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to C宇宙ビジネス、「体験」で広がる無限の可能性 ― SPACETIDE 2025レポート

7月8日(水)〜10日(金)の3日間、東京・虎ノ門エリアを会場に開催された宇宙ビジネスカンファレンスSPACETIDE 2025。世界的に注目される産業領域である宇宙ビジネスについて、世界各国から多彩なスピーカーが集まり議論を交わしました。

本カンファレンスのメディアパートナーであるSPACE Mediaでは、数あるセッションの中からピックアップした注目セッションをダイジェストでレポート。

※「宇宙経済圏、次の10年の成長」セッションのレポート記事はこちら

今回は、「コンシューマーへの仕掛けが解き放つ宇宙ビジネスの無限の可能性」と題して行われた、トークセッションの模様をお伝えします。本セッションでは、以下の4名が登壇しました。

パネリスト

  • 宇推 くりあ氏(ロケットアイドルVTuber)
  • 関根 知美氏(ソニーグループ株式会社 事業探索部門 事業企画/事業開発)
  • 坂本 香子氏(株式会社スペースデータ 宇宙戦略本部長)
  • 三浦 崇宏氏(The Breakthrough Company GO 代表取締役 CEO

モデレーター

  • 村木 祐介氏(コスモクリナビ 宇宙ナビゲーター)

冒頭、モデレーターの村木氏は、現在のコンシューマー向け(to C)宇宙ビジネスのあり方は2種類あると述べました。1つ目は人工衛星や宇宙ステーションなど、宇宙のアセットを利用したビジネス。2つ目は宇宙ビジネスを一般にプロモーションして好きになってもらうことで、投資を呼び込む、というポテンシャルだとしました。

登壇者たちはどのような思いで、宇宙利用と宇宙プロモーションに取り組み、どのような挫折を経験し、学びを得たのか。このトークセッションから、コンシューマー向け宇宙ビジネスの道筋が見えてきます。

VTuber宇推氏 体験とストーリーで宇宙を身近に

トップバッターの宇推氏は、ロケットに精通したVTuberとして2020年から活動しており、普段は一般向けにロケット打上げの同時視聴配信を行い、記者としてロケット打上げ・実験の現地取材や、雑誌への寄稿も行っています。

宇宙関連の官公庁や民間企業とのコラボも行う宇推氏は、「コラボにより、こういう衛星やロケットがあったのか、という気づきを皆さんと一緒に得ています。一般の皆さんにいろいろ知ってほしい、楽しんでほしいと思って活動しています」と述べ、宇宙は難しいものではなく、今からみんな参加できることを伝えていきたいと語りました。

一方、発信活動をする中で、「宇宙をやっているだけですごい、すごいけど難しいから私には関係ない」という認識をもたれてしまうことがハードルだと語る宇推氏。直接「くりあちゃんってすごいけど、でもわからないよ」と言われ、ショックを受けたこともあるといいます。

宇推氏は、このようなハードルをクリアするためには2つのやり方があると説明します。1つ目は、宇宙に関する体験を通して、自分ごととして、宇宙を自分の中に取り込んでもらうというアプローチです。

宇推氏は自身も参加する「推し宙プロジェクト」という、VTuberのキーホルダーやぬいぐるみを国際宇宙ステーション「きぼう」日本実験棟へ打ち上げるプロジェクトを例に、「自分が応援しているIP(知的財産)と宇宙が絡むことで、自分の世界の中に宇宙が入りやすくなる」と述べました。

2つ目は、ストーリーの力です。『機動戦士ガンダム』や『宇宙兄弟』といったアニメのストーリーに惹かれて宇宙業界を志した人も多く、宇推氏はこのようなストーリーの力を意識しているといいます。

自身も「ここまで5年間いろいろなことをしてきて、ようやく宇宙へ行く」というストーリーの途中にいる宇推氏は、「私たちだけでなく、いろいろな人がこのような活動を行っていけば、もっと宇宙と一般のコンシューマーとの距離が縮まるのでは」と呼びかけました。

ソニー関根氏 実証で感じた「宇宙体験」の大きな価値

ソニーが実施したプロジェクト「STAR SPHERE」に、事業開発の立場からかかわったという関根氏。同プロジェクトは、to C向けに人工衛星のカメラによる地球や宇宙の撮影サービスを提供。人工衛星を通じて一人ひとりが宇宙とつながり、宇宙を通して何かに気づき、考えてみる「宇宙の視点」を大切にしていたといいます。

関根氏は、プロジェクトの中心である人工衛星を、「皆さんのEYE(眼)になるという意味を込めて、EYEちゃんと呼んでいます」と説明しました。

衛星運用を行う管制室は、JAXAなどの施設を借用するのではなく、ソニー本社内に設置。搭載カメラはもちろんソニー製です。また、「EYE コネクト」というアプリケーションを開発し、専門家でなくても、誰でもEYEに撮影指示を送り、画像データをダウンロードできるインターフェースとしたそうです。

当初は有料サービスの提供を予定していましたが、2023年1月の打上げから2か月後、姿勢制御装置の一部が故障。目標の方向にカメラを向けることが難しくなってしまいます。このときの状況について、関根氏はこう語ります。

「打上げまではとてもよかったのですが、故障したと聞いて、コンシューマービジネスをやってきた人間としては、ビジネスの終わりだと思いました。そもそも衛星1機でビジネスをしようと思っていた我々にも突っ込みどころが満載ですが、宇宙を初めてやろうと思っている人たちは、そんなものです」(関根)

非宇宙から宇宙事業へ参入する難しさを語った関根氏ですが、カメラは正常な状態であったこと、そして同社のエンジニアの努力もあり、2024年1月から無料の宇宙撮影体験を一般コンシューマー向けにオープンすることができたといいます。

EYEで撮影した地球の様子
撮影: 加治佐 匠真

2025年2月にEYEの運用は終了しましたが、撮影体験を提供するなかで、想定内と想定外、両方の出来事が起きたといいます。まず想定内だったのは、宇宙からの視点による気づきです。

「雲に覆われて狙った場所がうまく撮れなかった方がいて、提供する側としては、お客様はどう思うのかと不安になっていましたが、『地球って生きてるんですね』と言ってくださいました。普通に生活していて、地球が生きているなんて思うことはほぼないですよね。宇宙からの視点を通して、何かに気づいてもらうことができたというところは仮説通りでした」(関根氏)

一方で想定外について、関根氏は「撮影結果である写真が、いかに美しいかに価値があると思っていましたが、実証してみると、一連の宇宙撮影体験自体が皆さんに響いており、価値を感じてもらうことができた」とし、宇宙体験が与える価値の大きさが想像以上であったことを語りました。

スペースデータ坂本氏 他業界を宇宙化し、ビジネスへつなげる

坂本氏は、新卒でJAXAへ入社。国際宇宙ステーション(ISS)のビジネス利用を担当していた際、年間約100社もの企業から相談を寄せられ、宇宙のもつ訴求力の強さを感じた一方、宇宙未経験の企業が宇宙事業へ参入することの難しさを、身にしみて感じたといいます。

そんな中、2024年に宇宙戦略基金が創設されたタイミングで、「優秀なto Cビジネスができる起業家の方を捕まえて、宇宙ビジネスをやるしかない」と思ったという坂本氏は、スペースデータへ参画。

同社は「デジタルツイン」という技術を使い、ISSをデジタル空間上に再現する取り組みをしており、このツールは「ISS Simulator」として無償公開され、気軽に体験することができるとし、こう説明しました。

「JAXA時代にこれがあったら、ISSってこんなところですよと(説明しやすかったのに)。ゲームやロボットシミュレーションまで、いろいろな用途に使っていただけます。半年間で世界約6万人の方にダウンロードしていただき、宇宙飛行士の野口聡一さんにもプレイしていただきました」(坂本氏)

これに対し、宇推氏からも「プレイしているVTuberの方も多い」と応答があり、同社が手がけるISSシミュレーターの訴求力の高さが浮かび上がりました。

また、「スペースデータは、しっかり宇宙をビジネスにしていこうという意思の強い会社です」と説明する坂本氏。IT技術を使って宇宙を身近に感じてもらう取り組みのほか、あらゆる業界と宇宙を結び付けて「宇宙化」し、新たなビジネスを創っていく事業も行っているといいます。

人気アーティストAdo氏や、大阪万博で司会を務めたimma氏をはじめとするバーチャルヒューマンとのコラボレーションを例に挙げ、IP×宇宙によるコンシューマービジネスの可能性を示しました。

GO三浦氏 宇宙の「驚き」を活かしたマーケティングを

クリエイティブディレクターとして、マーケティングとブランディングを専門としている三浦氏。他の登壇者と違い、宇宙については「部外者」としつつも、宇宙のことはとても好きで、勉強もしているといいます。また、坂本氏が所属するスペースデータへの出資も行っており、宇宙業界を応援する立場でもあります。

村木氏から宇宙のポテンシャルについて問われると、三浦氏は宇宙が喚起する驚きについて触れ、こう語りました。

人間の感情には、喜怒哀楽の前に驚きがあります。宇宙がかかわるだけで、割と簡単に世界初だとか日本初になったりする。世界初の映像や取り組みは、それだけで人間の驚きになるので、そこにマーケティングがかかわってくる(チャンスがある)と思います」(三浦氏)

また、多くの人が好きな花火に比べ、ロケット打上げはその千倍くらい迫力があるとし、「ロケット打上げなどをもっと観光コンテンツにしてもいいのでは。『宇推くりあと行く宇宙ロケット発射応援ツアー』とか組む」のもいいと述べ、宇宙関連はエンタメ体験として、大きな価値を持っていることを強調しました。

加えて、「企業マーケティングに入っている人に、感情を動かすための素材として、宇宙関連のものを伝えていく」ことはとてもポテンシャルがあるとし、広告マーケティングに宇宙利用の視点を取り入れることの重要性を語りました。

to C宇宙ビジネス発展へ向けて 宇宙を広める、かかわる、利用する

セッション終盤、パネリストはそれぞれto C宇宙ビジネスの発展に向けた一言を述べました。

まず宇推氏は、三浦氏が述べた「驚き」という言葉に触れ、いつも周囲を驚かせたいと思っていると述べたうえで、「私たちもいろいろな人にアプローチをかけるので、みんなで一緒に楽しい宇宙開発、格好いい宇宙開発、面白い宇宙開発をやっていけたら」とし、今後もさまざまなコラボをはじめとする活動を行っていくと語りました。

そして関根氏は、EYEによる撮影体験を提供した小学生を例に挙げ、「今まで宇宙に触れてこなかった子たちに、(宇宙を)やっぱり届けたい」と述べ、ソニーの技術を活用して、宇宙体験の輪を広げていくという展望を語りました。

坂本氏は、さまざまな業界の人々が、宇宙にかかわる企画を持ち込んでくれる現状がありながらも、コンシューマービジネスに関しては事業化まで進んでいない課題があるとし、「ぜひ何か宇宙とコラボしたいと思ったら、私たちにお話を持ってきていただき、一緒に事業を作っていけたら」と来場者に呼びかけました。

最後に三浦氏は、今後SPACETIDEのような宇宙カンファレンスに、マーケティングやエンタメ業界の人を巻き込んでいきたいとしたうえで、同氏がマーケティングを担当しているベーゴマ玩具「ベイブレード」を例に、「ベイブレードのCMを宇宙で撮ったり、ベイブレードの対戦を宇宙でやりたい」と述べ、宇宙を訴求するだけでなく、宇宙を利用する側として参加する可能性を示唆しました。

モデレーターの村木氏は、締めくくりの一言として、「宇宙×コンシューマービジネスは始まったばかり」と述べ、来年、再来年も同様のテーマでセッションを開催し、ステップアップしていきたいと期待をにじませました。

セッションで語られたのは、「体験」や「驚き」の大切さでした。来年までにどのようなコンシューマー向け宇宙ビジネスの取り組みが行われ、どのような学びが得られるのか、事業化に至る事例が現れるのか、注目です。

筆者プロフィール

加治佐 匠真(かじさ・たくま)
鹿児島県出身。早稲田大学卒業。幼い頃からロケットが身近な環境で育ち、中学生から宇宙広報を志す。2019年より宇宙広報団体TELSTARでライター活動を始め、2021年からはSPACE Mediaでもライターとして活動。主にロケットに関する取材を全国各地で行う。主な取材実績にH3ロケット試験機1号機CFT(2022)、イプシロンSロケット燃焼試験(2023、記事)、カイロスロケット初号機(2024、記事)など。

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