2024年の国内ロケット開発・打ち上げ動向まとめ – 歓喜の再チャレンジ成功、そして失敗も

カイロス初号機爆発の様子
(筆者撮影)

今年も残すところわずかとなったが、皆さんにとってどのような1年だっただろうか。ロケット分野においては、安定して成功を収めたロケットがある一方で、失敗したロケットもあるなど、激動の1年となった。

この記事では、2024年の官民それぞれの国内ロケット打上げや試験など、動向をまとめて紹介する。「こんなこともあったな」という気分で、楽しみながら振り返ってもらえれば幸いだ。

JAXA系ロケット

H-IIA ベテランロケットの引退は来年度へ延期

2024年の国内ロケット打上げの口火を切ったのが、H-IIAロケットだ。H-IIAは全長53mの大型液体ロケット。安全保障を中心とする政府系ミッションを達成するため、日本の宇宙開発において不可欠な輸送インフラである「基幹ロケット」のひとつだ。

1月12日に48号機が種子島宇宙センターから打ち上げられ、政府の情報収集衛星光学8号機の目標軌道投入に成功。9月26日には49号機が情報収集衛星収集衛星レーダ8号機の打上げにも成功し、打上げ成功率は97.96%に達した。

H-IIAロケット49号機の打上げ
Credit: 三菱重工カウントダウンレポート

当初、H-IIAは2024年度中の50号機打上げをもって引退の予定だった。しかし、搭載衛星の開発遅れのため、打上げは2025年度に延期となった。

なお、H-IIAロケットの打上げ事業は三菱重工に移管されているものの、開発経緯やJAXAも引き続き打上げ安全監理業務を行っていることから、JAXA系ロケットとして紹介した。

H3 再チャレンジ成功、新形態挑戦へ弾みつけた

昨年の打上げ失敗のリベンジを果たしたのが、H3ロケットだ。H3ロケットは全長57mの大型液体ロケットで、H-IIAの後継基幹ロケットとして開発された。

2023年3月7日に試験機1号機の打上げに挑んだが、第2段エンジンが着火せず、打上げは失敗。搭載していた先進光学衛星「だいち3号」も失われた。

2024年2月17日、対策を施したうえで試験機2号機の打上げに再挑戦。機体最上部のフェアリングには、飛行再開/再挑戦を示す「RTF(=Return To Flight / Retry of Test Flight)」の文字が大きく掲げられた。多くのファンが見守る中での打上げは無事成功し、H3はようやく産声を上げた。

組立て中のH3ロケット試験機2号機。「RTF」の文字が見える
Credit: JAXA

5月29日には「極低温点検」で機体と地上設備の機能を再度確認。7月1日に3号機で先進レーダ衛星「だいち4号」の打上げに成功し、11月4日には4号機でXバンド防衛通信衛星3号機「きらめき3号」の打上げにも成功。着々と基幹ロケットとしての役割を果たしている。

2025年2月1日には、5号機による準天頂衛星システム「みちびき6号機」の打上げが予定されている。また、2025年度中には固体補助ブースターを使用しない「H3-30」とよばれる新形態の打上げも予定されており、この打上げにも成功できるかどうか注目だ。

イプシロンS 燃焼試験再チャレンジも、再び爆発

イプシロンSロケットは固体燃料を使用した基幹ロケットで、2024年度中の初号機打上げを目指して開発が進められていた。

しかし、2023年7月に能代ロケット実験場(秋田)で2段目モーター(=固体燃料エンジン)の地上燃焼試験を行った際、途中で爆発が発生。試験は失敗し、固体ロケット燃焼試験用の設備も失われた(参考記事)。

爆発の原因は、固体ロケットを点火する際に使う「点火器」装置の部品である「イグブースター」が想定外に溶融したことと推定された。

11月28日、部品が溶融しないよう対策を施したうえで、種子島宇宙センターの試験設備を使って再燃焼試験が行われた。しかし、今回も試験途中で爆発し、再チャレンジ成功とはならなかった。

11月28日の燃焼試験で第2段モーターが爆発する様子
Credit: JAXA記者会見資料

JAXAは12月25日の記者会見で、今回イグブースターは溶融しなかったが、

  • 点火約17秒後から、予測値より燃焼圧力が高くなっていった
  • 約48.9秒後に燃焼圧力が下降したことから、燃焼ガスがモーター後方で漏れたと推定される
  • 約49.3秒後に燃焼圧力が急激に下降したことから、モーター後方が破壊・爆発したと推定される

と発表した。現在、この3点を軸に原因調査を進めつつ、燃焼試験設備の復旧計画を検討している。なお、2024年度中の初号機打上げは不可能だという。基幹ロケットの役割を果たすため、早急な原因究明と対策、再試験が求められる。

S-520 世界初の新型エンジン実証に成功

S-520は、固体燃料を使用した全長8mの観測ロケット。衛星打上げを目的とせず、観測機器や実証機器を搭載し、高度100~1,000kmの宇宙空間において、各種観測や工学実験を行う。

11月14日には内之浦宇宙空間観測所(鹿児島)から34号機が打ち上げられ、「液体推進剤回転デトネーションエンジン」の飛行実証実験を行った。

デトネーションエンジンは「爆轟(ばくごう)」とよばれる、火炎が伝わる速度が音速を超える現象を利用したエンジン。既存のロケットエンジンとは異なる仕組みを持ち、大幅な軽量化や高性能化が期待されている。

2021年7月27日にはS-520-31号機によって気体燃料を使用したデトネーションエンジンの飛行実証に成功していた。今回は液体燃料を使用した世界初の飛行実証を行い、エンジンは正常に動作したという。

宇宙空間で燃焼するデトネーションエンジン。左の青く見えるのが地球
Credit: Nagoya University / JAXA

また、打上げ時期は発表されていないが、現在は観測ロケット「S-310」46号機の打上げに向けた準備も進められている。

LTP-135s 目指せ固体ロケットの革新!

LTP-135sロケット(以下LTPロケット)は、固体燃料を使用した全長約1.8m・直径約13.5cmの試験用ロケット。JAXA宇宙科学研究所の森田泰弘専任教授が、民間企業や大学等の協力を得て開発した。

3月17日に北海道スペースポート(HOSPO)から3号機を打ち上げ、目標の高度5km付近でパラシュートを開き、機体データの送信に成功した。

LTP-135sロケット3号機の打上げ
Credit: SPACE COTAN株式会社プレスリリース

LTPは「低融点熱可塑性推進薬(=Low melting temperature Thermo-plastic Propellant)」の略。従来の固体燃料は、柔らかい樹脂を約2~3週間熟成させて化学反応で固めて製造しており、一度固めてしまうと作り直しができなかった。そのため特殊な工程・設備が必要となり、結果的に高コストとなっていた。

しかし、LTPは製造期間を従来の10分の1に短縮でき、固めたあとも熱を加えれば元に戻るため、容易に作り直すことができる。これにより、一般的な工程・設備で製造することができるため、大幅な低コスト化・量産化が可能となる。

各種LTP
(筆者撮影)

現在、森田教授を中心としたJAXAベンチャー「株式会社ロケットリンクテクノロジー」が、LTPを使用して高度100kmを目指す「LTP-210」の開発を進めており、来年以降の動きに注目だ。

民間ロケット

スペースワン 連続失敗も、確実に進歩

国内民間企業が開発したロケットで初めての人工衛星打上げに挑んだのが、スペースワン株式会社のカイロスロケットだ。

スペースワン社は、キヤノン電子・IHIエアロスペース・清水建設・日本政策投資銀行の共同出資によって2018年7月に設立されたスタートアップ企業。自社で射場・スペースポート紀伊(和歌山県串本町)を有し、小型衛星の打上げサービス事業を行っている。

同社の打上げ事業を担うカイロスロケットは、固体燃料を使用した全長約18mの小型ロケット。高度500kmの太陽同期軌道へ、150㎏級の衛星を打ち上げられる能力を持つ。

3月13日には、政府の「短期打上型小型衛星」を搭載した初号機を打ち上げたが、発射約5秒後に爆発、打上げは失敗した。12月18日には2号機の打上げに臨み、約3分間の飛行を達成したものの、途中で姿勢異常が発生し、打上げは失敗となった。

ロケットの姿勢が乱れ、回転して飛行するカイロス2号機
Credit : 和歌山県庁成長産業推進課YouTubeライブ配信よりスクリーンショット

なお、2号機打上げについてはこちらの記事で詳しく解説している。

AstroX 気球からの発射へ向け、着実にロケット技術を蓄積

「ロックーン」方式での人工衛星打上げを目指してロケット打上げ実験を行ったのは、2022年5月に設立されたAstroX株式会社(福島県南相馬市)だ。

ロックーンはロケット(Rocket)と気球(Balloon)を組み合わせた単語で、その名の通り、気球を使ってロケットを持ち上げ、空中で打ち上げる方式だ。

ロックーン方式のメリットは何点かあるが、飛行機よりも安く、より高い高度までロケットを運べる点が魅力のひとつ。飛行機はせいぜい高度15kmが限界だが、気球は高度20km以上まで到達することができる。高度が高ければ高いほど空気が薄くなり、ロケットが受ける空気抵抗が少なくて済むというわけだ。

ちなみに、千葉工業大学惑星探査研究センターによれば、地上から発射すると高度30kmまで飛ぶロケットを高度20kmから空中発射すると、高度100km以上まで到達させることができるという(参考資料)。

同社は8月25日に南相馬市(地上)から、全長1.8mの超小型ハイブリッドロケット「kogitsune」を打ち上げ、高度300mの到達に成功。11月9日には全長6.3mのハイブリッドロケット「FOX1号機」を打ち上げ、高度10kmへ到達する推力を持つロケットの打上げ実験に成功した。

打上げを待つFOX1号機
Credit: AstroX株式会社プレスリリース

また同社は、ロケット機体と同時に、気球に搭載する姿勢制御装置等の開発も進めており、来年度には宇宙空間への到達を目指しているという。

インターステラテクノロジズ/将来宇宙輸送システム 打上げへ向け開発を進めた2社

ここでは、今年ロケット打上げは行っていないものの、打上げへ向け開発を進めた2社を紹介する。

まず、インターステラテクノロジズ株式会社は、開発中の小型衛星打上げ用液体ロケット「ZERO」に使用するエンジン「COSMOS(コスモス)」用のターボポンプ熱走試験を7月から8月にかけて実施した。

ターボポンプはエンジン燃焼器へ燃料と酸化剤を送る“心臓部“にあたる部分。熱走試験ではタービン駆動に燃焼ガスを使用し、ガス発生器等と組み合わせたシステム全体の性能を確かめた。

COSMOSエンジンのターボポンプ
Credit: インターステラテクノロジズ株式会社プレスリリース

試験では目標の回転数を達成し、エンジンシステムとして成立していることを確認したという。今後はターボポンプやガス発生器、そして燃焼器等も組み合わせ、エンジン統合試験へ進む予定だ。

もう1社、打ち上げに向けてロケット開発を進めているのが将来宇宙輸送システム株式会社だ。8月に小型ロケットを使用した離着陸試験ミッション「ASCA hopper」を開始したと発表した。

同社は、2040年までに「高頻度・大量・安価」な宇宙輸送システムを実現する「ASCAプロジェクト」に取り組んでいる。「ASCA hopper」は、このプロジェクトの第1段階となる試験ミッションで、再使用型ロケットの開発能力を獲得することが目標だ。

2024年中に電装系の統合試験や点火器単体の試験は完了しており、来年以降エンジン燃焼試験等を行ったうえで、本番の地上離着陸試験を実施する予定だという。

ASCA hopper用のエンジン
(筆者撮影)

なお、インターステラテクノロジズ社と将来宇宙輸送システム社、そしてスペースワン社は、9月に文部科学省中小企業イノベーション創出推進事業(SBIR フェーズ3)の宇宙分野(事業テーマ:民間ロケットの開発・実証)のステージゲート審査に通過し、フェーズ2に採択されている。

この記事では、2024年の官民それぞれの国内ロケットの打上げや試験などの動向をまとめて紹介してきた。筆者としては、JAXAだけでなく、カイロスロケットをはじめ、衛星打ち上げ市場参入に向けた民間企業の動きが一気に加速したという印象を受けた。来年の動向も楽しみにしつつ、ひとまず全ての関係者の皆さんへ「今年1年おつかれさまでした」とお伝えしたい。

著者プロフィール

加治佐 匠真(かじさ・たくま)
鹿児島県出身。早稲田大学卒業。幼い頃からロケットが身近な環境で育ち、中学生から宇宙広報を志す。2019年より宇宙広報団体TELSTARでライター活動を始め、2021年からはSPACE Mediaでもライターとして活動。2024年7月よりSPACE Media編集部所属。主にロケットに関する取材を全国各地で行う。主な取材実績にH3ロケット試験機1号機CFT(2022)、イプシロンSロケット燃焼試験(2023、記事)、カイロスロケット初号機(2024、記事)など。

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