JAXA(宇宙航空研究開発機構)は2024年12月25日に会見を開き、同年11月26日に実施したイプシロンSロケット第2段モーター再地上燃焼試験で発生した爆発原因の調査状況について報告した。
この記事では、今回試験を行った「モーター」について解説したうえで、最新の爆発原因調査状況を紹介する。
目次
ロケット「モーター」とは?
「モーター」は何者? 電動機? ロケット?
現在主流のロケットは主に2種類ある。液体の推進剤を使う「液体(燃料)ロケット」と、固体の推進剤を使う「固体(燃料)ロケット」だ。推進剤は燃料と酸化剤(酸素を含む物質)で構成される。なお、推進剤のことを推進薬(推薬)とよぶこともある。
このうち固体ロケットのことを、特に「モーター」あるいは「ロケットモーター」とよぶ。一般的にモーターといえば、電気エネルギーを力学的エネルギーに変換する電動機のことを示すが、ロケットを話題にする際には、モーター=固体ロケットの意味で使用することが多い。
ちなみにモーターの語源は、ラテン語の「動かすもの」だ。語源をたどれば、電動機も固体ロケットも、立派な「モーター」であることがわかる。
「モーター」と液体ロケットの違い
ロケットは燃料と酸化剤を混ぜて燃やすことでガスを噴射し、推力を得る。液体ロケットは、液体の燃料と酸化剤を別々のタンクに搭載し、「燃焼室」とよばれるところで混ぜて燃やす。
一方、モーターは、あらかじめ推進剤を混ぜて固めておき、「モーターケース」という容器の中に入れておく。これを燃やすことで、推力を得る。いわば、モーター全体が燃焼室のような役割を果たしている。
図のように、モーターは液体ロケットに比べ、構造が簡単なことが特徴だ。
固体推進剤の入れ方/燃やし方には何種類かあるが、現在主流なのは、ちくわのように真ん中に穴を空け、穴の内面を一気に燃焼させる方法(内面燃焼方式)だ。
穴を空けないとき(A)に比べ、穴を空けると(B)燃焼面積が増える。そのため、より多くのガスを発生させることができ、短時間で大きな推力が得られる。一方、穴を空けない場合は燃焼面積が変化しないため、長時間同じ推力を持続させたい場合に使用される。
「モーター」のつくり どんな構造をしている?
それでは、モーターがどのようなつくりをしているのか詳しく見てみよう。
まず、モーターの容器にあたるのがモーターケースで、この中に推進剤が詰め込まれている。モーターケースには高い強度と軽量化が求められるため、現在はCFRP(炭素繊維強化プラスチック)という、航空機等にも使われる材料を使うことが多い。
モーターケースと推進剤が直接触れていると、モーターケースが高温に耐えられなくなり溶けてしまう可能性があるため、間には断熱材(インシュレーション)が設けられている。
モーターの最上部には「点火器(イグナイター)」という装置が装備されており、点火器を使って推進剤を点火する。
モーターの出口部分には、「ノズル」とよばれるスカート状の部品があり、ここから燃焼ガスを噴射する。なお、ノズルのいちばん直径が短いところ(狭くなっているところ)を「スロート」とよぶ。ここには最も強い衝撃と熱が加わるため、壊れにくい材料を使うなど、様々な工夫がなされている。
現在の原因調査状況 後ろから爆発、調査は3点軸に
それでは、モーターに関する知識を踏まえ、現在の原因調査状況を整理しよう。
今回の試験では、現在開発中のイプシロンSロケット第2段モーターを、横向きに地上に固定して燃焼させ、各種データを取得して設計が適切かを判断する「地上燃焼試験」を行った。
2023年7月に同モーターの地上燃焼試験が行われた際には、予定の120秒より短い、点火後約57秒で爆発し、試験は失敗に終わった。
JAXAは爆発原因を、点火器内部の「イグブースター」という部品が溶け、モーターケースと推進剤の間に侵入したことで、結果的にモーターケースの許容温度を超えて破壊されたためとした。
そこで、今回はイグブースターが溶けないよう対策を施したうえで再挑戦が行われた。しかし、今回も予定の120秒に満たない点火後約49秒で爆発し、試験はまたも失敗となった。
JAXAは現在判明している事象について、点火後約17秒から燃焼圧力が予測値より高い側に拡大していき、約48.9秒後にモーター後方から燃焼ガスが漏れ、約49.3秒後にはモーター後方から爆発(=モーターケースの破壊)が発生したとしている。
なお、調査の結果、前回の爆発原因とされたイグブースターは今回溶けていなかったことが判明している。ということは、爆発原因はイグブースターの他にある可能性が高い。
JAXAは今後の原因調査について、
- 点火後約17秒から燃焼圧力が予測値より高い側に拡大した
- 点火後約48.9秒に燃焼ガスが漏れた
- 点火後約49.3秒に爆発が発生した
の3点を軸に、解析を進めていくとしている。それぞれの事象が関連しているのか、独立に発生したのかも含め、慎重に分析する予定だ。
なお、破壊された試験設備の復旧計画なども合わせ、原因調査の進捗は2月に報告されるという。
この記事では、「モーター」について解説したうえで、最新の爆発原因調査状況を紹介してきた。イプシロンSロケットは、日本の宇宙開発において不可欠な輸送インフラである「基幹ロケット」のひとつであり、真の原因を解明・克服し、一刻も早くイプシロンSを打ち上げることが重要だ。その第一歩として、2月に行われる予定の進捗報告に注目したい。
筆者プロフィール
加治佐 匠真(かじさ・たくま)
鹿児島県出身。早稲田大学卒業。幼い頃からロケットが身近な環境で育ち、中学生から宇宙広報を志す。2019年より宇宙広報団体TELSTARでライター活動を始め、2021年からはSPACE Mediaでもライターとして活動。2024年7月よりSPACE Media編集部所属。主にロケットに関する取材を全国各地で行う。主な取材実績にH3ロケット試験機1号機CFT(2022)、イプシロンSロケット燃焼試験(2023、記事)、カイロスロケット初号機(2024、記事)など。