国立大学法人京都大学(京都府京都市、総長 湊長博)と住友林業株式会社(代表取締役社長 光吉敏郎)は、2024年5月28日、両者が2020年4月より取り組んできた「宇宙木材プロジェクト(LignoStella Project)」で開発した木造人工衛星(LignoSat)が完成したと発表した(参考記事)。
6月4日にJAXAへ引き渡された後は、9月に米国フロリダ州のケネディ宇宙センター(Kennedy Space Center)から打ち上げ予定のSpaceX社のロケットに搭載され、国際宇宙ステーション(ISS)到着の約1カ月後、「きぼう」日本実験棟から宇宙空間に放出される予定。宇宙空間での運用開始は11月頃になるという。
宇宙での木材活用は世界初
完成した木造人工衛星は1辺が100mm角の超小型衛星(キューブサット)で、NASA/JAXAによる数々の厳しい安全審査を通過。世界で初めて、宇宙での木材活用が公式に認められた。
木造人工衛星の開発にあたっては、2022年3~12月まで、ISSの船外プラットフォームで木材宇宙曝露実験が行われ、3種類の木材からホオノキ材が使用されることになった。なお、このホオノキ材は、住友林業紋別社有林で伐採されたもの。
このほか、地上での振動試験、熱真空試験、アウトガス試験といったさまざまな物性試験も行われ、その結果得られたデータに基づいて開発が進められたという。
木材宇宙曝露実験では、温度変化が大きく強い宇宙線が飛び交う宇宙の環境下でも、割れ、反り、剥がれ等はなく、木材の優れた強度や耐久性が確認された。その他の地上試験でも、木材は宇宙飛行士の健康や安全、精密機器や光学部品などに悪影響を及ぼさないことが明らかになった。
住友林業では、木造人工衛星がNASA/JAXAの安全審査に合格し、宇宙空間での木材利用が認められたことは宇宙業界にとっても木材業界にとっても非常に貴重な一歩であり、持続可能な資源である木の可能性を広げ、さらなる木材利用を推進するうえで大きな意義があるとしている。
スペースデブリ・宇宙環境対策としても有望視される「木造」の意義
また、地球近傍を周回する人工衛星が急増している現在、役目を終えた衛星は軌道離脱後、大気圏に再突入して燃焼させることが国際的なルールとなっている。
現状の金属製人工衛星は、燃焼の際にアルミナ粒子と呼ばれる微粒子を発生し、地球の気候や通信に悪影響を及ぼす可能性があるが、木材は大気圏再突入で燃え尽きるため、将来的に木造の人工衛星が増えれば、この影響の低減が期待できるという。
木造人工衛星の構体の構造は、ネジや接着剤を一切使わず精緻かつ強固に組み上げる「留形隠し蟻組接ぎ(とめがたかくしありくみつぎ)」と呼ばれる日本古来の伝統的技法が採用されている。日本のもつ木の文化・技術が宇宙に飛び立ち、活躍するする日も遠いことではなさそうだ。