衛星データ、特に合成開口レーダー(SAR)衛星データの解析に強みをもち、遊休農地探索や都市開発支援、防災対策など、さまざまな切り口でソリューション開発・実証に取り組んでいるスペースシフト。衛星データビジネスの領域で、同社はどのような事業戦略を描いているのでしょうか。
金融業界から宇宙ビジネスの世界に転身し、現在はスペースシフトで事業開発に携わる田口隼人氏に聞きました。

株式会社スペースシフト 事業開発部
大手金融機関在籍時、社内の出向プログラムに参加し、通信系宇宙スタートアップにて財務を担当。並行してグロービス経営大学院でベンチャービジネス・ファイナンスについて学びながら、宇宙ビジネスカンファレンス等を主催する一般社団法人SPACETIDEにプロボノとして参画。2025年1月より現職。また、グロービス在学中に宇宙ビジネス研究会「Space Business Study Group」(現在メンバー380名)を立ち上げ、現在も活動を継続している。
目次
衛星データの強みが活きる、広大なデータ未整備地 スペースシフトの注力領域
農業や不動産、インフラなど幅広い領域で衛星データソリューションの実証や検証を進めているスペースシフト。国内のみならず、東南アジアやアフリカといった海外市場にも注目して取り組みを進めています。
スペースシフトで事業開発に携わる田口氏は、海外市場の方が衛星データの価値が発揮されやすいと語ります。
「衛星データは日本国内でももちろん活用できますが、衛星データの特性を考えると海外は活用の余地が大きいと考えています。特に不動産開発という観点で、日本はハザードマップをはじめとする土地関連のデータが充実しているのに対し、東南アジアなどでは基礎データが整備されていない地域がまだ多くあります。開発に際しては、対象エリアの災害履歴なども調査する必要がありますが、データがなく状況がわからないケースも少なくありません。その点、衛星データは過去に遡って土地の履歴などを取得できますので、そうした活用方法があると考えています」(田口氏)
また、開発プロジェクトの進捗管理においても、衛星データが活用できるとのこと。海外での不動産開発プロジェクトを進める際、通常は現地からの報告を元に進捗を管理しますが、現地の報告だけでは客観性に欠ける点があり、実態とのズレがプロジェクト全体に影響するといったことも起こり得ます。こうした課題に対しても、客観性の高い衛星データによるモニタリングが活用できるといいます。

Credit: 株式会社スペースシフト プレスリリース
また、国内での不動産関連の衛星データ活用として、スペースシフトでは、再生可能エネルギーの開発事業者や地方自治体向けに、遊休農地の探索技術などの活用を検討しています(参考記事)。
太陽光パネルや系統用蓄電池を設置するのに適した土地はあるか、有効活用できそうな遊休農地・耕作放棄地がどこにどのくらいあるのか……、これまでは実際に現地に赴かないとわからなかった土地の状態を、衛星という宇宙からの目で幅広く捉えることで効率的に把握できるようになるということです。
田口氏は、衛星データをどう使うかは「顧客のニーズによって違う」と語りますが、今後の事業構築に向け、広域性・客観性・過去にわたるデータの蓄積といった衛星データの強みを最大限に活かせる領域を探っているところだといいます。
衛星データ活用の鍵となる「解析技術」 衛星データ業界の黒子として
今まさに事業開発を進めているスペースシフト。衛星データビジネスに取り組む企業は日本国内に限っても複数ありますが、同社の強みはどこにあるのか。田口氏は、こう説明します。
「私たちは、衛星データの解析にフォーカスしているという非常にユニークなビジネスモデルをとっています。一般的に衛星データビジネスの企業というと、自社で衛星を運用しつつソリューションも展開する、もしくは農業など特定の分野に特化したプロダクトを提供するというケースが多いですが、当社は衛星も打ち上げていませんし、特定の分野にフォーカスもしていません。解析技術に特化した、ある種『黒子(くろこ)』的な存在です」(田口氏)

衛星データ解析に特化した企業として、スペースシフトではリモートセンシング・AIのエンジニアを揃えた体制を整えており、特に高度な解析技術が求められる合成開口レーダー(Synthetic Aperture Radar:SAR)衛星のデータ解析に注力している点も強みの一つだといいます。また、衛星データソリューションを提供する企業から解析を請け負うこともあり、衛星データビジネス領域でのBtoBサービスを提供し、業界での実績を重ねているところでもあります。
そんな同社が最終的に目指すのは、さまざまな衛星データのプラットフォームを通じて、独自の解析技術を提供していくことだといいます。つまり、業界の『黒子』としての役割を突き詰めていくのが最終的なスペースシフトの目指す姿だということです。
一方で、冒頭で田口氏が説明したように、現在は同社自らが国内外でさまざまなステークホルダーとともに実証を行って事業開発を進めています。この動きの背景にあるねらいを、田口氏はこう語ります。
「将来的には、プラットフォームに解析技術を提供していくことを目指しますが、そのためには、私たち自身がエンドユーザーにどのようなニーズがあるかを理解する必要があります。現在は、多様な業界のエンドユーザーに直接アプローチして課題とニーズを探索している状況です」(田口氏)
エンドユーザーとの接点構築、さらには衛星データビジネスそのものを拡大させる取り組みの一環として、スペースシフトが昨年5月に始めたプログラムが「SateBiz(サテビズ)」です(2024年5月時点ではSateLabとしてスタート)。

Credit: 株式会社スペースシフト プレスリリース
このプログラムは、同社が衛星データビジネスに関心をもつ企業と接する中で、「そもそもどう考えたらいいかわからない」「どこから手をつけていいかわからない」という声が多く聞かれたことからスタートしたもの。自社事業に衛星データを活かせないかと考える企業や、新規事業として宇宙ビジネスを検討する中で衛星データに関心をもつ企業は多くあっても、次の一歩が踏み出せないケースが多いことから、事業創出を伴走支援するための共創プログラムとして立ち上げられました。現在、共創パートナーとして参画している企業は60社を超えており、企業規模も業種もさまざまです。
さらに、最近では地域経済の起爆剤として衛星データビジネスに関心をもつ自治体も増えており、同社への接触もあるそう。今後は自治体向けの展開も考えられると田口氏は手応えを話します。
人口減の日本で衛星データを活かす 宇宙ビジネスをもっと社会にひらくために
衛星データビジネス領域の黒子を目指しつつ、国内外でさまざまな事業探索も並行して進めているスペースシフト。
田口氏は、現在進行している数々の実証をもとに、ビジネスとしての実装拡大を目指していきたいと見通しを語ります。
そうしたビジョンをふまえ、日本で衛星データビジネスを根づかせ、発展させるにはどうしたらよいでしょうか。
この問いに対し、田口氏は「今後、日本がどうなっていくのかという視点が必要」だと指摘します。 「人手不足が加速する日本では、『今できていることができなくなる』未来が来ることは、ほぼ確実です。今、人が担っていることができなくなったとき、何が必要なのかと考えると、新しい技術が必要だということになりますし、その新しい技術の一つが衛星データの活用でもあると思います。たとえば、今の日本では企業が地道にデータを人力で収集したり整備したりしていますが、人口が減り、今現場にいるベテランの方もいずれは退職してしまいます。そのときにどうするか。衛星データはこうした課題を解決し得る、重要な技術の一つだと考えています。こういう発想を、私たちももっと伝えていきたいと思っています」(田口氏)

衛星データという新たな技術を社会に普及させていくためには、宇宙ビジネスに取り組み、ソリューションを開発する人を増やす必要もあります。自身も金融機関から宇宙ビジネスの世界に転じた立場として、田口氏は「他分野からの人材をどんどん入れていくことも必要」と話します。
「先ほど、いろいろな業界にアプローチしているとお話ししましたが、さまざまな業界が当たり前に宇宙の活用を考える時代になりつつあると思っています。各業界の課題を宇宙ビジネスとしてどう解決していくかが重要なポイントになりますから、業界の発展のためには他分野からの人材流入を増やすことが必要だと考えています。私自身も、最近は宇宙とは別の領域・テーマのイベントなどにも積極的に参加するようにしています」(田口氏)
衛星データビジネスの黒子を目指しつつも、国内外・多領域で事業開発を進めるスペースシフト。数年後の同社のビジネスの姿がどのようになっているのか、そして衛星データ活用がどこまで社会実装されていくのか、引き続き動向に注目しましょう。
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