住宅地図やカーナビ、GIS(地理情報システム)といった地理空間情報サービスを、
企業や個人、そして公官庁・自治体などあらゆる業種・業界の顧客に提供するゼンリン。
デジタル化が進む地図業界の現状と今後について聞いた。
目次
地図データとデジタル技術融合の先駆け あらゆる業種で利用されるサービスを提供
住宅地図やカーナビゲーション用地図データ、業種特化型の地理情報システム(GIS)など、地図にまつわるさまざまなサービスを提供するゼンリン。
同社は1948年に創業、観光小冊子や住宅地図を手がける出版事業を皮切りに、1982年には地図情報のデジタル化に着手。以降も世界初のGPSカーナビゲーションシステム専用ソフトを開発するなど、地図情報をデジタル技術と融合させたサービスを生み出してきた。
一般企業や行政向けサービス・アプリの提供などを担うゼンリンICT事業本部の中で、中長期のビジネス戦略構築や事業企画を担当するICT事業企画部部長の小林孝彰氏は、地図情報を生業とする自社の強みをこう語る。
「地図とは、インフラ情報を集約したものです。多くの企業ではビジネスの対象となる特定の業種、業界があるかと思いますが、我々の地図情報はあらゆる業種・業界の方に活用いただいています。我々も個別のサービス、商品ごとに対象顧客を定めていますが、当社のサービスや商品は企業向け(to B)、行政向け(to G)、一般消費者向け(to C)のすべての領域をカバーしています。世の中全体で活用されているという点がゼンリンの強みだと考えています」
増加する多様なセンシングデータの「ハブ」となる地理空間情報
地図業界での最近のトレンドは、IoT領域での地理空間情報の活用だという。
「ICTが発達するなかでIoT(モノのインターネット)と呼ばれるセンシング機器が多く使われるようになってきました。これらが収集したデータはすでにかなりの量、溜まってきているのですが、こういったデータを活用するときに、データを紐付けるハブとして地理空間情報が必要となってきます。IoT機器で取得されたヒトやモノの位置情報や移動経路など、あらゆるデータを地図上で可視化し、傾向を分析して将来予測に役立てるという取り組みが行われています」(小林氏)
こうした取り組みの背景には、サイバー空間とフィジカル空間の融合を目指す『Society 5.0』や、デジタルの力を活用して住みよい地域をつくる『デジタル田園都市国家構想』など、国が提唱する政策の動きもある。
情報の不統一や揺れを解消! 土地や建物に付与される「不動産ID」とは
デジタル化が進む中で、多様な情報を結びつけ、社会の便益や効率の改善を図る際に、地図情報は大きなキーになると小林氏は説明する。
そうした取り組みの一例として紹介してくれたのが、デジタル庁が進める『ベース・レジストリ』の構築や、国土交通省が進める『不動産ID』である。
ベース・レジストリとは、デジタル社会の基盤となるデータ群をオープンデータとして整備し、行政機関間の情報連携や民間事業者も含めたデータの利活用を進めるもの。行政手続きのワンスオンリー化や民間企業のDXにもつながるとされている。例えば現在、住民の住所や企業などの所在地などのマスターデータである『アドレス・ベース・レジストリ』のパイロット事業がデジタル庁にて検討されている。
後者の不動産IDは、土地や建物を重複なく固有のものとして特定するための共通コード。2022年3月に国土交通省が付番のルール等を定めるガイドラインを策定、不動産関連情報の連携・蓄積・活用を促進することで、業界全体の生産性向上や不動産の流通・利活用を促進することが目指されている。
「例えば、ネットで賃貸物件を検索したときに、同じ物件に見えるのに複数の物件として検索結果が出てくることがあると思います。これは、情報が登録されるときに『1丁目1番1号』と『1丁目1-1』など住所の表記に揺れがあったり、情報が省かれてしまっていたりすることで生じてきます。不動産IDを使えば情報のばらつきがなくなり、業務の効率化につながりますし、さまざまな企業が情報を連携して活用できるようになります」(小林氏)
地図情報のパイオニアとして、ニーズにあわせて情報を整理・提供
不動産IDの社会的な利活用はもう少し先になると思われるが、ゼンリンでは同社が保有する時空間データをデジタルサービス内に組み込める開発ツール『ZENRIN Maps API』の中で住所データのクレンジングサービスを提供している。前述のように、住所や建物名はさまざまな理由で表記にばらつきがあり、そのため物流やマーケティング活動、確認や連携作業など、多くの場面で非効率が生じている。
「デジタルによる効率化に取り組む際、まずはデータを使える状態にしておくことが重要です。このサービスではその点を支援しています」(小林氏)
反面、国の事業で住所や所在地の情報が整備されれば、これまで同社が事業として行ってきた地図情報の提供は方向転換を迫られることにもなり得る。
この点について小林氏は、「確かに、国のオープンデータで十分だと感じる方も一定数いらっしゃると思います。一方で、鮮度や精度の面で物足りないと思う方もいるはずです。そうした次のニーズに対して、どう自分たちの強みを活かしてポジションをとっていくかを考えているところです。また、オープンデータによって地図情報の活用が進めば、それはニーズが高まることでもあります。広がる市場にどのような価値を提供できるかも、今後考えなくてはならないところです」と語る。
未来に向け新たな事業を模索する一環として、ゼンリンは地理空間情報を用いたビジネスアイデアコンテスト『イチBizアワード』に2年続けて協賛している。
協賛の背景と期待について、同社ICT業務推進部業務推進課課長の茂木あずさ氏はこう話す。
「すぐにビジネス化を検討できそうなアイデアに触れられる点ももちろんですが、今年はそれ以上に、応募企業や応募者個人の皆さんとのマッチングに魅力を感じています。昨年は同業でもある朝日航洋の社員の方のアイデアに当社から企業賞を差し上げたのですが、、あまり意見交換をする機会がない同業の方と、アワードを機に情報交換ができたことは有益な出来事でした」
茂木氏は、専門性の異なる朝日航洋社との接点ができたことは新たな視点を得ることにもつながったと語る。アワードを通して、アイデアや技術をもつ企業・個人がつながり、新しい発想が生まれる土壌が育まれているようだ。
【イチBizアワードとは】
『イチBizアワード』は、内閣官房による、地理空間情報を活用したビジネスアイデアコンテストです。
2022年に第1回が行われ、第2回は2023年8月31日までアイデアの募集が行われました。応募されたアイデアは、審査を経て2023年11月上旬に結果発表が行われる予定です。
https://www.g-idea.go.jp/2023/