2024年10月26日(土)に、JAXA筑波宇宙センターで特別公開が開催された。この記事では、特別公開で実施された新宇宙飛行士2名による講演と、センター内各エリアにおけるイベント・展示の様子をご紹介する。
目次
筑波宇宙センターとは – 日本の宇宙開発における中枢施設
筑波宇宙センターは茨城県の筑波研究学園都市の一画に位置し、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の前身のひとつであるNASDA(宇宙開発事業団)の施設として1972年に設置された。
同センターでは地球観測衛星などの開発・運用や国際宇宙ステーション(ISS)「きぼう」日本実験棟を用いた宇宙環境利用、宇宙飛行士養成、ロケットをはじめとする宇宙輸送システムの開発、基礎技術の研究開発などを行っており、日本の宇宙開発における中枢として50年以上活躍している。
JAXA新宇宙飛行士講演 – 渡米前に子どもたちへメッセージ
特別公開の目玉企画として、約1年半にわたる基礎訓練を終え、10月21日に宇宙飛行士として正式認定されたばかりの諏訪理(すわ・まこと)さんと米田あゆ(よねだ・あゆ)さんによる一般向け講演が行われた。
講演前半では基礎訓練の様子が紹介され、Space BD社を事業者として、ボーイスカウト連盟と陸上自衛隊の協力のもと実施した一般サバイバル技術訓練の話になると、米田さんから「3時間しか寝ることができず、就寝時間以外はずっと歩いていた」というエピソードなどが語られ、過酷な訓練を乗り越えてきたことがうかがえた。
後半には質疑応答の時間が設けられ、多くの子どもたちから質問が出た。
互いの尊敬できる点について問われると、諏訪さんは「(米田さんは)とても好奇心と行動力がある。宇宙センター内にある柿の木から実を収穫し、どうやったらおいしく食べられるかを考え、冷凍して食べていた」と笑いながら話し、米田さんは「(諏訪さんは)どんなことがあっても動じず、周囲が緊張しているときに面白いことを言って和ませてくれる」と話した。
また、子どものころにやっておいたほうがよいことについて問われると、諏訪さんは「好きなことを見つけて友達と遊び、身体を動かすこと」、米田さんは「目の前のいろいろなことに興味を持ち、観察すること」と語り、エールを送った。
今後2名は渡米してNASAで訓練を受ける予定。将来的には、日本人として初めて月面に降り立つ可能性もある。
特別公開の様子
宇宙飛行士による講演以外にも、構内ではこの日しか体験できないイベント・展示が行われた。ここでは、各エリアの様子をご紹介する。
Eエリア – ロケット博士登場!実機を使った解説ツアー
入口に近いEエリアでは、展示されているH-IIロケットを一周しながら、JAXA職員が「ロケット博士」となって機体について解説するツアーが行われた。
ロケット射場がある種子島では、乾杯の前に飲み始めることを意味する「予冷」文化がある。ロケット博士は機体部品や案内シートを示しつつ、このような現場ならではのエピソードも織り交ぜながら解説しており、参加者は笑顔を浮かべながら話に耳を傾けていた。
なお、Eエリアにある「広報・情報棟」は筑波宇宙センターの開設当初からあり、当時は同センターの全職員がこの内部で働いていたという。工場で事前製造されたパーツをつなぎ合わせた同棟の構造には、独特の趣がある。
Cエリア – 宇宙センターのシンボル内で衛星について学ぶ
Cエリアに位置し、H-IIロケットとともに筑波宇宙センターのシンボル的存在となっているのが、「総合開発推進棟」だ。同棟では、筑波宇宙センターで開発運用している人工衛星を中心とするイベント・展示が行われた。
なかでも、2024年5月に打ち上げられた「Earth CARE」衛星を模したキャラクター(Earth CAREちゃん)とモニター越しに話せるコーナーは行列になるほど盛り上がっており、参加者は思い思いの質問をしていた。
また、2014年の打上げから10周年を迎えた、世界中の雨や雪を観測する「GPM」主衛星に対するメッセージコーナーも設けられ、多くの人から10年間分の感謝やこれからに向けた応援のメッセージが寄せられた。
Sエリア – 大スケールの試験設備に小型衛星も
Sエリアでひときわ目を引く大きな建物が、打上げ前の人工衛星を試験する「総合環境試験棟」だ。
同棟には、打上げ時や宇宙の過酷な環境を再現するための設備が備わっており、宇宙の真空や高温・低温の熱環境を模擬する、直径13mの巨大な「スペースチャンバ」や、打上げ時の振動や音響を模擬する「振動試験設備」と「音響試験設備」を見学することができた。
同じくSエリアにある「衛星試験棟」では、イプシロンロケットによって打ち上げられた小型衛星2機の開発試験モデルを見ることができた。このモデルは衛星の機能を地上で試験するために作られており、実機と同じ質感を手で触れられそうな距離で感じることができた。
また、衛星試験棟の隣にある「臨時展示室」は、2024年6月から2025年春ごろまでリニューアルのため閉室している展示館「スペースドーム」の資料を一部移設して公開されたもので、今年度限りの展示となる。
展示室には、H-IIAロケットの性能向上を狙いとした「高度化」開発の際に使用した第2段機体の試験モデルや、Earth CARE衛星に搭載された雲を観測するレーダー(CPR)の試験モデルなど、スペースドームにはなかった、ここでしか見られない貴重な資料も展示されていた。
Wエリア – 整備中の管制室を見学!実物大の「きぼう」も
Wエリアには国際宇宙ステーション(ISS)関連の施設が配置されており、「宇宙ステーション試験棟」には、「きぼう」日本実験棟を開発する際に使用した、実機とほとんど同じ作りをした試作品モデルが展示されていた。
来場者は直径4.4m、長さ11.2mもの巨大な船内実験室や、ISSで活動する宇宙飛行士を支援する船内ドローンロボット「Int-Ball」各種を眼の前で見学することができた。また、各展示物にはハロウィン仕様の装飾が施されており、展示担当者の遊び心も感じられた。
同じくWエリア内にある「宇宙ステーション運用棟」では、「有人部門運用管制室3種盛り!」と題したツアーが行われた。参加してみると、今まさに運用中の「きぼう」管制室や、間もなく打上げ予定の新型宇宙ステーション補給機「HTV-X」の管制室をガラス越しに見学することができた。
HTV-Xは2020年まで運用されていた宇宙ステーション補給機「こうのとり」の後継機ということもあり、管制室内には2羽のこうのとり(鳥)のぬいぐるみが、仲良く並んで置かれていた。こちらは撮影禁止だったが、来年以降に公開された際には、微笑ましい様子をぜひ皆さんの目で確かめてほしい。
また、2025年以降の打上げを目指して開発中の月極域探査機「LUPEX」の管制室内へ入って見学することもできた。LUPEX管制室は現在整備中であり、まだ管制用の機器は設置されていない。管制室が完成すると基本的に中に入ることはできないため、今回の特別公開限定のとても珍しい機会となった。
管制室内では各国の代表的な管制室から好きな管制室を選ぶアンケートが実施され、参加者はいちばん良いと思う管制室へシールを貼っていた。
いずれの管制室も人気だったが、後ろからガラス越しに多くの人に見られるタイプのSpaceX社の管制室だけは、恥ずかしいためか選択者が少なかった。ちなみに、筆者は黒と白の整然としたコントラストが格好いいESAの管制室に投票したが、LUPEXの管制室はどのようなレイアウトになるのか、完成が楽しみだ。
この記事では、筑波宇宙センターの特別公開において実施された新宇宙飛行士2名による講演と、センター内各エリアにおけるイベント・展示の様子を紹介した。特別公開は1年後に実施されるが、記事内でも紹介した「きぼう」運用管制室や特別展示室は予約を行うことで見学できるため、ぜひ皆さんの目で本物の魅力を感じてほしい。
著者プロフィール
加治佐 匠真(かじさ・たくま)
鹿児島県出身。早稲田大学卒業。幼い頃からロケットが身近な環境で育ち、中学生から宇宙広報を志す。2019年より宇宙広報団体TELSTARでライター活動を始め、2021年からはSPACE Mediaでもライターとして活動。2024年7月よりSPACE Media編集部所属。主にロケットに関する取材を全国各地で行う。主な取材実績にH3ロケット試験機1号機CFT(2022)、イプシロンSロケット燃焼試験(2023、記事)、カイロスロケット初号機(2024、記事)など。