2024年6月5日(水)から2025年春頃にかけて、JAXA筑波宇宙センター内の展示館「スペースドーム」が老朽化対策工事のため閉鎖される。オープン以来、全国の宇宙ファンや子どもたちを楽しませてきた同館にはどのような魅力が詰まっているのか。後編では、ロケット・有人宇宙開発に関する展示や、屋外展示の見どころについて紹介する。
(文・撮影:加治佐 匠真)
※前編では、「スペースドーム」改修工事の概要やアクセス、今しか見られない閉鎖前の展示(実用人工衛星)について紹介しています。
「スペースドーム」の見どころ② 有人宇宙開発
前編で紹介した実用人工衛星コーナーの隣では、有人宇宙開発に関する展示がなされている。ここでは宇宙飛行士が宇宙船の外で活動する際に着用する「船外活動ユニット(EMU)」装置の展示がある。一般に「宇宙服」と言えば、この装置を思い浮かべる方が多いだろう。過酷な宇宙環境から宇宙飛行士を守るための重厚な作りを間近で見ることができるほか、頭部から顔を出して記念写真を撮ることもできる。後ろに階段も設置されており、背の低い子供でも宇宙飛行士になりきって撮影ができる。
船外活動ユニットの隣には、国際宇宙ステーション(ISS)に取り付けられている「きぼう」日本実験棟の実物大模型が展示されている。「きぼう」では宇宙環境を活用した利用が行われているほか、民間主体の「ポストISS」時代や宇宙探査を見据えた活動も行われている。この模型は2014年に幕張で開催された「宇宙博2014」で展示されていたもので、内部まで詳細に再現されている。また、入口にあたる場所にはJAXA宇宙飛行士のサインがずらりと並んでおり、知っている宇宙飛行士のサインを探してみるのも楽しい。
「きぼう」の隣には、ISSへ物資を運ぶための宇宙ステーション補給機「こうのとり(HTV)」の試験モデルが展示されている。実に全長10m、質量10.5トンという大きな機体には合計6トンもの補給物資を搭載でき、これは世界最大級の輸送能力である。また、ISSで使用する大型の実験装置(ラック)やバッテリーなど大型の物資を輸送できるのも優れた特徴で、それを可能とする機体の大きさをぜひ間近で感じてほしい。
なお、「こうのとり」の運用は2020年の9号機をもって終了したが、現在は後継機「HTV-X」の開発が着々と進められており、ISSだけでなく月周回型宇宙ステーション「ゲートウェイ」への物資輸送も検討されている。
「スペースドーム」の見どころ③ ロケット
「きぼう」模型の向かい側には、日本の歴代液体燃料ロケットを中心とした模型がずらりと並んでいる。ここには、1975年に日本で初めて液体ロケットとして人工衛星を打ち上げた「N-I」ロケット以来約50年の液体ロケット開発の歴史が刻まれている。模型は同縮尺で制作されており、年代が進むにつれてロケットが徐々に大型化していく様子がわかる。また、戦後日本のロケット開発の祖である「ペンシル」ロケットや、液体ロケットの技術も活用した「イプシロン」ロケットといった固体燃料ロケットも展示されている。
また、隣には実物大のロケットエンジン試験モデルが2基展示されている。1基目は「LE-5」エンジンで、1986年に初飛行した「H-I」ロケットの第2段エンジンとして開発。現在日本の液体ロケットで主流となっている、液体酸素と液体水素を推進剤とする方式を初めて実用エンジンとして採用した。以降、液体水素を燃料とする液体ロケットの名称には、「水素(Hydrogen)」の頭文字である「H」が付けられている。この「LE-5」エンジンは順次改良を加えつつ日本の液体燃料ロケットに採用され、最新の「H3」ロケットでも「LE-5B-3」としてその名を残している。
2基目は「LE-7A」エンジンで、現在運用されている「H-IIA」ロケットの第1段エンジンとして、1994年に初飛行した日本初の純国産大型液体ロケット「H-II」の第1段エンジン「LE-7」を改良する形で開発された。特徴は「二段燃焼サイクル」という燃焼方式を採用していること。ロケットエンジンは少量の燃焼ガスを用いてタービンを動かし、ポンプを回して燃焼室に推進薬を送るが、この燃焼ガスを捨てずに再度燃焼させるのが「二段燃焼サイクル」だ。高い燃焼圧が得られて高性能な分、製造には高度な技術が求められる。日本の技術の粋が詰まったその姿を、間近で堪能してほしい。
見どころ番外編 屋外展示
「スペースドーム」の閉鎖中も見学できるものの、せっかくなので屋外展示も見てみよう。屋外には前項で紹介した「H-II」ロケットの実機が展示されており、全長50m、直径4mの巨大な機体を間近で見学することができる。展示機体は飛行用に作られたものではなく、各所に散らばっていた試験機体を集めたもの。だが、他の実物大模型と違って細かい配管や部品が装備された姿は、実機ならではの魅力を感じさせる。ちなみに、衛星を保護するフェアリング(先頭の白い部分)に描かれた赤いマークは張仁誠氏がデザインしたもので、「H-II」ロケットの独特な見た目を特徴づけている。
また、「H-II」ロケットの背後にあるJAXAマークが特徴的な建物は「総合開発推進棟」とよばれ、2003年2月に竣工した、筑波宇宙センターの本部的な役割を担う施設だ。高さは52mあり、「H-II」ロケットを立てたときの高さとほぼ同じとなる。株式会社日建設計の松下督氏によれば、外壁は宇宙船の外装をイメージし、ガラス張りの「エコロジカルコア」はロケットの発射台をイメージさせる作りとしたといい(※1)、宇宙要素がいっぱいに詰まった建築物となっている。他にも光ダクトや基礎免震構造を取り入れた同棟は、数々の賞を受賞している。
※1:一般社団法人プレコンシステム協会「宇宙開発事業団 総合開発推進棟」
後編では、ロケット・有人宇宙開発に関する展示や、屋外展示の見どころについて紹介してきた。リニューアル後の「スペースドーム」の姿に思いを馳せつつ、今しか見られない魅力的な展示をその目でぜひ確かめてほしい。
執筆者プロフィール
加治佐 匠真(かじさ・たくま)
鹿児島県出身。早稲田大学卒業。幼い頃からロケットが身近な環境で育ち、中学生から宇宙広報を志す。2019年より宇宙広報団体TELSTARでライター活動を始め、2021年からはSPACE Mediaでもライターとして活動。主にロケットに関する取材を全国各地で行う。主な取材実績にH3ロケット試験機1号機CFT(2022)、イプシロンSロケット燃焼試験(2023)、カイロスロケット初号機(2024)など。