のような形状をした構造物だ。

観覧車のように回転させ、その時に発生する遠心力で月面と同程度の微重力(地球の重力の6分の1)をつくりだすという。1分間で約1周半回転し、回転速度を増減することで重力レベルを調整できる設計となっている。

2027年に運用開始が予定されている「ボイジャー・ ステーション」のイメージ図
Credit: Orbital Assembly Corporation

外側のリング構造は直径190m。全長20m、幅12mのモジュールが24基装着され、最大400人を収容可能。

ボイジャー・ステーション内には、居住モジュールのほかにキッチン付きのレストランやバー、展望ラウンジ、ジム、イベント施設などが併設されるという。
さらに、地球上と同様に使えるトイレやシャワーなども完備し、宇宙飛行士が活動するISSの環境レベルを大きく上回る充実した環境を提供する予定だ。

ボイジャー・ステーションの人工重力居住区のイメージ図
Credit: Orbital Assembly Corporationツイッター
ボイジャー・ステーション内に設置予定のジムのイメージ図
Credit: Orbital Assembly Corporationツイッター
ボイジャー・ステーション内に設置予定の展望ラウンジのイメージ図
Credit: Orbital Assembly Corporationツイッター
ボイジャー・ステーション内に設置予定のレストランとバーのイメージ図
Credit: Orbital Assembly Corporationツイッター

また、ボイジャー・ステーションの片面は太陽光発電パネルで覆われ、継続的な太陽光発電が可能。反対側は常に影となっており、熱を宇宙に放散するラジエーターが設置される。
パイオニア・ステーションと同様、観光客以外に政府や宇宙開発企業に向け低重力環境下での研究施設としても貸し出される想定だ。

同社によれば、建設で必要な資材はあらかじめ軌道上に打上げ、組み立てはSTAR(Structure Truss Assembly Robot、構造トラス組み立てロボット)と呼ばれるロボットを利用するという。
資材の打上げには2~3年かかるものの、STARを利用すれば組み立て自体はわずか3日間で完成できると説明。

このロボットは、宇宙ホテル建設作業に入る前にプロトタイプ「DSTAR」により、地上でのテストが実施される。同社によれば、DSTARは直径90m、重量8tの骨組みを90分ほどで完成させる能力を持つという。

着工予定は2026年、開業は2027年になると見込まれており、同社はすでに予約を受け付けている。
パイオニア・ステーションとボイジャー・ステーションの宿泊料金は公表されていないが、最終的にはクルーズ船での旅やディズニーランド旅行と同様の金額で利用できるようにしたいとしている。

OACの最高執行責任者であるティム・アラトーレ氏は「一般の人にとって、宇宙にいることはSFの夢のような体験になるだろう。私たちのビジョンは、重力の存在によってもたらされる馴染みのある要素を備え、宇宙を人々が訪れてみたいと憧れる目的地にすることだ」とコメントしている。

なお、このプロジェクトは、アポロ計画など「米宇宙開発の父」として知られるロケット技術者のヴェルナー・フォン・ブラウン博士が構想した概念に基づいていることから、当初は「フォン・ブラウン・ステーション」と名付けられていたが、後に「ボイジャー・ステーション」に改称された。

清水建設の宇宙ホテル構想

国内では、清水建設株式会社が巨大な宇宙ホテルを建設する構想を持っている。
この構想は1989年、なんと今から30年以上前に発表されたものだ。

宇宙ビジネスとして商業化の流れが徐々に生まれてきた1980年代後半、同社は宇宙開発に必要な先端技術を習得し、建設事業に応用するとともに、長期的な視点で宇宙のインフラ建設を支援していくことを狙いに宇宙開発室を発足。
メンバーには建築設計や土木工学、ロボット工学、構造解析などさまざまな分野のエキスパートが集められた。

同社は宇宙開発室の発足から1、2年という短いスパンで宇宙開発時代を先取りした「コンクリート月面基地構想」と「宇宙ホテル構想」を続けて発表している。
当時、宇宙開発分野へ参入する世界初の建設会社として、大きな注目を集めていた。

構想が発表されてから30年以上が経った今、同社の宇宙ホテル構想はどこまで進んだのか―。宇宙ホテル構想の概要と今後の取り組みについて見ていこう。

全長240mの巨大宇宙ホテル、無重力空間など4つのエリアで構成

同社が構想している宇宙ホテルは「客室モジュール」「エネルギー・サプライ」「パブリック・エリア」「プラットフォーム」の4つのエリアで構成される全長240mの大型宇宙構造物だ。

清水建設株式会社が構想する宇宙ホテルのイメージ図
Credit: 清水建設株式会社

64の客室モジュールを含む104の個室モジュールは直径140mのリング上に配置される。このリング部分が独立し1分間に3回転することで、客室モジュール内に0.7Gの人工重力をつくりだすという。
地球が1G、前に紹介したOACが最大0.57Gであることを考えると、さらに地球に似た環境で滞在することが可能になる。

客室モジュール内のイメージ図
Credit: 清水建設株式会社

一方、人工重力が働かないリングの中心部分「パブリック・エリア」では、宇宙ならではの無重力状態を体験できる大空間が設けられる。ここはロビーやレストラン、アミューズメント施設として機能し、浮遊しながら食事体験やスポーツを楽しむことができる。

パブリック・エリアのイメージ図
Credit: 清水建設株式会社

構造物の中央に設置される逆三角形の「エネルギー・サプライ」では、展開型の太陽電池パネルやバッテリーにより宇宙ホテルで使用するエネルギーを確保するという。
そして、構造物の最下部は、旅行客や物資を乗せた輸送機がドッキングできるプラットフォームとして機能する予定だ。

宇宙ホテルまでの移動で使われる輸送機に搭乗するには訓練が必要となりそうだが、同社が計画する宇宙ホテルは重力があるため、宇宙飛行士のような訓練は不要だとしている。

月面基地構想が先行、宇宙ホテルの完成時期は未定

これだけ巨大な建造物となると、地球で組み立てて宇宙に運ぶというわけにはいかない。
そこで清水建設は、宇宙ホテル建設に必要なパーツをロケットで打上げ、宇宙空間でパーツ同士をつなぎ合わせていく方式を採用する。ロボットを用いてスムーズかつ簡単につなぎ合わせられるよう工夫を施すということだ。

とはいえ、無重力の宇宙空間で正確にパーツをつなぎ合わせていくのはかなり難易度の高い作業となる。さらに、資材の打上げコストや宇宙ごみとの衝突回避、安全面の問題など、宇宙ホテルを建設するにはさまざまな課題が存在する。

同社は、宇宙ホテルの完成時期を20XX年としており、詳細は明らかにしていない。
この宇宙ホテル構想が実現するかどうかはわかっていないが、同社は実現のために日々さまざまな研究・開発に取り組んでいるという。

同社は現在、宇宙ホテルよりも先に「コンクリート月面基地構想」の実現に向け研究を進めている。
計画するのは、月の資源でコンクリートモジュールを作り、モジュールを組み合わることで大空間をつくるというもの。同社は、この月面基地の建設において得た知見や技術を活用して、さらに難易度の高い宇宙ホテル建設を進めていく予定だ。

何十年にもわたる同社の宇宙開発への挑戦は、今後さらにアップデートしていくことが期待される。

これらの宇宙ホテル構想が実現すれば、宇宙ホテルに付随して宇宙サウナや宇宙エステ、宇宙結婚式というサービスも誕生するかもしれない。

技術的にも産業的にもフロンティアの領域である宇宙ビジネスは、アイデア次第で今後のビジネスや社会のあり方に大きなインパクトを与える可能性がある。

今回取り上げた2社の宇宙ホテルが実現し、民間人が宇宙で過ごすことが当たり前になれば、人類にとって新たな時代の幕開けとなる。

<参照>

Orbital Assembly
https://abovespace.com/
https://news.abovespace.com/2021/oac-announces-new-opportunity-to-invest/
https://news.abovespace.com/2022/new-equity-offering-reg-cf-to-advance-hybrid-gravity-space-station-development/
https://news.abovespace.com/2022/first-orbital-retail-store-in-space-on-pioneer-station/
https://news.abovespace.com/2022/introducing-pioneer-station/
https://www.wethecoolmagazine.com/issue-n8/vacations-out-of-this-world-literally
https://edition.cnn.com/travel/article/space-hotel-orbital-assembly-scn/index.html
https://www.cnn.co.jp/fringe/35167426.html

清水建設
https://www.shimz.co.jp/topics/dream/content04/
https://www.shimz.co.jp/heritage/history/details/1987_2.html
https://www.shimz.co.jp/company/about/pr/fb_dream6.html
https://jcmanet.or.jp/bunken/kikanshi/2006/01/028.pdf
http://library.jsce.or.jp/jsce/open/00037/422/422-120543.pdf
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsmesec/2003.11/0/2003.11_57/_pdf