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世界最大級の総合デジタルテクノロジー展「CES2025」で、宇宙技術・産業はどう取り上げられたか? #1 日本企業の取り組み

世界最大級の総合デジタルテクノロジー展「CES(Consumer Electronics Show)2025」が、米ラスベガスにて2025年1月7日から10日にかけて開催されました。従来は”家電見本市”と表現されたCESですが、近年は”家電”の販売・訴求モデルやタイミングが異なったことで(参考)、各社が開発する最新テクノロジーやその活用事例の発表の場という意味合いが強くなりつつあります。

最新テクノロジーと宇宙産業は親和性もあるため、SPACE Mediaでは、CESの企業展示や基調講演の中から”宇宙技術・産業”に関連するものをピックアップし、3回にわたって紹介します。

第1回では日本企業の取り組みを、第2回では海外企業の取り組みを、第3回では月周回ミッション「アルテミス2」に関する基調講演を紹介します。

大手企業と宇宙産業との関わり

トヨタ自動車による実証都市「Woven city(ウーブン・シティ)」の実証実験の開始に関する発表を行ったトヨタ自動車、ソニー・ホンダ共同開発のEV「AFEELA 1」のモデル公開行ったソニーをはじめとして、日本からも多くの企業がCESに出展、参加しました。

その中でも宇宙産業との関わりという点では、コマツの月面建設機械の実現に向けた取り組みの紹介や、トヨタ自動車の「Woven city」に関するプレゼンテーションの中でロケットに関する言及がありました。また、大手企業の共通点として、宇宙という挑戦的な領域に対して、既存のアセットやノウハウをいかに宇宙産業に活用するかという点に重点を置いている印象を受けました。

トヨタグループ:宇宙ベンチャーと提携、トヨタ生産方式を取り入れたロケット量産を目指す

トヨタ自動車の豊田章男会長は、基調講演にて実証都市「Toyota Woven City(トヨタ・ウーブン・シティ)」に関するプレゼンテーションを行い、そのフェーズ1の竣工の発表と、この取り組みへの参加を呼びかけました。

そんなプレゼンテーションの後半で、豊田氏は以下のように述べ、簡単ではありますがロケットへの関心について言及しました。

『一緒に取り組めば、スカイ・イズ・ザ・リミット 不可能なことはありません
スカイ、空といえば、私たちはロケットにも着目しています
モビリティの未来は地球や自動車会社1社に制限されるべきではありません』 

※スカイ・イズ・ザ・リミット(The sky is the limit)=可能性は無限大という意味の慣用句
トヨタ自動車会長の豊田章男氏によるプレゼンテーションの様子
Credit: トヨタ自動車

時をほぼ同じくして日本では、ロケットの開発を行うインターステラテクノロジズ社が、トヨタグループのウーブン・バイ・トヨタ社との資本業務提携に合意し、約70億円の出資を受けることを発表しました(参考記事)。


インターステラテクノロジズ社とは

ホリエモンこと実業家の堀江貴文氏が取締役・ファウンダーを務めるインターステラテクノロジズは、日本初のロケット事業と人工衛星事業の垂直統合を目指しており、2023年9月に同社のロケット事業である小型人工衛星打上げロケット「ZERO」開発が文部科学省の「中小企業イノベーション創出推進事業(SBIRフェーズ3)」に採択されています。同社は2013年に事業を開始。観測ロケット「MOMO」はこれまでに計3回、国内民間企業単独として初めて、かつ唯一、宇宙空間到達を達成しており、現在は小型人工衛星打上げロケット「ZERO」の開発を進めています。


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トヨタグループとインターステラテクノロジズ社は2020年から人材交流を始めており、累計11名が出向しています。今回の提携を経て、ロケットの量産化を視野に入れた原価低減やリードタイム短縮、量産体制の構築やサプライチェーンの強化、コーポレートガバナンスの強化を行うとしています。

この背景には、昨年から始まった宇宙戦略基金の基本方針として、2030年代前半までに基幹ロケットと民間ロケットでの打上げ能力を年間30件程度確保し、国内外の多様な打上げ需要に応えることを目標に掲げていることがあります。従来の1点モノとしてのロケットの生産ではなく、今後の”量産”に耐えうるさまざまな構造改革が必要となるため、「トヨタ生産方式」など自動車業界の知見やノウハウを取り入れることで、ロケットを低コストで高品質かつ量産可能なモノづくりへの転換を目指すとしています。


トヨタ生産方式とは

トヨタ生産方式の基本思想は、2本の柱で成り立っています。一つは、「異常がわかる、異常で止まる、異常で止める」ことにより不良品をつくらないこと、かつ「人を機械の番人にしない」ように生産性を向上させることをコンセプトとした「ニンベンのついた自働化」。もう一つは、「必要なものを、必要な時に、必要なだけつくったり運んだりする」ことで、物を停滞させず、全ての工場とその生産工程を流れるようにつなげる「生産工程の同期化」をコンセプトとした「ジャスト・イン・タイム」です。(トヨタ自動車HPより引用)


《参考》

コマツ:月面建設機械に地上の建設機械開発ノウハウとデジタルツイン技術を活用

建設機械・鉱山機械の大手メーカーである株式会社小松製作所(以下、コマツ)は、初めてのCES出展となりました。展示では、月面や水中の極限環境下にも対応する建設機械や、2050年カーボンニュートラルに向けた技術革新の取り組みを紹介しました。

コマツは、2021年の国土交通省による「宇宙無人建設革新技術開発」の選定を受けて以来、月面建設機械に関する研究開発に取り組んでいます。建設機械を月面環境(地球の約6分の1の重力、約-170℃から110℃までの温度変化等)に適合させるために、主に以下のアプローチで研究開発を進めています。

  • サイバー空間上に月面環境と月面建機を再現
  • 堀削などのシミュレーションを通じて車体挙動を検証
月面建設機械の実物大モックアップ
撮影:SPACE Media編集部

今回の展示は実物大モックアップですが、これまでのシミュレーションの結果を反映したものになっており、実際の機体の素材には軽量化のために炭素繊維複合材料(CFRP)や軽金属(Light Metal)を採用する想定とのことでした。また、地球上では月の環境を再現できないため、デジタルツイン技術を活用し、自動運転や遠隔操縦による土壌調査・掘削機能の搭載に向けた検証を進めているようです。


デジタルツイン技術とは

リアル(現実世界)に存在する情報・データをもとに、サイバー(仮想)空間上に現実世界と同じ環境を再現・構築する技術。近年は、宇宙産業においても、各社がその活用を模索しています。


《関連記事》

《参考》
月面建設機械や水中施工ロボットを紹介- 世界最大級のテクノロジー見本市「CES 2025」に初出展

ニコン:月面の有人探査で利用される手持ち型ユニバーサルカメラを開発

光学機器メーカーである株式会社ニコン(以下、ニコン)は、プロの写真家による新機種「Z50Ⅱ」を用いた記念撮影をはじめとして、没入型映像コンテンツやロボットビジョンシステム、車載カメラシステム、バーチャルプロダクションなどの展示を行いました。その中でも、ミラーレスカメラ「ニコンZシリーズ」の展示では、有人月面探査計画「アルテミス計画」で使用される予定の手持ち型ユニバーサルカメラが紹介されました。

アルテミス計画で使用される予定の手持ち型ユニバーサルカメラ
撮影:SPACE Media編集部

ニコンの子会社であるNikon Inc.は、アルテミス計画で使用する手持ち型ユニバーサル月面カメラの開発を目的として、2024年3月にNASAとスペース・アクト協定を締結しています。月面環境でカメラを使用するには、以下のような技術的・工学的課題を解決する必要があります。

  • 宇宙放射線による電気系統へのダメージの考慮
  • 月面の温度変化(約-170℃から110℃)に対する耐久性

これらの課題を解決すべく、カメラ内の回路と制御シーケンスを再設計し、熱真空試験をはじめとしたテスト・シミュレーションを実施しているとのことです。また、宇宙飛行士が宇宙服の分厚い手袋を着用した状態でも快適かつ簡単に操作できるようなカスタムグリップの開発や、宇宙飛行士の操作ワークフローの簡素化も進めています。さらに、宇宙から地球に画像を送信する際の効率を高め、消費電力を削減するために、カメラ内のファイル転送のための通信制御にも変更を加えています。


アルテミス計画とは

米国主導の国際協力体制のもとで、アポロ計画以来の月面への有人着陸および長期滞在を通した持続的な月探査を目的としたプログラムの総体のことを指します。2027年以降に月面に人類を送り、その後、ゲートウェイ(月周回有人拠点)計画などを通じて、月に物資を運び、月面拠点を建設、月での人類の持続的な活動をめざします。(JAXA 有人宇宙技術部門HP参照)


《関連記事》

ニコンのカメラは、過去をさかのぼると50年以上前のアポロ計画で使用されて以来、直近では2024年1月に国際宇宙ステーション(ISS)で使用されるなど、これまでも宇宙で使用されてきました。

《参考》
CES 2025 Nikon

AGC:長期の宇宙滞在に必須の酸素製造装置に応用、水電解用イオン交換膜

世界最大級のガラスメーカーであるAGC株式会社(以下、AGC)は、「Behind Every Breakthrough」をテーマに、「Next-Gen Mobility(次世代モビリティ)」、「Next-Gen Semiconductor(次世代半導体)」、「Next-Gen Energy(次世代エネルギー)」の3分野で最先端の素材・ソリューションを展示しました。

展示された素材の一つであるフッ素系イオン交換膜FORBLUETM Sシリーズは、2024年7月に、JAXAが研究開発を進める有人宇宙滞在に向けた生命維持システムの一つである酸素製造装置の試験機に採用されました。FORBLUETM Sシリーズは、二酸化炭素(CO2)を排出しないグリーン水素製造のための水分解用途として注目されており、下記の特徴を実現しています。

  • 電気抵抗が小さく消費電力を抑えることができる世界トップレベルの電圧性能
  • 水素と酸素の混和を防ぐ高いガスバリア性能により、安全かつ長時間の運転が可能
水電解用イオン交換膜FORBLUE™ Sシリーズ
撮影:SPACE Media編集部

《参考》
AGCの水電解用イオン交換膜FORBLUE™ Sシリーズ~ JAXAが有人宇宙滞在に向けて開発を進める酸素製造装置の試験機に採用

宇宙スタートアップの取り組み

日本貿易振興機構(JETRO)は、スタートアップ限定エリアにJAPANパビリオンを設置。このパビリオンには、J-Startup企業をはじめ、AIやロボティクス、VR、サステナビリティなど幅広い業界からスタートアップ31社が出展しました(出展リスト)。また、最新テクノロジーを有する企業のCES出展を支援するJAPAN TECHが誘致したエリアには、30の企業や大学などが出展しました(出展リスト)。

日本の宇宙スタートアップは2024年末時点で100社に達したと言われており、さまざまな業界・分野のスタートアップが出展したCESにも、2社の宇宙スタートアップが出展しました。

SPACE WALKER:有翼式再使用型ロケット

東京理科大学発のスタートアップである株式会社SPACE WALKERは、JAPAN TECHエリアに出展し、自社が開発する有翼式再使用型ロケット「ECO ROCKET®」について紹介しました。

SPACE WALKERのブース展示
撮影:SPACE Media編集部

同社が開発するロケットは、再使用化による海洋投棄の削減と、カーボンニュートラルな液化バイオメタン燃料を用いた宇宙への輸送の実現に向けて、現時点では2026年の有翼ロケット実験機の打上げを目指しています。また、宇宙開発による軽量化技術を転用した、地球の脱炭素に資する次世代複合材タンクの開発・製造・販売も手がけています。またCESの会場では同社のリース事業をはじめとする事業戦略に関するピッチも行われました。

《参考》
SPACE WALKER:「CES 2025」に出展いたします

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Penetrator:衛星データを用いた不動産情報プラットフォーム

JAXAベンチャーに認定されている株式会社Penetratorは、JAPANパビリオンに出展し、衛星データを活用した不動産取引支援SaaS『WHERE』について紹介しました。

従来、不動産所有情報の収集は現地調査や人脈をはじめとしたアナログな活動でしたが、『WHERE』は衛星データとAIによる画像認識、さらには登記情報システムとの連携を行うことで、瞬時に土地の所有者情報を抽出することができます。『WHERE』は2024年9月に本格リリースされ、三菱地所や三井不動産などが利用しています。

不動産取引支援SaaS『WHERE』
Credit: Penetrator

CESでは、2024年11月にリリースしたグローバル版『WHERE』を展示し、米国全土における不動産オーナーの情報取得が可能になることを紹介しました。今後はイギリス・オーストラリア・シンガポールなど、不動産取引額の大きい国を中心に展開先を増やし、グローバル市場へのアプローチを加速していくとのことです。

《参考》
JAXA発Penetrator、グローバル版『WHERE』を携えて世界最大級のテクノロジー見本市「CES2025 in Las Vegas」に初出展

宇宙産業への応用・活用の可能性

CESでの企業展示・基調講演の中から”宇宙技術・産業”に関連するものをピックアップして紹介してきましたが、ここまで紹介した以外にも多くの日本企業が出展していました。その中から、宇宙技術・産業への応用や、宇宙技術の活用による発展の可能性があるようにSPACE Media編集部が感じたサービス・プロダクトを紹介します。

KIRIN:塩味を増強する食器型デバイス「エレキソルト スプーン」

キリンホールディングス株式会社(以下、キリン)は、新規事業として取り組む食器型デバイス「エレキソルト スプーン」を展示しました。エレキソルト スプーンは、微弱な電流の力で減塩商品の塩味やうま味を増強することで、ストレスなく減塩に取り組める画期的なスプーンです。宇宙飛行士は栄養管理が厳しく、さらに宇宙環境では無重力の影響で味覚が鈍くなるとされています。味覚に刺激を与えるエレキソルト スプーンは、このような宇宙環境での食の楽しさを支えるニーズがあるのではないでしょうか。

食器型デバイス「エレキソルト スプーン」
Credit: キリンホールディングス

《参考》
キリンの新規事業「エレキソルト スプーン」が「CES Innovation Awards® 2025」の2部門で受賞

クボタ:自律的な水平維持が可能な農業機械

農業を中心とした産業機械メーカー株式会社クボタ(以下、クボタ)は、傾斜地で農作物を運搬する農機を展示しました。地面の傾斜に応じてタイヤ部分の高さを微妙に調整することで、自律的に荷台を水平に保つことができるように開発されています。月面の移動において、自律的な水平維持は重要な機能の一つといえるため、今後宇宙開発に応用される可能性もあるのではないでしょうか。

《参考》
全地形型プラットフォーム車両「KATR」が「CES Innovation Awards® 2025」で「Best of Innovation」を受賞

住友ゴム工業:タイヤセンシング技術を活用した車両や路面状況の把握

総合ゴムメーカーの住友ゴム工業株式会社は、独自のタイヤセンシング技術「センシング・コア」を紹介しました。カメラやレーザー光だけでは計測できないタイヤの状況や路面情報をセンシングすることで、リアルタイムに車両や路面状態を把握できます。近年は、高精度位置情報による交通量計測や自動車事故分析、リモートセンシング技術による車両の排気ガス検出のように、自動車業界における衛星データ活用も検討されています。タイヤセンシング技術と衛星データを組み合わせることで、新たなサービス・価値創出に発展する可能性もあることでしょう。

センシング・コアに関する住友ゴム工業ブース
撮影:SPACE Media編集部

《参考》
世界最大級のハイテク技術見本市『CES2025』に2年連続で「SENSING CORE」ブースを出展

ENEOS:CO2を分離・回収して地下に圧入・貯蓄するCCS

ENEOSホールディングス株式会社は、カーボンニュートラル社会実現に資する技術として、CO2フリーな水素供給を目指す「Direct MCH®技術」や、「合成燃料」、「潤滑油」、「CO2回収・貯留(CCS)/ CO2回収・有効利用・貯留(CCUS)」の研究開発事例などを展示しました。CO2を分離・回収して地下に圧入・貯留するCCS(Carbon dioxide Capture and Storage)や、回収したCO2を再利用するCCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization, and Storage)のような領域に関しては、CO2を圧入する場所の初期的な選定や、圧入後のモニタリングを目的として、衛星データの活用が検討される可能性もありそうです。

《参考》
CESⓇ2025に出展します!

世界中から最先端のテクノロジーが集まるCESでの各社の展示を宇宙という視点で見ることで、新しい発想やビジネスのヒントが見えてくるかもしれません。 第2回では、海外企業の宇宙関連の展示をご紹介します。

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