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多様な業種と連携して宇宙産業の発展に貢献する ―損害保険ジャパン株式会社

生活やビジネスでの「もしものリスク」を補償する保険。
人や企業の挑戦を支え、安心を生み出す保険ビジネスの世界でも宇宙活用が広がり始めている。
近年活発に宇宙ベンチャーと連携する損保ジャパンに聞いた。

右/園田 浩一 氏(そのだ・こういち)
損害保険ジャパン株式会社 航空宇宙保険部 宇宙産業開発課 課長
左/川田 烈 氏(かわだ・いさお)
損害保険ジャパン株式会社 航空宇宙保険部 宇宙産業開発課 課長代理

事業を支える成長分野として宇宙をビジネスの射程に

『安心・安全・健康のテーマパーク』をブランドスローガンに、保険事業だけでなく、介護やヘルスケア、モビリティなどにも事業領域を拡大しているSOMPOホールディングス株式会社。グループの中核事業を担う損害保険ジャパン株式会社では、2023年4月に宇宙ビジネスを専門とする『宇宙産業開発課』を設立、取り組みを強化している。

2022年1月には小型衛星の開発やソリューション提供を行うSynspective(参考記事)と資本提携したのを皮切りに、2022年6月には衛星打ち上げサービスや教育事業を手がけるSpace BDと包括提携、2023年1月には衛星間光通信ネットワークの構築に取り組むワープスペース(参考記事)と資本提携を行うなど、新興の宇宙企業・ニュースペースとの連携を広げている。

同社の宇宙領域に関する取り組みの背景を、宇宙産業開発課で課長代理を務める川田氏はこう説明する。

「私たちは事業環境の変化に対応するため、保険を基盤としつつ事業領域の拡大を進めています。InsurTech(保険 insuranceとテクノロジー technologyを合わせた造語)、ヘルスケア、モビリティ、リアルデータプラットフォーム等での事業トランスフォーメーションに加えて、宇宙についても成長分野の一つとして取り組んでいます」(川田氏)

同課課長の園田氏は、宇宙産業の現状について、「もともと宇宙産業は、官需・軍需が中心でした。その後、日本では通信放送事業が民間に展開されましたが、産業としての広がりは限定的でした。保険は産業の広がりに追随する面があるので、様子見の時代が続いていたのですが、ここ数年でスタートアップの登場や大企業の参入が増え、産業化の最初の一歩の先、1.5歩くらいのところまで来たのではないかと感じています」と語る。

カンファレンスや人脈、つながりを駆使して関係を広げる

同社は保険という異業種からの宇宙ビジネス参入となるが、こうした状況でよく聞かれるのが『宇宙ムラ』の存在だ。宇宙領域では航空宇宙工学、宇宙物理学等の専門知識や業界知識が求められることが多く、こうした知見やネットワークの有無がビジネス参入のハードルになっているとも言われる。

今では複数の宇宙ベンチャーと提携している損保ジャパンだが、どのように参入を進めたのだろうか。

「最近、宇宙関連のビジネスカンファレンスが増えていますが、こうした公開の場で名刺交換などをして面識をもつことが多いです。また、かつて政府系機関や伝統的な航空宇宙産業に所属していた方がニュースペースに移っているケースもあり、個人的な人脈を通じて企業と接点ができることもあります」(園田氏)

オープンなビジネス共創の場と、各人が築いてきた人脈、それぞれを駆使してネットワークを広げ、参入の足がかりにするという点は、宇宙に限らずどの業界にも通じる話といえそうだ。

トライアンドエラーを繰り返して精度を高める、衛星データ活用

現在、損保ジャパンでは、宇宙事業者向けの保険開発と、保険支払の迅速化という2側面で宇宙ビジネスや宇宙技術の活用を進めている。

前者は、ロケットや衛星の打上げを行う宇宙企業に対し補償を提供するもの。ロケット・衛星の製造や打上げは低コスト化が進み、成功率も上がっているが、依然リスクはあり、これらに対応する保険は企業の挑戦を後押しする役割をもつ。
宇宙事業者向け保険の提供は新たなニーズに対応した商品開発だが、後者は、地球観測衛星が取得したデータを現在の保険支払の迅速化に活用するというDX(デジタル・トランスフォーメーション)の取り組みだ。

「衛星データや宇宙の利活用が話題になり、私たちも何かできないかと検討したときに、業務効率化の観点で注目しました。昨今、台風や集中豪雨などの水害が増加していますが、これまではテレビの報道や現地への電話確認を通して浸水域の確認などを行っていました。しかし、こうしたやり方では集めた情報と実際の状況が異なることもあり、投入すべき人員の判断などが難しく、時間もかかっていました。広範囲に状況を把握できる衛星データを活用できないかと考えたことが、Synspective社とお付き合いするきっかけにもなりました」(園田氏)

同社ではSynspectiveが提供する衛星データソリューションを活用し、利用者としてニーズをフィードバック。ソリューションを実戦投入しながら精度を上げている最中だ。

特に衛星データ解析で状況を把握する際には、急峻な地形が多い日本ならではの環境を考慮する必要もあり、こうした面では長く損害保険を手がけてきた損保ジャパンに知見が蓄積されている。新たに取得される衛星データと過去からの知見を組み合わせることで、日本の環境にあった状況把握のモデルをつくることもできそうだ。

損保ジャパンは2022年3月に、衛星開発・運用と衛星データを利用したソリューション
サービス提供を行うSynspectiveと資本業務提携。画像はSynspectiveが運用する
SAR衛星(合成開口レーダ衛星)のイメージ
Credit: 損保ジャパンプレスリリースより

「災害時の被害区域や被害状況の把握は、保険会社としてお客様に対応するうえでも非常に重要です。今は的確な状況把握とリソースの効率配分という切り口で実証していますが、将来的には災害の予測や、災害が起きた際に自動的に保険請求の手続きが進められるような世界観を見据えています」(川田氏)

現在、地球の周囲には多数の観測衛星が存在しており、膨大な量のデータが集められている。しかし、こうしたデータをどう活用するかは、実際のビジネスでどのようなオペレーションがなされているかという実務知識に加え、データ活用によってそれをどう改善し付加価値を生むかという発想力の両方が必要になる。
宇宙産業開発課では、社内の関連部門などとも協力し、既存業務のアップデートや新ビジネス構築を進めていく構えだ。

1対1の連携から多対多の連携で可能性を広げる

宇宙ビジネスの世界に足を踏み出した損保ジャパン。今後は多様な企業との連携を増やしていきたいとする。

「従来は1対1の協力関係でしたが、これを拡大し、業種や規模を問わず多数で連携して仕組みづくり・技術開発などができればと思っています」(川田氏)

同課には宇宙業界出身のエンジニアも加わり、より具体的なディスカッションが進められる体制になった。
また、園田氏は宇宙ビジネスを次世代の事業の柱とすべく、長期的な視野での事業開発も進めていきたいと話す。

「宇宙ビジネスは、今まさに皆で産業をつくっていくフェーズです。近い時期の保険契約も見据えつつ、将来につながる活動もしなければと思います。いろいろな業種の方と協力して宇宙産業の発展に貢献できれば、それが最終的には保険ビジネスにもつながっていくと考えています」(園田氏)

今後は多数の企業・組織との連携を深めたいとする川田氏。
「我々とスタートアップ、さらに製造業、大企業など多数で連携して
仕組みづくり・技術開発などができれば」と語る