半導体・電子材料や電池材料等を扱う化学メーカーのレゾナック(東京都港区、代表取締役社長 髙橋秀仁)は、2024年3月21日、同社の研究提案がJAXAの「太陽系フロンティア開拓による人類の生存圏・領域拡大に向けたオープンイノベーション」に採択されたと発表した。
「太陽系フロンティア開拓による人類の生存圏・領域拡大に向けたオープンイノベーション」は、JAXA宇宙探査イノベーションハブが将来的な宇宙探査への応用だけでなく、地上での事業化やイノベーション創出にも重点を置くことを方針として進めている事業で、技術課題(研究テーマ)に基づいた研究提案募集(RFP : Request for Proposal)を行っている。
今回レゾナックが採択された研究提案は、「レゴリス物理蓄熱エネルギーシステム」として募集されていたもので、月面を覆う砂「レゴリス」を蓄熱材として活用できないかを探る研究内容。
月面に大量に存在しているレゴリスにはガラス質が多く含まれており、これを蓄熱材として活用できれば月面でのエネルギー確保につながるが、粒子間の空隙は真空で熱が伝わらないため、レゴリス全体の熱伝導率および比熱を大きくしたり、蓄熱したレゴリスから熱を取り出したりするシステムを構築する必要がある。
これに対し、レゾナックでは同社グループの中で量産実績のある「レジンコーテッドサンド技術」を用いることで、熱伝導率および比熱を向上できると着想。
「レジンコーテッドサンド技術」は、鋳物製品を製造するときに使われる、表面を樹脂でコーティングした砂を加熱して樹脂を溶融・硬化させ硬化物をつくる技術のこと。
これを応用してレゴリスの表面にポリアミドイミド等の樹脂層をコーティングし、締め固める手法の適用可能性を確認するため、同社メンバーは、熱が輻射のみで伝わる真空の環境かつ約2週間ごとに昼夜の過酷な気温変化を繰り返す月面環境を想定して、熱シミュレーションを行った。
その結果、熱伝導率、比熱ともに向上し、月の赤道面においてはレゴリス単体に比べ、コーティングした場合のほうが昼間の太陽熱を20倍以上蓄熱可能な見込みであるという結論を得たという。
従来の研究では、レゴリスの蓄熱性を改善する手法としてレーザ溶融によるガラス固形化などが考えられてきたが、製造時に多大なエネルギーが必要なことが課題となっていた。
今回提案された手法は、月面上でのスクリュー混練のみでコーティングが可能で、実現できれば圧倒的に低エネルギーで大量製造することができる。同社では計算情報科学研究センターで高いシミュレーション技術を保有していたことから、今回の蓄熱効果の検証も短期間で実現でき、こうした独創性が評価されたことが「チャレンジ型」枠での採択につながったという。
既存の自社技術を宇宙でのインフラづくりに活かそうとする同社のこの取り組みは、社員の自主的な取り組みによって提案されたもの。
今ある技術を活用して宇宙まで事業領域を広げていこうとするチャレンジの今後に期待したい。