初の実用衛星打上げへ! H3ロケット3号機打上げ迫る【7/1(月)12:06〜予定】

H3ロケット3号機
Credit: JAXA

JAXA(国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構)は、2024年7月1日(月)12時6分42秒~12時19分34秒に、H3ロケット3号機によって先進レーダ衛星「だいち4号」(ALOS-4)を打ち上げる。

H3ロケットは今回初めて「試験機」ではない機体の打上げとなる。この記事では、これまでのH3ロケットについておさらいすると共に、打上げ前に行われた極低温点検、3号機打上げの概要について紹介する。

※ 本打上げは当初6月30日に予定されていたが、打上げ前日および当日の天候悪化が予想されたため変更された。7月1日の打上げの可否については、明日以降の天候状況を踏まえ判断が行われる

困難を乗り越えて これまでのH3ロケット

H3ロケットはJAXAと三菱重工が開発した、新型の大型基幹ロケットだ。2024年度内に引退するH-ⅡAロケットの後継機として、日本が自立した宇宙への輸送手段を持ち続けられるように開発された。「柔軟性・高信頼性・低価格」の3要素を実現することで、民間需要も考慮した使いやすいロケットを目指している。

開発は2014年度から開始され、当初2020年度の打上げを目指していたが、メインエンジン「LE-9」に2点の課題があり、2021年度へ打上げを延期した。1点目は高温高圧の負荷がかかる燃焼室内壁に穴が開いたこと、2点目は液体水素を燃焼器へと送り込むターボポンプに、共振(特定の振動が加わることで振動が激しくなること)による亀裂が発生したことだった。燃焼室の課題は解決したものの、ターボポンプにおける振動の課題が新たに認められ、打上げは再度延期された。

LE-9エンジン
Credit: JAXA

上記の課題は一応解決し、2023年2月17日に先進光学衛星「だいち3号」を搭載した試験機1号機の打上げに臨んだものの、機体制御コントローラーの誤作動によりSRB-3(固体ロケットブースター)の点火に至らず、打上げは延期となった。

対応策を施した上で、同年3月7日に再度打上げを実施。
LE-9は正常に燃焼したものの第2段エンジンに着火せず、機体は指令破壊され打上げは失敗した。調査の結果、故障原因を電気系に関する3つにまで絞り込み、それぞれに対策を施すこととなった。

2024年2月17日、衛星喪失リスクを考慮してダミー衛星(VEP-4)と小型衛星2機を搭載した試験機2号機の打上げを行い、機体は正常に飛翔、打上げは成功した。続いて同年6月30日に3号機を打ち上げることとなったが、打上げ前に、試験機2機の打上げを踏まえた改善点を検証する「極低温点検」を実施することとなった。

試験機2号機に搭載された「VEP-4」
Credit: JAXA

本番と同じ手順で挑む 極低温点検の概要

極低温点検(F-0)とは、打上げ時と同じ手順でロケットを射点へと移動して推進薬を充填し、機体と地上設備の機能等を確認する試験のことだ。

新型のロケットを打ち上げる前に行われることが多く、2021年3月には試験機1号機の機体を使用した極低温点検が行われた。2022年11月に行われたCFT(1段実機型タンクステージ燃焼試験)とは異なり、メインエンジンの着火は行わず、着火直前(打上げ6.3秒前)までカウントダウン作業を進めた。なお、極低温点検の名称は、推進薬である液体水素と液体酸素が極低温(絶対零度に近い、極めて低い温度)であることに由来している。

点検は2024年5月29日から30日にかけて行われ、29日の17:30と20:30をそれぞれX-0(打上げ時刻)と仮定してカウントダウンが行われた。

1回目は推進薬を充分に充填した状態で着火直前までカウントダウン作業を進めたが、2回目は第2段の推進薬量を減らした状態で、同じく着火直前まで作業を進めた。これは、今後の打上げでロケット能力を最大化するために第2段の推進薬量を減らした状態(オフロード)で打ち上げる場合に備え、地上において推進薬タンクを加圧する機能を確認するために行われたものだ。

なお、当初は移動発射台に増設した機体把持装置の検証も行う予定だったが、最終調整に時間がかかることから、今後の打上げにおいての運用開始を目指すこととなった。

機体把持装置は、H3ロケットが今までのロケットに比べて地上起立時に風の影響を受けやすいことから追加された装置で、推進剤が充填されるまでのロケットを包み込むように固定し、充填が完了した後は退避するというもの。機体と接する面にはチューブが付けられ、機体を傷つけないような設計となっている。

極低温点検時の3号機。中央の円状構造が「機体把持装置」
Credit: JAXA

初の実用衛星打上げ成功へ H3ロケット3号機打上げの概要

3号機はLE-9エンジン2基、固体ロケットブースター2本、衛星を保護するフェアリングがショート版の「H3-22S」形態となっており、先進レーダ衛星「だいち4号」を搭載し、南北方向の軌道である「太陽同期準回帰軌道」へと投入する。

今回の打上げに成功すれば、H3ロケットとして初めて大型実用衛星の打上げに成功することになる。なお、LE-9エンジンは2基とも、「Type1A」という形態を装備している(1号機はType1を2基、2号機はType1・Type1Aを1基ずつ装備)。

3号機はリフトオフ(離昇)後東に向けて飛行した後、116秒で固体ロケットブースターを分離し、徐々に南方向へ進路を変えていく。この動きは飛行経路が犬の脚のように見えることから、「ドッグレッグ・ターン」とよばれる。これは本来余分な動きであり、打上げ能力を低下させることにつながるのだが、打上げ後すぐ南側に打ち上げると種子島の建物やフィリピンの領域に被害をもたらす恐れがあるため、やむなく行われているものだ。

晴れていれば、地上からもロケットが向きを変えていく様子を綺麗に見ることができる。その後機体はフェアリング分離、第1段・第2段分離と飛行計画をこなし、打上げ後16分44秒でだいち4号を分離する。衛星が分離できれば打上げ成功条件を満たすが、第2段が宇宙ゴミとなることを防ぐため、衛星分離後に第2段の制御落下措置を行うことになっている。

なお今回の打上げでは、第1段燃焼時に「スロットリング」を実証する。推力が一定の場合、推進薬を消費して機体が軽くなるにつれて機体に大きな加速度がかかり、人工衛星への負荷が増えてしまう。この対策がスロットリングで、加速度増加を抑えて人工衛星への負荷を軽減するためにエンジン推力を絞る動作を行う。H3ロケットでは、第1段燃焼時の最後の20秒間において推力を約66%に抑えるという。

3号機の飛行経路。ドッグレッグ・ターンの様子も分かる
Credit: JAXA 2024 年度 ロケット打上げ計画書

この記事では、これまでのH3ロケットについて振り返ると共に、極低温点検とH3ロケット3号機の打上げについて紹介した。今回は機体名称から「試験機」が消え、搭載するペイロードも実用衛星となっている。今後の打上げ計画、商業受注をスムーズに進めるためにも、打上げが成功することを祈りたい。

JAXAによる打上げ中継の視聴はこちらから!

執筆者プロフィール

加治佐 匠真(かじさ・たくま)
鹿児島県出身。早稲田大学卒業。幼い頃からロケットが身近な環境で育ち、中学生から宇宙広報を志す。2019年より宇宙広報団体TELSTARでライター活動を始め、2021年からはSPACE Mediaでもライターとして活動。主にロケットに関する取材を全国各地で行う。主な取材実績にH3ロケット試験機1号機CFT(2022)、イプシロンSロケット燃焼試験(2023、記事)、カイロスロケット初号機(2024、記事)など。

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