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地理空間情報を活かして地域の文化と経済、コミュニティを活性化 ―パスコ【前編】

創業以来、70年にわたり地理空間情報サービスを提供している株式会社パスコ。
同社が扱う地理空間情報は、デジタル化が進み、また近年激甚化する自然災害への対応においても
ますますその重要性を増している。同社が展開するビジネスの今と未来を聞いた。

橘 克憲 氏(たちばな・かつのり)
株式会社パスコ 上席執行役員
(経営戦略本部・サスティナビリティ推進・海外戦略・海外子会社担当、経営戦略本部長)
1992年に株式会社パスコへ入社し、都市計画コンサルタントの業務に従事。
その後、公共・民間向けの地理情報システム(GIS)の事業を経て、2019年から経営戦略本部において同社における中長期的で重要な経営戦略の立案と未来につなぐ新たな事業創造の活動に従事している。
一級建築士。防災士。

測量・地理空間情報の領域で70年にわたりサービスを提供

「地球をはかり、未来を創る ~ 人と自然の共生にむけて ~」を経営ビジョンに掲げるパスコは、今年で創業70周年を迎えた。同社の創業は1953年。当時はパシフイック航空測量株式会社という社名で、航空測量用のカメラを用いて戦後間もない日本の国土を撮影し、その画像から戦後復興事業に利用される地図を製作することが主要な事業だったという。

その後、商号変更や東京証券取引所市場第二部への上場などを経て、1974年に測量会社として初めて東京証券取引所市場第一部に上場。1983年10月に株式会社パスコに商号を変え、現在に至る。日本の測量・地理空間情報事業の先駆的企業のひとつだ。

そんな同社は現在、地理空間情報を活用して国土の管理・保全やインフラ維持管理、災害・環境対策のみならず、文化財管理など、幅広い領域でビジネスを展開している。

デジタル化や災害激甚化を背景に、ニーズの高まる地理空間情報サービス

パスコは国内の自治体・公官庁関連を主要な顧客として全国にネットワークを構築しているほか、民間企業にもサービスを提供しており、海外展開も進めている。

パスコが提供する「行政支援GIS PasCALシリーズ」の
画面。多様な分析機能で行政のまちづくりを支える
Credit: 株式会社パスコ

近年は、コロナ禍によって急激に進んだデジタル化に加え、激甚化する自然災害に対応するためにかねてから国が進めている国土強靭化などの流れの中で、同社の各種サービスが活用されている。

パスコ上席執行役員・経営戦略本部長でサスティナビリティ推進や海外戦略などを担当する橘克憲氏は、同社が展開するサービスの現状をこう説明する。

「国内公共部門においては、河川・道路・砂防などの分野を中心とした調査業務、3次元地形図の整備業務が拡大しました。また、デジタル技術を活用して地域の課題解決を図る『デジタル田園都市国家構想』に基づく各種台帳のデジタル化業務や、その利活用のためのシステム導入なども拡大しています。国内民間部門では、新型コロナウイルス感染症の影響からの復調の兆しが見えるなか、鉄道事業者向けの情報システムサービスなどが堅調に推移しています」

2022年7月に発生した大雨災害の被災状況を航空機で撮影、状況を把握
Credit: 株式会社パスコ

世界中で活用できる地理空間情報、海外へも着実に展開

地理空間情報は、日本だけでなく全世界で活用できる情報だ。同社が保有する人工衛星のデータは、日本だけでなく世界各地をカバーしている。

特に経済発展が著しい東南アジア諸国連合(ASEAN)地域にある同社の海外子会社では、政府開発援助(ODA)事業の調査業務や写真測量業務が拡大しているという。

また、2023年8月には、タイの宇宙機関でリモートセンシングやGIS(地理情報システム)、衛星技術開発などを所管するタイ地理情報・宇宙技術開発機関(GISTDA)と、タイ国内での地理空間情報の高度化に向けた空間情報事業の開発・共同プロモーションの検討協力に関する基本合意書を締結するなど、海外へのさらなる展開も視野に入れている。

「ASEAN諸国はパスコが注目しているマーケットです。農業、防災関連のニーズもありますが、最近はASEAN地域に事業展開を考える企業などが、出店計画を立てる際に地理情報システムを活用したいというニーズも伺います。こうしたサービスは国内ではすでに提供していますが、今後海外にも広げていけたらと考えています」(橘氏)

タイ・GISTDAとの基本合意締結の様子
Credit: 株式会社パスコ

時代の変化に対応し、事業の「深化・伸化・新化」に挑戦する

デジタル化や防災・減災ニーズの高まりは地理空間情報の価値が活かせる分野であり、同社にとって今の社会環境は活躍の場が多いともいえる。

同社でも、自社を取り巻く環境に対する認識として、政府が主導する『防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策』により、道路・海岸・ダム・森林分野などにおける3次元地形データの計測、データの加工・解析、データ活用のためのマネジメント技術の需要が高い水準を維持していること、また、同様に政府主導の『デジタル田園都市国家構想』や国土交通省が主導する『Project PLATEAU(プラトー)』の取り組みでも、パスコのデジタル技術が発揮できる領域が拡大したとしている。

一方で、世界情勢や経済環境は未だ先行きの見通せない状況でもある。こうした環境をふまえ、同社では2022年4月から2023年3月までの1年間で、① 最先端技術の実用化、生産プロセスの改革、② 新市場開拓、新たなビジネスの本格稼働、③ 空間情報コンテンツとプラットフォームの普及、④ 経営基盤の強化と働き方改革、の4つに注力してきた。

これらの取り組みの背景と今後に向けた方向性を、橘氏は次のように説明する。

「大規模な風水害が相次ぎ、防災・減災の必要性が高まっている状況は、パスコを含めた防災関連の業種にとって活躍の場が増えている状況といえます。これはもちろん、株価などの業績にも反映されることになりますが、国土強靱化を進めるための予算はずっと継続するものではありません。公共領域の事業とは別に、新しい事業を創っていこうというのが現在の方向性です。その中の一つとして、3次元データやAI、メタバースの活用といったような、新領域への取り組みを、今、積極的に進めています。パスコではこの8月に、「パスコグループ中期経営計画 2023-2025」を発表しました。その中で、既存事業を深掘りする『深化』、次に持続可能な事業の拡大を目指す『伸化』、そして今後を担う新しい事業を創造するための『新化』という3つの『しんか』計画を掲げました。特に、新しい事業を創り出す『新化』の取り組みは重要なものだと捉えています」(橘氏)

後編では、地理空間情報の企業として『しんか』の観点から新たな事業を創り出すことを目指すパスコの取り組みを紹介する。

後編に続く〜

【イチBizアワードとは】
『イチBizアワード』は、内閣官房による、地理空間情報を活用したビジネスアイデアコンテストです。
2022年に第1回が行われ、第2回は2023年8月31日までアイデアの募集が行われました。応募されたアイデアは、審査を経て2023年11月上旬に結果発表が行われる予定です。

https://www.g-idea.go.jp/2023/

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