2023年8月7日、米国のNational Oceanic and Atmospheric Administration(アメリカ海洋大気庁、以下、「NOAA」)の商用リモートセンシング規制局は、複数の商用衛星システムの運用ライセンスを変更したと発表した。
これは2020年7月20日にNOAAが施行した民間のリモートセンシングシステムに関する一時的な制限が、最大3年間の保持期間を経て一部解除されたものである。この解除により、米国Umbra社では、解像度16cmのSAR画像が提供可能となった。
解除された規制内容
今回、一時的な制限が解除されたものは、2020年に制定された商用リモートセンシング衛星に関するライセンスのうちTier3に相当する企業に関する制限である。
連邦規則集では、Tier3を次の通り規定している。「国内外の組織または個人から既に入手可能な非拡張データと実質的に同じではない非拡張データを収集する機能を備えたシステム」、すなわち、国内外に競争相手がおらず、最も高性能な商用リモートセンシングシステムを提供できる企業となる。
NOAAはこのTier3のライセンスを変更し、39個の個別の一時的規制を解除するとともに、以下の変更がなされた。
- 特定の撮像モードに対する世界的な撮像制限が緩和され、地球表面の1%未満を除くすべての箇所に関する撮像と配信の許可
- 一部の非地球画像(宇宙船、衛星等の画像)や急速再訪条件の撤廃
- X-band SAR画像に関する一時的な制限の解除
規制解除による高解像度SAR画像の提供
上記一時的規制の解除により、米国Umbra社では、従来のライセンスでは解像度25cmまでであったSAR画像が、16cmの解像度で顧客に提供できるようになったと、プレスリリースしている。
日本の規制内容と現状
日本では「衛星リモートセンシング記録の適正な取り扱いの確保に関する法律」において、その規制対象基準値や、衛星リモートセンシングデータの流通に関する規制が定められている。0.24m未満の解像度を有するSAR画像は、その流通が制限されている。また、現在の日本におけるSAR画像の最高解像度は、QPS社が打上げたSAR衛星(アマテル)が提供する0.46mとなる。
センサ種類 | 生データ基準 | 標準データ基準 |
---|---|---|
光学センサ | 対象物判別精度が2m以下、かつ、記録されてから5年以内 | 対象物判別制度が0.25m未満 |
SARセンサ | 対象物判別精度が3m以下、かつ、記録されてから5年以内 | 対象物判別制度が0.24m未満 |
ハイパースペクトルセンサ | 対象物判別精度が10m以下、かつ、検出できる波長帯が49を超え、かつ、記録されてから5年以内 | 対象物判別制度が5m以下、かつ、検出できる波長帯が49を超える |
熱赤外センサ | 対象物判別精度が5m以下、かつ、記録されてから5年以内 | 対象物判別制度が5m以下 |
米国の競争力の向上
今回の規制解除では、国家安全保障のためTier3の一部の規制については維持されたままとなったが、その維持または解除については、国防長官により毎年検証されることになる。米国のこの規制の解除は、急成長している世界の商業宇宙産業市場における米国のリモートセンシング企業の競争力を向上させるとともに、市場における米国のリーダーシップを加速することになる。
前述のとおり日本では、取得できる解像度において後れをとっている。地球観測データの利用分野では、世界の多くの企業が参入しており競争はますます激化すると予想される。衛星リモセン法における記録の流通制限についての見直しや申請の簡素化が柔軟に行われることで、観測技術面での開発や事業化のスピードアップが望まれる。
参考文献
1)商用衛星ライセンスの制限的運用条件撤廃 https://www.space.commerce.gov/noaa-eliminates-restrictive-operating-conditions-from-commercial-remote-sensing-satellite-licenses/
2)解像度25cm(左)と解像度16cm(右)のSAR画像 https://umbra.space/blog
この記事は文部科学省の令和5年度地球観測技術等調査研究委託事業「将来観測衛星にかかる技術調査」の一環で配信しております。