2024年9月11日、二酸化炭素(CO2)回収・再資源化技術の開発を行う九州大学発スタートアップの株式会社JCCL(福岡市西区、代表取締役CEO 梅原俊志)は、九州大学、JAXA、東京工業大学と共同で有人与圧ローバー等を想定した有人宇宙探査船内でのCO2分離・除去のための膜分離装置の設計に成功したと発表した。
この成果は、産学官の技術者・研究者のパートナーシップで宇宙探査に関する研究に取り組む「JAXA宇宙探査イノベーションハブ事業」でのJCCL、九州大学、JAXA、東京工業大学との共同研究によるもの。研究成果は2024年9月11日に化学工学会第55回秋季大会で発表された。
今回設計されたのは、NASAが主導する月面探査プログラム「アルテミス計画」のためにJAXAが検討中の有人与圧ローバー(参考記事)を想定し、船内で宇宙飛行士が過ごす居住空間からCO2を分離し船外に除去する機能を担うCO2分離・除去装置。
有人与圧ローバーは、宇宙飛行士が乗り込んでローバー内で生活しながら、月などの天体表面を約1か月にわたって探査することができる探査車だ。
今回の研究では、九州大学大学院工学研究院の星野教授の研究成果をもとにJCCLで開発された高性能なCO2選択透過膜「アミン含有ゲル粒子膜」と減圧蒸気スイープ型の膜分離装置を活用することを想定し、2名の宇宙飛行士が乗車した与圧ローバーから宇宙飛行士の呼気内に含まれるCO2を分離、宇宙船外に排出して船内のCO2濃度を低い濃度に維持するための装置の操作条件の最適化が行った。
検討の結果、宇宙飛行士の活動状態(就寝時間・活動時間・運動時間)に応じて大きく変化するCO2の発生量に応じてCO2除去装置内で使用する膜モジュールの数を変化させることで、ローバー内の有用ガス(窒素や酸素)を失うことなくCO2の濃度上昇を適切に抑制できることが示されたという。
さらに、運動状態に応じてCO2除去装置に導入する空気の量を調節することでCO2除去装置の使用電力を大幅に低減できることも示された。今後は、有人宇宙船内への実装を想定し、さらに小型化するための研究を継続する。
今回の成果は、宇宙探査の際のCO2分離・除去だけでなく、地上の大気やオフィスビル内の空気からのCO2直接回収(Direct Air Capture:DAC)を実現するための基盤技術として応用されることも期待されているという。