【保存版】旧帝国大学で学べる宇宙工学

日本でも盛り上がりを見せる宇宙産業。宇宙開発について大学で学びたいという方も増えているでしょう。また、子どもには大学に行くのなら将来性のある宇宙産業についてじっくり学んで欲しいと考えている保護者の方もいると思います。

以前のコラムでは東京都内で宇宙工学が学べる国公立をご紹介しました。本記事では、東京大学を除いた旧帝国大学6校について紹介していきます。

以前のコラム:【保存版】東京都内で宇宙工学が学べる国公立大学4選

SPACE Mediaでは『航空宇宙工学と大学』をテーマに連載を行っています。以下の過去記事もぜひご覧ください。

【学生必見】宇宙開発に携わるための学部・学科選びについて徹底解説

【保存版】東京都内で宇宙工学が学べる私立大学~前編~

【保存版】東京都内で宇宙工学が学べる私立大学~後編~

北海道大学 工学部 機械知能工学科 機械システムコース

北海道大学
Credit: 札幌観光協会

北海道大学は広大なキャンパスを持ち、多くの観光客が訪れるほど素敵で落ち着いた環境で学ぶことができます。宇宙工学は工学部 機械知能工学科で学ぶことができます。1年次に基礎的な物理や数学を学んだ後、2年次にコース振り分けがあり、機械情報コースと機械システムコースに分かれていきます。機械情報コースは材料力学と制御工学を基礎とした科目から成り立っており、特にバイオ工学やロボット工学を対象としています。機械システムコースでは流体工学と伝熱工学を基礎とした科目から成り立っており、特に環境エネルギーや宇宙工学を対象としています。しかし、コースの違いは設置されている授業のうちどれを必修とするかという点のみであり、いずれのコースになったとしてももう一方のコースの科目を選択することができます。

なお、入学時に工学部 機械知能工学科を選択して出願することもできますが、北海道大学にある総合入試という制度を利用して理系/文系という大きなくくりで入学し、進級時に工学部 機械知能工学科を選択するという方法もあります。必ずしも希望通りに行くわけではないですが、選択肢を広げるという点で総合入試制度も視野に入れてみてはいかがでしょうか。

大学院に進むと機械宇宙工学専攻があり、希望者はJAXAで研究を行うこともできます。有名な研究としてはCAMUI型ハイブリッドロケットの開発があり、扱いやすく安価なロケットエンジンを実現すべく研究が行われています。ハイブリッドロケットは学生団体のロケットでも採用されており、実際に打上げ実験を行えるといった点が非常に魅力的です。

参考: 宇宙開発が経験できる学生活動3選

CAMUIハイブリッドロケット
CAMUI型ハイブリッドロケットの打上げの様子
Credit: 北海道大学

北海道大学工学部 知能機械工学科: https://mech-hm.eng.hokudai.ac.jp/~mech/index.html

北海道大学大学院工学院 機械宇宙工学専攻: https://www.eng.hokudai.ac.jp/edu/div/mechcosm/index.html

東北大学 工学部 機械知能・航空工学科 航空宇宙コース

木、アウトドアの画像のようです
Credit: 東北大学

東北大学 工学部 機械知能・航空工学科には航空宇宙コースがあり、ここで航空宇宙工学について学ぶことができます。機械知能・航空工学科では1,2年次で幅広く横断的に工学を学び、3年次になったらコースを選択します。航空宇宙コースでは「シミュレーションサイエンス」と「スペーステクノロジー」を2つの柱とし、体系的な教育と研究が行われます。

シミュレーションサイエンスとは、自然法則に基づいたシミュレーションの研究開発のことであり、極限状態での空気の流れや新素材を用いた構造の強度などを予測/再現することを目指しています。こうした現象は実験することが難しかったり、最適な結果を得るために何度も試行しなければならなかったりするため、シミュレーションが強力なツールになります。

スペーステクノロジーとは、宇宙探査ロボットや宇宙ステーション、次世代ロケットエンジンなど、最先端の宇宙開発技術のことを指しています。自律的に作動するシステムが求められ、地上とは異なる現象が起こるということが宇宙開発の特徴的な点であり、高度な技術を組み合わせた研究開発が行われています。

東北大学での研究成果は国内外の航空宇宙開発に直結しており、例えば月面探査ローバーを開発しているispaceの基となった技術開発は、東北大学の吉田研究室で行われました。大学内での超小型人工衛星の開発も行っており、「雷神」「ディタワ」「RESEAT」といった衛星を宇宙空間に打上げ、様々な成果を上げてきました。

他には、理化学研究所の富岳などの最先端のスーパーコンピュータを駆使して流体現象をシミュレーションする研究室では、世界初となる航空機周りすべての空気の流れを実際のフライト条件で忠実に再現するシミュレーションを開発しており、三菱重工と共同で次世代の航空機設計の開発プロセスを構築するなど、やはり実際の航空宇宙開発に直結した研究活動を展開しています。またJAXAとの連携により、JAXAで修士や博士の取得を目指した研究を行うことが可能です。

Credit: 東北大学

東北大学 工学部 機械知能・航空工学科 航空宇宙コース: https://www.dream.mech.tohoku.ac.jp/aerospace.html

名古屋大学 工学部 機械・航空宇宙工学科

木、アウトドアの画像のようです
Credit: 名古屋大学

名古屋大学では工学部 機械・航空宇宙工学科で航空宇宙工学について学ぶことができます。以前までは入学後2年次のコース分けで航空宇宙工学コースを選択することとなっていましたが、現在ではそのような振り分けはなくなりました。

これまで、航空宇宙工学の分野として、流体力学、推進工学、構造/材料工学、制御工学などを挙げてきました。名古屋大学では、これらに加えて「電離気体力学」を航空宇宙工学の主なテーマとして設定しています。

参考:【学生必見】宇宙開発に携わるための学部・学科選びについて徹底解説

電離気体とはプラズマのことであり、固体・液体・気体に次ぐ第4の状態であるといわれています。プラズマは気体分子が電子とイオンに分かれた状態であり、これは極超音速で飛行する飛行機やロケットの周囲に現れたり、エンジン内部に現れたりします。また宇宙空間を移動するためのエンジンではプラズマの原理を利用したものもあります。他の大学でも扱うことはありますが、これを主要テーマの一つと位置付けているところからも、いかに航空宇宙工学を網羅しているかが分かります。

そして、名古屋大学が位置する東海地域は、日本を代表する自動車産業や航空宇宙産業の有力企業が数多く拠点を置いています。そのため、企業で研究開発を行っている技術者との交流やインターンシップ制度が充実しているなど、実際の開発現場を身近に感じながら航空宇宙工学を身に着けていくことができます。また、企業からの寄付講座や協力講座,JAXA連携講座、米国やカナダの大学院との短期留学プログラムなど、幅広い経験を積む機会が用意されています。

名大の航空宇宙は、旧帝国大学の中では唯一入学時から一貫して航空宇宙工学を学ぶことが決まっている学科です (他の大学では進級時にコース振り分けなどを行う)。そのため、高校生の時から航空宇宙工学を学びたいという思いを持っている仲間に多く出会うことができるでしょう。

Credit: 名古屋大学

名古屋大学 工学部 機械・航空宇宙工学科: https://www.mae.nagoya-u.ac.jp/ja

京都大学 工学部 物理工学科 宇宙基礎工学コース

Credit: 京都大学

京都大学では工学部 物理工学科で航空宇宙工学について学ぶことができます。物理工学科では1年次に基礎的な数学や物理を学んだあと、2年次のコース振り分けで機械システム学コース、宇宙基礎工学コース、材料科学コース、原子核工学コース、エネルギー応用工学コースに分かれていきます。

京都大学の物理工学科では、大学院に進んでからの高度な教育に向けた基礎作りという位置づけが強調されています。どの大学でもおよそそうですが、京都大学ではその理念が強く押し出されています。また、宇宙基礎工学コースでは航空宇宙工学に限られない幅広い分野で活躍できる力を身に着けられるようにと、技術的な知識よりも応用数学、力学、物理学を中心とした基礎を重視し、未知の分野に対する応用力を持った人材の育成を行っています。卒業生の約半数が航空宇宙工学分野に進み、残りはその他の関連分野に進んで活躍しています。

1年次の共通科目を学び、また2年次でも数学、物理、化学の基礎を学びますが、3年次からは航空宇宙工学に関する専門科目を履修することとなります。少人数教育やセミナー形式による個別指導を重視しており、また航空宇宙関連企業の技術者を講師に招いた設計の授業では、現場の知見に基づいた演習が行われます。4年次からは航空宇宙工学専攻の研究室に配属され、研究活動に取り組んでいきます。

航空宇宙工学を学んでいくこと自体が、幅広い工学分野に対応できる人材になっていくことに繋がりますが、京都大学では特に基礎の部分を重視しているためより本質的な理解を身に着けることができます。また、1年次には航空宇宙分野に限らない様々な関心を持った同期と交わることもいい刺激になります。

実験の様子
Credit: 京都大学

京都大学 工学部 物理工学科: https://www.s-es.t.kyoto-u.ac.jp/aer/ja

大阪大学 工学部 応用理工学科 機械工学科目・機械工学コース

大阪大学へのアクセス - 大阪大学
Credit: 大阪大学

大阪大学では、工学部 応用物理工学科の機械工学科目・機械工学コースで航空宇宙工学について学ぶことができます。1年次には工学部応用理工学科で共通して授業が行われ、2年次から学科目への振り分けが行われます。

航空宇宙工学と題する科目があるわけではありませんが、材料や流体に関わる力学・熱工学の基礎を徹底して学び、最先端の機械で見られる機械で見られる様々な物理現象の解明とその応用ができる人材を育成しています。機械構造物の設計、製作、評価まで一貫して学ぶことができるので、機械システムを統合していく力を身に着けていくことができます。

2年次と3年次で履修できる機械創成工学実習という授業では、グループで機械システムを製作します。設計から評価、プレゼンテーションまで総合的で実践的な演習を行い、座学で学んできた工学をアウトプットする機会となっています。問題設定、問題解決のプロセスを重視した科目であり、日本機械学会から教育賞も受賞するほど評価された授業となっています。

機械創生工学実習の例) 精密ピッチングマシンの設計
Credit: 大阪大学

4年次から研究室に配属され、引き続き研究を行う多くの学生が機械工学専攻に進学します。研究領域は機能構造学系、統合設計学系、熱流動態学系、知能制御学系という4つの系に分類されています。それぞれ工学の幅広い分野で最先端の研究を行っていますが、航空宇宙工学に関わる領域で言えば、機能構造学系では主に材料や構造に関する評価やシミュレーション、統合設計学系ではシステムの設計や切削などの精密加工、熱流動態学系では流体現象や燃焼プロセスの解明や制御、知能制御学系では人工衛星や探査機の軌道計算やフォーメーションフライト技術などの研究を行っています。

他の大学に比べて航空宇宙工学の色は薄いですが、幅広い工学分野に触れる機会があるため、様々な分野に興味を持って刺激を受けながら学んでいきたい人には非常に恵まれた環境だと言えます。また、航空宇宙工学はどの工学分野からでも関わることができるため、まずは自分が関心を持った現象や分野について研究に取り組み、そこから将来的に宇宙産業に関わっていくということも面白い道になりますね。

大阪大学 工学部 応用理工学科 機械工学科目・機械工学コース: http://www2.mech.eng.osaka-u.ac.jp/

九州大学 工学部 航空宇宙工学科

Credit: 九州大学

九州大学では、工学部 航空宇宙工学科で航空宇宙工学を学ぶことができます。九州大学工学部では、2021年から学科の構成が変わり、機械航空工学科 航空宇宙工学コースが航空宇宙工学科になりました。また、入試の段階ではⅠからⅥまでの群から選んで入学し、2年次の前期が終了した段階で志望と成績により学科振り分けが行われます。刻空宇宙工学科は第Ⅲ群に分類され、また第Ⅵ群はどの学科にも進学できるという分類なので、出願時にはⅢ群かⅥ群を選択する必要があります。

九州大学の航空宇宙部門の歴史は長く、1937年の九州帝国大学航空学科を発端としており、これは日本では東大に次ぐ2番目の航空系学科です。長い歴史の中で多くの人材を輩出しており、若田光一宇宙飛行士も九大航空の出身です。JAXAとの連携で講座や研究指導が行われ、大型の風洞施設や微小重力実験のための落下塔など実験設備が整っているなど、非常に充実した環境で学ぶことができます。

航空宇宙部門は4つの大講座から構成され、航空宇宙熱・流体力学、航空宇宙機構造強度、航行ダイナミクス、宇宙システム工学に分類されます。これらが連携して学部と大学院の教育を行っています。宇宙熱・流体力学講座では、航空機の翼やエンジンでの流れや燃焼について扱い、実験やシミュレーションを用いて理解を深めていきます。航空宇宙機構造強度講座では、航空機やロケットの構造に関して、荷重だけではなく熱や空気の流れといったあらゆる環境を考慮して最適な設計するための工学を学んでいきます。航行ダイナミクス講座では、飛行力学や自動制御に関する教育が行われ、力学のみならず先進制御技術や画像処理技術なども応用しながら自立システムを実現するための研究を行っています。宇宙システム工学講座では、惑星間の移動や大気圏再突入時の現象、極超音速機のための新しいエンジンや宇宙ステーションなどの宇宙利用技術など、広く宇宙空間での工学について取り扱っています。

風洞実験の様子
Credit: 九州大学
何極成層圏観察で活躍する九州大学開発の無人航空機
Credit: 九州大学

九州大学 工学部 航空宇宙工学科: http://www.eng.kyushu-u.ac.jp/aeronautics.html

おわりに

今回は東京都内で宇宙が学べる国公立大学をまとめました。 学ぶ対象としての航空宇宙工学はどこでも共通していますが、カリキュラムや研究活動、課外活動などには違いがあります。また、キャンパスや学生の雰囲気にも違いがあり、そうしたことは実際に足を運んでみなければわかりません。オープンキャンパスや学祭の日程をチェックし、是非それぞれの大学を訪れ、学生や教員に直接話を聞いてみてはいかがでしょうか。