2024年10月23日(水)、東京都千代田区の0 Club(ゼロクラブ)とオンラインにて、衛星地球観測コンソーシアム(CONSEO、参考記事)主催のトークイベント「気候変動の最新科学研究『世界がおかしい。地球は大丈夫なのか?』」が開催された。
CONSEOは2022年9月に産学官のコミュニティとして設立された、衛星地球観測に関する政策提言や競争活動を行う団体で、気候変動をはじめとする複雑化した地球環境問題について多様な観点から学ぶ気候変動シリーズイベントを開催している。
本記事では、イベントの後半に行われたパネルディスカッションの内容をダイジェストでお伝えする。
目次
気候学と気象学、第一線の研究者が最新知見をもとにディスカッション
この日のトークイベントは、気候変動シリーズイベントの4回目。東京大学 大気海洋研究所教授の渡部雅浩氏による「気候の予測とは。どのように予測しているのか。IPCCの最新研究について」、JAXA 地球観測研究センター研究領域主幹の久保田拓志氏による「気候予測に衛星は使われているのか?」、気象庁 数値予報モデル基盤技術開発室長の計盛正博氏による「気象予報における衛星の役割」と東京大学 先端科学技術研究センター教授の中村尚氏による「今起きている異常気象」、そして、東京大学 未来ビジョン研究センター教授の江守正多氏による「気候変動に人類がどう向き合うのか」という演題でプレゼンテーションが行われた後、登壇者等によるパネルディスカッションが行われた。
パネルディスカッションでは、「地球は、このままだとどうなるのか」「温暖化が進んでいると人々も日々の生活で感じている。私たち、人類が取るべきアクションとは何か」「アクションに対する科学の役割は何か」「科学における衛星の役割は何か」というテーマが話し合われた。
テーマ1 地球は、このままだとどうなるのか
1つ目のテーマについて、気象庁の計盛氏は「衛星から見ると海面水温の上昇は明らか。今後、今まで上昇していない北方まで高い状態になるかもしれないと個人的に感じる。実際に温度の上昇は我々の生活にも影響が出てきている」と実感を語った。
また、東京大学 先端科学技術研究センターの中村氏は「2010年以降、猛暑の状態が固定化している。去年、今年はさらに突出して気温が高くなっており、新たなフェーズに入ってきている」と近年の夏の暑さについて言及した。中村氏は、日本が経験した最後の冷夏は2003年で、それ以降冷夏と呼べる状態は起きていないとも指摘。また、「能登半島沖の水温が28度で、平年より4度高い」として、海水温の異常が震災後に起きた豪雨の一因となった可能性を指摘し、今後はこうした複合災害にも注意しなければならないとした。
続いて、東京大学 大気海洋研究所の渡部氏は、気温は今後、「2000年より前の状態に戻る可能性は低い」とし、その理由として「気候システム全体が余分に受け取るエネルギーがこの10年プラスの状態」であることを挙げた。
テーマ2 温暖化が進んでいると人々も日々の生活で感じている。私たち、人類が取るべきアクションとは何か
2つ目のテーマ、「取るべきアクション」について、東京大学 未来ビジョン研究センターの江守氏は「化石燃料に依存した文明から、依存しない新たなエネルギー文明に移行していく、これが世界規模で起きなくてはいけない」と強調し、太陽光発電や風力発電の導入を、社会的合意を形成しながら、政策などによっても後押しすべきだとした。また、市民向けの講演などをしている自身の経験として、「気候変動に関心がある人は8〜9割いるが、温暖化は止められると思う人はほとんどいない」という状況を紹介した。
テーマ3 アクションに対する科学の役割は何か
3つ目のテーマ「科学の役割」に関して、井田氏は予報士として危機感を伝えているものの、まだ十分行動に結びついていないと課題を提起。
これに対し渡部氏は、江守氏がプレゼンテーションのパートで示した、気候変動対策とSDGsの各ゴールとの関連の図では、対策を行うことが他のゴールにも寄与するシナジーが生まれるとされている点が非常に興味深いとしたそのうえで、「日本では気候変動対策や脱炭素が政治的なメインイシューになっていない」と指摘。気候変動対策や脱炭素に取り組むことが生活や経済上のメリットにもなることを打ち出していくことが必要なのではないかとした。
井田氏はこれを受け、科学研究による確かな情報を伝えていくためにメディアの力を活かすべきと答えた。
テーマ4 科学における衛星の役割は何か
最後のテーマである「衛星の役割」について、JAXAの久保田氏は、「先進性」と「継続性」がキーワードだとし、先進的なレーダー等を搭載した衛星が長年観測データを積み上げてきたことで、気候変動の状況が見えるようになってきたと語り、先進的と継続性をかけ合わせていくことは科学の発展に寄与することだと述べた。
また、気象庁の計盛氏は「ひまわりの新しいセンサーで赤外線による大気の鉛直分布を測定できるようになれば、予測精度が向上する」と今後への期待を示した。
産学官のパートナーシップで気候変動に立ち向かう
パネルディスカッションを終え、閉会の挨拶を行ったJAXA 地球観測研究センター長の沖理子氏は、気候変動は日常の生活の中で現実のものになりつつあるとし、人類最大の課題である気候変動に対応していくためには、日本が強みをもつ観測技術を生かし、世界の一員として役割を果たすとともに、産業セクターとも連携して取り組みを進めていくことが重要だと語った。
CONSEOの気候変動シリーズイベントは今後も開催される予定。
気候変動に関する最新情報や産学官のパートナーシップに関心のある方は今後の開催予定もチェックするとよさそうだ。