2022年9月4日未明(日本時間)、アメリカのケネディ宇宙センターから「オリオン(オライオン)宇宙船」を搭載した「SLS(Space Launch System)」ロケットが打上げられる予定です。
※当初は、2022年8月29日21時33分(日本時間)に打上げが予定されていましたが、エンジンに問題が発見され、延期に至りました。
人類を約50年ぶりに月に着陸させることを目的としたアルテミス計画、その最初の一歩である無人飛行試験「アルテミス1」ミッションがいよいよ始動します。
この記事では、将来の有人宇宙飛行の要となる「オリオン宇宙船」についてわかりやすく解説していきます。
目次
スペースシャトル以来のアメリカ有人宇宙船、オリオン
(オリオン宇宙船イメージ画像(Credit: NASA))
オリオン宇宙船は、NASAが開発している4人乗りの宇宙船です。
今回の打上げでは無人ですが、宇宙飛行士が乗ると以下の画像のようになります。
(オリオン宇宙船のコックピット(Credit: NASA))
オリオン宇宙船は主にコックピットと貨物室、緊急脱出システムで構成された、非常にシンプルな構成です。
(赤い「NASA」ロゴがついているのが貨物室、その右がコックピット、その右が緊急脱出システム(Credit: NASA))
オリオン座にちなんで名付けられたこの宇宙船は、スペースシャトルに代わる有人輸送手段として開発が進められており、2014に無人での宇宙飛行試験をクリアしています。
オリオン宇宙船に関するより詳しい解説
Orion(オライオン宇宙船)―人類を約50年ぶりに月へー
(リンク:Orion(オライオン宇宙船)―人類を約50年ぶりに月へー – SPACE Media)
「スヌーピー」や「ひつじのショーン」などが搭乗
アルテミス1のミッションは「無人」ではありますが、実はアメリカの人気漫画「ピーナッツ」でお馴染みのスヌーピーや、イギリスの人気クレイアニメ「Shaun The Sheep(ひつじのショーン)」の主人公ショーンなどが「乗組員」としてアサイン(任命)されています。
(Credit: Peanuts)
スヌーピーやショーンの他にも、3体のマネキンが宇宙船内部のデータを取るためのダミー人形としてオリオン宇宙船に搭乗します。
(Credit: ESA/Aardman)
ESAのブログサイトでは、なんとショーンが実際の宇宙飛行士と同様に訓練を重ねて打上げに備えている様子が公開されています。
(外部リンク:Shaun the Sheep – Orion blog (esa.int) )
関連記事:
“スヌーピー”が宇宙へ飛び立つ!新型宇宙船「オリオン」で月面探査へ
(リンク:“スヌーピー”が宇宙へ飛び立つ!新型宇宙船「オリオン」で月面探査へ – SPACE Media)
オリオン宇宙船は宇宙空間を40日程度旅する予定
1. 打上げ
オリオン宇宙船を搭載したSLSロケットは、フロリダ州にあるケネディ宇宙センター39B発射台から打上げられます。この発射台は、アポロ計画やスペースシャトルの打上げでも使用された歴史があります。
(SLSロケットの打上げイメージ(Credit: NASA))
打上げられたロケットは分刻みのスケジュールで燃焼・分離を繰り返し、打上げからおよそ2時間後にSLSロケットのすべてのモジュールからオリオン宇宙船が分離します。
(ロケットの打上げから分離を表した図(Credit: NASA))
SLSロケットに関するより詳しい解説
SLS(Space Launch System) ―月へ飛び立つ超巨大ロケット
(リンク:SLS(Space Launch System) -月へ飛び立つ超巨大ロケット – SPACE Media)
2. 月への飛行
打上げ2〜5日後は、宇宙船の月への飛行が続けられ、地上では宇宙船のシステムが正常に作動しているかチェックします。
そして、6〜9日目に月周回軌道へ近づいていき、10日目に安定した月の周回を開始します。12日間の周回を経て、打上げから24日目に月周回軌道を離脱する予定です。
(月を周回するオリオン宇宙船イメージ(Credit: NASA))
月周回に用いる軌道は「DRO(Distant Retrograde Orbit)軌道」と呼ばれ、具体的には
- D=Distant:月面から高い高度
- R=Retrogate: 月の公転方向と反対に移動すること
をそれぞれ意味しているようです。
DRO軌道を日本語に訳すならば、「高高度逆行軌道」とするのが一番理解しやすいかもしれません。この軌道は、宇宙船の燃料をほぼ必要としないメリットがあり、加えて安定性もあるということです。
NASAは打上げから帰還までの軌道を表した図(下図)を公開しています。
緑色の線は地球から月への軌道、灰色の線は月周回中の軌道、青色の線は月から地球への軌道を表現しています。
(アルテミス1の打ち上げから帰還までを表した図(Credit: NASA))
3. 地球への帰還
打上げ後35〜42日後、オリオン宇宙船はフライバイと呼ばれる天体の重力を用いて一気に加速する手法を行い、地球へ近づきます。
帰還の際、オリオン宇宙船は地球の大気圏になんと40,000km/hという速さで突入します。そして高度7.6kmで2つの減速用パラシュートを展開し、続けて3つのパイロットパラシュートを展開し、32km/hまで減速させます。これはだいたい原動機付自転車(通称:原付き)と同じくらいの速度です。
パラシュートを広げて地球に帰還するオリオン宇宙船(Credit: NASA)
大気圏への再突入の際、空気との摩擦によって宇宙船の表面温度は2,800℃にもなります。今後実施される予定の有人ミッションではこの超高温から宇宙飛行士たちを守りつつ、パラシュートを確実に展開して安全に宇宙船の速度を落とさなければなりません。宇宙船が帰還する一連の流れは、宇宙飛行士の命に関わる非常に重要な性能試験です。
オリオン宇宙船を使って、将来は火星へ
(Credit: NASA)
アルテミス計画では、2030年代までに火星や小惑星といった遠い天体に人類を送り込むことも目標としています。オリオン宇宙船はこれらの計画も見越して、6ヶ月程度の長期間の深宇宙ミッションに対応できるようデザインされています。
深宇宙とは、電波法施行規則第32条では「地球からの距離が200万km以上である宇宙」と規定されています。地球から月までの距離は38万kmなので、この計画で地球から非常に遠い宇宙空間を目指していることがわかります。
さらに生命維持や推進装置、耐熱、アビオニクス(機内に搭載される電子機器類)といったシステムもアップグレードされているようです。
おわりに
アルテミス1ミッションはオリオン宇宙船やSLSロケットを使った初めてのミッションとなります。アルテミス1の次は、いよいよ有人飛行試験「アルテミス2」段階へと移行します。今後の展開にも注目していきましょう。
アルテミス計画関連記事リンク
人類がもう一度月面着陸するための無人飛行ミッション「アルテミス1」がいよいよはじまる!-SPACE Media
アルテミス計画・人が月に降り立つまでの7つのステップ 〜前編:月を調べ、技術を確かめる〜 – SPACE Media
アルテミス計画・人が月に降り立つまでの7つのステップ 〜後編:人を月にどう送るか?〜 – SPACE Media