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日本・海外のロケット事業者が生存戦略を語る 激しい競争を生き抜くサービスとは【SPACETIDEレポート③】

2024年7月8日から7月10日にかけ、東京・虎ノ門ヒルズフォーラムにおいてアジア太平洋地域最大級の国際宇宙ビジネスカンファレンス「SPACETIDE2024」が開催され、「ロケット市場の多様な輸送需要を捉えそれぞれの勝ち筋を見極められるか?」と題したセッションが行われた。登壇者は以下の5名。

パネリスト

  • Brian Rogers氏(Rocekt Lab Vice President, Global Launch Services)
  • 五十嵐 巖氏(三菱重工業株式会社 防衛・宇宙セグメント 宇宙事業部 事業部長)
  • 八木 一博氏(株式会社IHIエアロスペース 宇宙輸送事業推進部 部長)
  • Kier Fortier氏(Exolaunch VP Global Business Development and US Managing Director)

モデレーター

高田 真一氏(宇宙航空研究開発機構(JAXA) 宇宙戦略基金事業部 技術開発マネジメントグループ グループ長)

競争が激しいロケット市場で事業を行っている登壇者たちは、勝ち筋について何を語ったのか。この記事では、日本・海外の宇宙輸送事業者各社の提供サービスなどの特徴と、生存戦略を紹介する。

Rocket Lab社

特徴

Rocket Lab社は、小型衛星打上げ用の液体ロケット「エレクトロン」の打上げで知られるアメリカ・ニュージーランドの企業だ(参考記事)。2006年に創業し、2017年にエレクトロンの初打上げを行って以来、52回の打上げを行ってきた(2024年9月17日現在)。

同社のRogers氏は、「ロケットを1機打ち上げるだけでも大変であり、50機ものスケールに成長させるのは非常に難しいこと。最小限の設備、そして限られた予算で打上げを行っている」と述べ、民間企業が一からロケット市場に参入していくことの難しさと、それを達成した自社の事業遂行力の高さを強調した。

また、同氏は「Rocket Labはロケットによる衛星打上げ企業として知られているが、宇宙システム事業が収益の70%を占めている」とし、人工衛星の機体や制御機器、ソフトウェアなど多様な領域をパッケージ化したサービスも提供していると述べた。

そして、同社が開発している新型ロケット「ニュートロン」にも触れ、「2025年の今頃には市場に出ている(打上げサービスを開始している)だろう」と述べた。

ニュートロンは全長43m、地球低軌道に8tの衛星を打上げ可能な中型液体ロケットで、新開発の「アルキメデス」エンジンが用いられる。機体のほぼ全てが炭素繊維複合材で構成されており、一般的な金属製のロケットに比べて40%軽量化が図られているほか、衛星を保護するフェアリングと第1段機体を再使用可能という特徴を持っている。

Rocket Lab社が開発しているニュートロンロケット 

生存戦略

Rogers氏は、エレクトロンとニュートロンという、小型衛星と中型衛星をカバーできる2種類のロケットを使って高頻度な打上げサービスを使用することにより、日本をはじめとする顧客の様々なニーズに対応できると考えていると述べた。

小型・中型衛星をターゲットに、高頻度な打上げを行うという明確な戦略に基づいて事業を行っていくことが、同社の生存戦略といえよう。

Exolaunch社

特徴

Exolaunch社は、主に小型衛星の打上げサービスや、衛星をさまざまなロケットで打ち上げられるよう適合させる「統合サービス」を提供している、ドイツに本社を置く企業。2010年の創業以来、同社のサービスによって438個の衛星が軌道に投入されてきた。

同社のFortier氏は、「打上げサービス提供や衛星統合サービスにおいて、グローバルリーダーであると自負している」と述べ、自信をのぞかせた。

同社の特色は、さまざまなロケットを活用した打上げサービスの提供と同時に、それらのロケットに顧客の衛星を搭載できるよう、ロケットと衛星の結合面となる分離機構の開発・提供も行っていることだ。

すでに数百kgから数kgの衛星に対応できる多種多様な分離機構が用意されているほか、同氏は、「新しい分離機構を2024年後半から発売する予定だ」と述べ、顧客の需要に対応した新しい商品がこれからも登場していくことを示した。

展示会場ではExolaunch社が提供する分離機構のデモが行われた 
Exolaunch社の多様な分離機構 

生存戦略

Fortier氏は、打上げ提携をしているSpaceX社と近年良好な関係を築いて顧客満足度の高いミッションを成功させてきた実績を踏まえつつ、グローバルな顧客の声をしっかりと聞き、それぞれの希望に柔軟に答えていくことが生存戦略であるとした。

また、これを達成するため、「グローバルに打上げ提携企業の拡大をしていきたい」とも述べた。

三菱重工業株式会社

特徴

三菱重工業株式会社は、黎明期から日本のロケット開発に携わり、液体燃料を使用した基幹ロケット「H-IIA」と「H3」の開発・運用、これらを利用した打上げサービスを行っている。

また、国際宇宙ステーション(ISS)の日本実験棟「きぼう」や新型宇宙ステーション補給機「HTV-X」、月極域探査機「LUPEX」の開発など、有人宇宙開発や探査に関する事業も展開中だ。

近年運用してきたH-IIAと「H-IIB」の成功率は98.2%と非常に高く、安定した実績を積み上げてきた(参考記事)。新型のH3初号機の打上げには失敗したものの、五十嵐氏はこの点について、「様々な取組みを通じて再挑戦し、2回目、そして3回目の打上げに成功した」と補足し、同社のロケットの信頼性が依然高いことを強調した。

また、同氏は発展型のH3開発にも触れ、2027年からは、さらに高頻度かつ大容量のH3を打上げ、2030年代からは再使用も可能な次世代型のロケットを開発したいと述べた。

発展型H3については、2024年7月に開催された文部科学省の宇宙開発利用部会でも言及されており、H3ロケットに多数の衛星を同時搭載する「ライドシェア」を行うため、打上げ能力の余裕と柔軟性のある衛星搭載機能を確保する必要があるとされている。

H3ロケットの発展を示した将来計画図 

生存戦略

五十嵐氏は、「H-IIAロケットの成功を継承していくことが生存戦略である」と述べ、成功を信じてくれる顧客のために、成功を積み重ねていかなければならないと強調した。

また、成功を支えてきたのは固有技術と人材であるとし、時間通りにサービスを提供すること、スタッフそれぞれの知識・経験・技術を生かせることが、同社の強みであると述べた。

そして、宇宙以外の幅広い分野にも精通するコングロマリットとして、所持する技術の中から、顧客に合ったソリューションを提供し、様々な需要に応えることもできるとした。

株式会社IHIエアロスペース

特徴

株式会社IHIエアロスペースも、黎明期から日本のロケット開発に携わり、固体燃料を使用した基幹ロケット「イプシロン」の開発・運用、これらを利用した打上げサービスを行ってきた。

また、ISSや宇宙ステーション補給機「こうのとり(HTV)」などの軌道上インフラ開発や、宇宙を活用したソリューション提供事業も展開している。

現在小型衛星の需要が急増しているが、一般的に小型衛星の打上げは、メインで打ち上げる衛星に同乗させてもらう形で打ち上げることが多く、小型衛星側の日時・軌道要望に合わせて打上げを実施することは難しい。

同社の八木氏はこの問題について、「イプシロンロケットを使用すれば、複数個の小型衛星をメインで打ち上げることができる」と述べ、小型衛星打上げに対して、イプシロンが柔軟な対応性を持つことを示した。

また同社は、日本のスペースワン株式会社が開発・運用を行う「カイロス」ロケットにも協力しており、同氏は「100kg~200kgの小型衛星を打ち上げたい顧客に対しては、イプシロンロケットとは別のソリューションとして、カイロスロケットも提供できる」と述べ、小型衛星の需要に対して、幅広いサービスで対応していることも強調した。

同氏は将来計画にも触れ、再使用ロケットや月への有人飛行・物資輸送、その先の火星を見据えた宇宙輸送を考えているとした。

IHIエアロスペース社の将来計画図。月や火星の姿も見える 

生存戦略

八木氏は、まず「信頼性とコストが非常に重要だ」と述べた。また、市場には大型か小型のロケットが多い中、同社のイプシロンが中型のニッチサイズのロケットであり、4~5機の小型衛星を複数同時に打ち上げられることから、「衛星コンステレーション(参考記事)を合理的な価格で、短期間に構築できることが同社の生存戦略である」とした。

モデレーターの高田氏からSpaceX社との差別化について問われると、八木氏は「SpaceXの狙う市場は小型衛星ではなく、我々の市場とは違う」と述べ、ロケット市場で一強と言われることも多いSpaceX社との差別化が図れているとした。

この記事では、日本・海外の宇宙輸送事業者各社の特徴と生存戦略を紹介してきた。各社にさまざまな特徴と生存戦略が存在するが、共通しているのは、他社とも需要を見極めたうえで、ターゲット層やサービス提供方法で差別化を図っていること、そして現状に甘んじることなく、先を見据えた計画を策定し、将来に向け動き続けていることだ。

今後、各社が発表する計画を見る際には、どの層をターゲットにしたものかに注目すると、各社が注目する市場の最新需要が見えて面白いかもしれない。

著者プロフィール

加治佐 匠真(かじさ・たくま)
鹿児島県出身。早稲田大学卒業。幼い頃からロケットが身近な環境で育ち、中学生から宇宙広報を志す。2019年より宇宙広報団体TELSTARでライター活動を始め、2021年からはSPACE Mediaでもライターとして活動。2024年7月よりSPACE Media編集部所属。主にロケットに関する取材を全国各地で行う。主な取材実績にH3ロケット試験機1号機CFT(2022)、イプシロンSロケット燃焼試験(2023、記事)、カイロスロケット初号機(2024、記事)など。

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