2023年12月5日、NASAが静止軌道に打ち上げているLCRD(Laser Communications Relay Demonstration:レーザー通信リレー実証機)と国際宇宙ステーション(ISS)で実証を行っているILLUMA-T(Integrated LCRD Low Earth Orbit User Modem and Amplifier Terminal:統合レーザー通信リレー実証低軌道ユーザー・モデム・アンプ端末)がデータの交換に成功し、NASA初の双方向エンドツーエンドのレーザーリレーシステムが完成した。
LCRDとILLUMA-Tは、NASAの宇宙通信航法(SCaN)プログラムの取り組みの一環で、レーザー通信技術が科学および探査ミッションにどのような影響を与えるかを実証している。本実証の成功により、データ転送の効率が大幅に向上し、科学的な発見を加速させる可能性がある。
レーザーリレーが果たす役割
ILLUMA-Tは、国際宇宙ステーションからLCRDにデータを中継し、LCRDはカリフォルニアまたはハワイの地上局にデータを送信する。他方で地上局から送信されたデータはLCRDを中継して、国際宇宙ステーションにあるILLUMA-Tに送信される 1。
LCRDが中継衛星の役割を果たすことで、探査機と地上局が同時に接続され、探査機が地球に直接接続するアンテナを搭載する必要がなくなる。これにより、将来の探査機の通信に必要なサイズや重量、動力の条件が緩和され、打ち上げ費用の低減や観測機器を積むスペースの拡大につながる可能性がある 2。
レーザー通信がもたらす変革
中継衛星にデータを送信すること自体は新しいことではなく、これまでは電波により通信が行われてきた。電波の有効性は実証されているが、宇宙でのミッションはかつてなく複雑になり、収集する情報も増えている。
レーザーで通信を行うことにより、データの伝送速度は電波の10~100倍に向上し、より多くのデータを一度に地上局に送り返すことができるようになる。ILLUMA-Tの伝送速度は1.2Gbpsで、平均的な映画1本分に相当するデータ量を1分以内に転送することができる。
日本におけるレーザーリレー技術の研究開発状況
JAXAでは、地球観測衛星(低軌道)と光データ中継衛星(静止軌道)間のデータ中継を行う「光衛星間通信システム」(LUCAS:Laser Utilizing Communication System)が開発されており、2020年に光データ中継衛星を打ち上げ、2021年に地上局との双方向の光リンクを成立させている 3。現在は低軌道衛星側の光衛星通信端末と静止衛星側の光衛星通信端末を用いて軌道上での運用実証を行うための開発が行われている 4。
ワープスペース社では、中軌道に光衛星通信端末を搭載したデータ中継衛星を打ち上げて、低軌道衛星のデータを地上に伝送する、「WarpHub InterSat」サービスの開発が行われている。初号機衛星「LEIHO(霊峰、Lasercom Exploration Inter-sat Hub One)」を2024年10月に、2〜3号機の衛星を2025年後半〜2026年前半に打ち上げる予定となっている 5。
その他にも、Space Compass社は「光データリレーサービス」の2024年度の実現に向けて、QPS研究所との本格検討を開始するなどしており、日本においても光通信によるデータ中継に関する研究開発が進められている。
今後の展望
今回LCRDとILLUMA-Tによる双方向エンドツーエンドのレーザーリレーシステムが完成したことで、レーザーリレー技術が実運用されるようになり、衛星通信の能力が飛躍的に拡大していくことが予想される。これにより、科学および探査ミッションからより多くのデータを地上へ送ることができるようになるとともに、宇宙飛行士と地球をつなぎ続けるための重要な双方向リンクとして機能する可能性が拓かれ、宇宙空間におけるNASAのミッションが大きく進行するだろう。
観測データの増大や衛星コンステレーションの発展などにより、大容量通信を実現するレーザーリレー技術の需要は増大している。この分野で先行することによって、衛星通信分野でのプレゼンスが高まることから、日本においても、研究開発のスピードアップが望まれるところである。
参考文献
1)https://www.nasa.gov/technology/space-comms/nasas-first-two-way-end-to-end-laser-communications-system/
2)https://www.cnn.co.jp/fringe/35180587.html
3)https://www8.cao.go.jp/cstp/anzen_anshin/20221021_meti_1.pdf
4)https://www.satnavi.jaxa.jp/ja/project/lucas/
5)https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01819/00016/
この記事は文部科学省の令和5年度地球観測技術等調査研究委託事業「将来通信衛星にかかる技術調査」の一環で配信しております。